映画『アトミック・ブロンド』(2017年)でシャーリーズ・セロンが演じたロレーン・ブロートンの衣装は、物語の舞台である1989年の冷戦末期ベルリンの雰囲気と、彼女のスパイとしてのキャラクター性を強調するスタイリッシュで戦略的なデザインを特徴にしています。

ベルリンの壁の前でタバコを吸うロレーン・ブロートン(シャーリーズ・セロン演)。映画『アトミック・ブロンド』の一コマ。
衣装デザイナーのシンディ・エバンスは、80年代のファッションと現代的な要素を融合させ、ロレーンの強さ、セクシーさ、知性を表現しました。以下に、衣装のおもな特徴と分析をまとめます。
80年代のネオン・ノワールとファッションの融合
背景とテーマ
映画『アトミック・ブロンド』は「ネオン・ノワール」というスタイルを採用しており、暗いトーンの映像にネオンカラーが映える80年代ベルリンを背景にしています。衣装は、この時代特有の派手さと冷戦の緊張感を反映しつつ、ロレーンのミステリアスな魅力を引き立てます。
代表的な要素
レザーと光沢素材
ロレーンは黒や白のレザージャケット、トレンチコート、タイトなパンツを多用。レザーは彼女のタフさと攻撃的な一面を象徴し、光沢感が80年代のグラムロックやパンクの影響を思わせます。
モノトーンと大胆なカラー
白や黒を基調とした衣装が多いですが、赤いハイヒールやコートなど、アクセントとなる鮮やかな色がスパイとしての自信と危険性を表現。とくに赤いハイヒール(クリスチャン・ディオール製が確認されたシーンあり)は、戦闘シーンでの武器としても機能し、ファッションと実用性の両立を示します。
サイハイブーツ
スチュアート・ワイツマンのサイハイブーツは、戦闘シーンでドイツ警察を倒す際の象徴的なアイテム。セクシーでありながら実戦的な印象を与え、80年代の過激なファッションを現代的に再解釈しています。
スパイとしての機能性と戦略性
実用性と変装
ロレーンの衣装はスパイとしてのミッションを支える実用性を備えています。たとえば、トレンチコートは隠しポケットや動きやすさを考慮したデザインで、潜入や戦闘に適応。ウィッグやサングラスと組み合わせ、変装や状況に応じた変化を可能にしています。
心理効果
衣装は敵や味方を惑わせる心理的武器としても機能。ディオールの白黒セーターやマッシモ・ドゥッティのコートを着たシーンでは、洗練された外見で相手を油断させつつ、接近戦で圧倒するギャップを演出します。
ピンヒールと戦闘
ピンヒールを使った攻撃(例: 敵を蹴る、首に縄を括る)は、女性らしさと暴力性を融合させ、ロレーンの魅力を強調。衣装が単なる装飾ではなく、戦闘ツールとして活用される点は、映画のアクション哲学を象徴しています。
ブランドとデザイナーの選択
高級ブランドの活用
衣装にはクリスチャン・ディオール、ジョン・ガリアーノ、スチュアート・ワイツマン、マッシモ・ドゥッティなどの高級ブランドを使用。これらはロレーンのエリートスパイとしての地位を強調し、視覚的な豪華さを加えます。シャーリーズ・セロンがディオールの香水「ジャドール」のイメージキャラクターを務めていたこともあり、ディオールのアイテムが効果的に配置されています。
カスタムデザイン
一部の衣装は、80年代のシルエット(肩パッド、ハイウエスト)を現代風にアレンジしたカスタム品。たとえば、白いボディスーツや黒のレザーパンツは、体のラインを強調しつつ、アクション場面の動きを妨げないように設計しています。
キャラクター性とストーリーとの連動
ロレーンの二面性
衣装はロレーンの表の顔(MI6エージェント)と裏の顔(複雑な動機をもつスパイ)を反映。たとえば、洗練された白いコートはMI6のエリート性を示し、黒いレザージャケットや破れたガーターストッキングはベルリンのアンダーグラウンドでの戦いを表現しています。
場面ごとの変化
映画の進行に伴い、衣装はロレーンの状況や心理を反映して変化します。冒頭の氷風呂シーンでの傷だらけの身体と対比する華やかな衣装は、彼女の過酷な任務と外見のギャップを強調。終盤の戦闘シーンでは、よりラフで実戦的な衣装にシフトし、物語の緊迫感を高めます。
セクシャルな要素
ロレーンとデルフィーヌ(ソフィア・ブテラ)の関係性を示す場面では、薄手のブラウスやタイトなドレスが登場。バイセクシャルな要素を強調するために、衣装に意図的に挑発的かつ流動的なジェンダー表現を採用しています。この点は原作にない映画独自の解釈で、シャーリーズ・セロン自身のプロデューサーとしての意向が反映されています。
文化的・視覚的インパクト
80年代カルチャーの再現
衣装はデヴィッド・ボウイやニューロマンティックな音楽シーンを彷彿とさせる要素を取り入れ、80年代のサウンドトラック(ネーナの「99 Luftballons」など)と調和。ネオンカラーやメタリックなアクセサリーが、ベルリンのクラブ文化や反体制的な雰囲気を強めています。
女性スパイの再定義
従来の男性中心のスパイ映画(『007』など)に対し、ロレーンの衣装は女性性を武器にしつつ、ジェームズ・ボンドのようなクールさを併せもつ新しいアイコンを確立。シャーリーズ・セロンはインタビューで「衣装や美術を通じてスパイ映画に新しさをもたらした」と述べており、ファッションが物語の革新性を支えています。
具体例:象徴的な衣装シーン
白いトレンチコート(ディオール)
ベルリン到着時の場面からたびたび着用。MI6の洗練さとロレーンの自信を象徴しつつ、戦闘での動きやすさも確保。戦闘場面での白は目立つ色ですが、彼女の堂々とした態度を強調。
赤いハイヒール
戦闘で敵を倒す際に使用。ディオールのラベルが一瞬映り、ブランドの存在感を示します。ロレーンの「美しさ=武器」というテーマを体現。
彼女が車に乗っているとき、悪者をやっつけるためにあの赤いヒールを脱ぐ瞬間がある。 あれは誰がデザインしたの?――ディオールよ。私たちはできる限りポップな(色の)ものを使いたかったし、結果的に赤いヒールはとても象徴的なものになった。でも、フィッティングの時点では、あんなスタイルになるとは思っていなかった。赤、パテントレザー、白いビニールのトレンチコート。どれも80年代らしさの塊。https://www.hollywoodreporter.com/news/general-news/charlize-therons-atomic-blonde-costumes-dior-john-galliano-1023079/
黒レザージャケットとブーツ
アンダーグラウンドのクラブシーンなどで着用。パンクロックの影響を受けたデザインで、ベルリンの反体制文化に溶け込むロレーンの姿を表現。
サイハイブーツ(スチュアート・ワイツマン)
ドイツ警察とのアパートでの戦闘シーンで着用。膝上まである黒のサイハイブーツは(黒のガーターストッキングと相まって)攻撃的でセクシーな印象を与え、アクションのダイナミズムを高めます。
分析のポイント
視覚的統一性
衣装は映画全体のネオン・ノワールな美学と一致し、80年代のレトロフューチャリズムを現代的に再解釈。色彩や素材の選択が、冷戦の不安定さとロレーンのコントロールされたカオスを表現。
女性像の革新
ロレーンの衣装は、伝統的な「ファム・ファタル」像を超え、主体的で多層的な女性像を提示。セクシーさと暴力性が共存するデザインは、シャーリーズ・セロンのアクションスターとしての地位を強化。
物語との統合
衣装は単なる装飾ではなく、ストーリーやキャラクターの心理を深めるツール。たとえば、傷だらけの身体と対比する華やかな衣装は、ロレーンの内面の葛藤や任務の過酷さを間接的に示します。
結論
シャーリーズ・セロンの『アトミック・ブロンド』の衣装は、80年代のベルリンとスパイ映画の伝統を再構築し、ロレーン・ブロートンというキャラクターを視覚的に定義する重要な要素です。レザーや高級ブランド、鮮やかなアクセントカラーを通じて、彼女の強さ、セクシーさ、戦略性を表現。アクションシーンでの実用性とファッション性を両立させ、女性スパイの新たなスタンダードを築きました。シャーリーズ・セロン自身がプロデューサーとして衣装に深く関与したことで、彼女のビジョンが明確に反映され、映画のスタイリッシュな魅力の核となっています。
もし特定のシーンや衣装についてさらに詳しく知りたい場合はコメント欄からお尋ねください(^^)
[PR]おまけ
映画『アトミック・ブロンド』のロレーン・ブロートンを模しクールなビニール・フィギュア。アクションのポーズやスタイリングが他のポップとはちょっと違っていて、映画のロレーンのキャラクターの雰囲気を確実に捉えています。
レビュー 作品の感想や女優への思い