『ストリッパー殺人事件』は1971年のイタリア製ギアルロ映画。パリで活躍するストリッパーのニコール・ロチャール(演/ニエベス・ナバロ)は、宝石強盗の父が列車上で殺害されたことを知り、警察の尋問を受ける。父が盗んだダイヤモンドの行方を追う謎の男から脅迫され、彼女はイングランドの医師ロバートと共に逃亡。しかし、死の影はハイヒールの音を響かせて迫り、連続殺人事件が展開。エロティックで複雑なプロットが魅力のサスペンス。
基本情報
- 邦題:ストリッパー殺人事件
- 原題:La morte cammina con i tacchi alti
- 英題:Death walks on high heels
- 公開年:1971年
- 製作国・地域:イタリア
- 上映時間:105分
女優の活躍
本作の中心を担う女優は、ニコール・ロチャール役を演じたニエベス・ナバロ(クレジットではSusan Scott)。彼女はスペイン出身の美女で、監督のルチアーノ・エルコリの実生活のパートナーでもありました。ナバロの活躍は、物語の推進力として欠かせないもので、ストリッパーとしての妖艶なパフォーマンスから、恐怖に怯える心理描写まで、多面的に描かれています。
特に、冒頭のストリップシーンでは、彼女の身体のしなやかさと魅力が強調され、観客を即座に引き込みます。このシーンは、単なるエロティシズムではなく、彼女のキャラクターの背景—父の犯罪の遺産を背負う孤独な女性—を象徴的に表現しています。以降の展開では、脅迫者から逃れるための逃亡劇で、ナバロは絶え間ない緊張感を体現。イングランドの海辺の村でロバートと偽りの夫婦生活を送る中、彼女の表情の微妙な変化が、疑念と愛情の狭間を丁寧に伝えています。
また、クライマックスの対決シーンでは、ナバロの演技力が光ります。恐怖に駆られながらも、真相を探る積極性を見せ、受動的な被害者像を超えた強い女性像を構築。彼女の存在が、ギアルロの典型的な「美しい犠牲者」を進化させた点で、本作の価値を高めています。ナバロはエルコリ監督の他の作品でも活躍し、この映画でギアルロの女神として名を馳せました。全体として、彼女の活躍は視覚的な魅力と感情の深みを融合させ、物語のエンターテイメント性を支えています。
女優の衣装・化粧・髪型
ニエベス・ナバロの衣装は、1970年代のギアルロ映画らしいセクシーで洗練されたスタイルが特徴です。ストリッパーとしてのパフォーマンスでは、ボディペイントを施したヌードに近い衣装が用いられ、黒いフェイスメイクとアフロ風のウィッグを着用。これにより、異国情緒あふれるエキゾチックなイメージを強調し、観客の視線を釘付けにします。ウィッグは大ぶりで派手なカールがかかり、化粧は濃いアイラインと赤いリップが際立ち、妖艶さを増幅させています。
日常シーンでは、タイトなドレスやミニスカートが登場し、彼女のスレンダーなボディラインを際立たせます。特に、逃亡後のイングランドパートでは、シンプルなブラウスとスカートを基調としたカジュアルな衣装が用いられ、化粧はナチュラルに抑えられています。髪型はストレートのロングヘアが基本で、風に揺れる様子がロマンティックな雰囲気を醸し出しますが、恐怖の場面では乱れた髪が心理的な動揺を視覚的に表現。
ハイヒールはタイトル通り象徴的で、細いヒールが彼女の歩みを優雅にしつつ、死の予兆を連想させます。全体のスタイリングは、衣装デザイナーのアレハンドロ・ウルティアの功績が大きく、時代的なファッションとサスペンスの緊張を融合。化粧は常に鮮やかで、髪型はシーンごとに変化し、ナバロの多様な魅力を引き出しています。
これらの要素は、単なる装飾ではなく、物語のテーマ—美しさと危険の共存—を体現する重要な役割を果たしています。
あらすじ
物語は、パリを舞台に幕を開けます。著名な宝石泥棒エルネスト・ロチャールは、列車内で覆面の男に刺殺されます。彼の片目に眼帯を着けていた姿は、犯罪界で知られたシンボルでした。娘のニコール・ロチャールは、キャバレーの人気ストリッパーとして働いています。彼女は父の死を知り、警察の検事に呼び出されます。検事は、父が盗んだ高価なダイヤモンドの行方を尋ねますが、ニコールは何も知らないと主張します。
その夜、ニコールのアパートに青い目をした覆面の男が侵入し、ダイヤの所在を脅迫的に迫ります。恐怖に駆られたニコールは、恋人のミシェルに助けを求めますが、彼の浴室で青いコンタクトレンズを発見し、疑念を抱きます。彼女はさらに、常連客の眼科医ロバート・メイサーズに相談。ロバートは既婚者ですが、ニコールをイングランドの海辺の村にある別荘に連れていき、妻のヴァネッサのふりをして匿います。
イングランドに到着したニコールは、村の静かな生活に安堵しますが、覆面の男は追跡を続けます。まず、ミシェルが殺害され、次にヴァネッサが残虐に喉を掻き切られて死亡。事件はスコットランドヤードのインスペクター・バクスターと助手バーグソンの手に委ねられます。彼らはニコールの周囲を探り、村の住人たち—片手の男ハロリーや船長レニーなど—を疑います。
ニコール自身も疑われ、彼女はダイヤが父の隠し場所にある可能性を思い浮かべます。捜査が進む中、さらなる殺人が発生し、プロットは複雑に絡み合います。ロバートとの関係が深まる一方で、ニコールは真相に近づき、意外な裏切りが明らかになります。クライマックスでは、すべての糸が解け、犯人の正体とダイヤの秘密が暴かれます。死の足音は高跟鞋とともに、ニコールの運命を追い詰めます。
解説
「ストリッパー殺人事件」は、1971年にイタリアで製作されたギアルロ(Giallo)ジャンルの代表作の一つです。ギアルロは、ダリオ・アルジェントやマリオ・バヴァらが発展させたサスペンス・ホラーで、黄ばんだ表紙の推理小説(gialli)を起源とし、視覚的な美しさ、心理的な緊張、意外なツイストを特徴とします。本作は、ルチアーノ・エルコリ監督の第二作目にあたり、彼の妻ニエベス・ナバロを主演に据えたエロティックな要素が強い作品です。
まず、プロットの巧みさが際立ちます。脚本はエルネスト・ガスタルディとマナヘン・ヴェラスコによるもので、父の死から始まるミステリーは、赤いニシン(red herrings)と呼ばれる偽の手がかりを多用。ニコールの逃亡、イングランドでの生活、連続殺人、そして警察の捜査が並行し、観客を翻弄します。ダイヤモンドの秘密は、単なるマクガフィン(物語の推進装置)ではなく、登場人物の欲望と裏切りを象徴。犯人の正体は、予想外の人物で、ギアルロらしい「誰も信じられない」雰囲気を醸成します。
視覚スタイルでは、フェルナンド・アリバスによる撮影が秀逸です。パリのネオンライト、イングランドの霧深い海岸、暗い室内のコントラストが、緊張を高めます。特に、覆面の男の青い目やハイヒールの音は、感覚的な恐怖を喚起。ステルヴィオ・チプリアーニのサウンドトラックは、ジャジーなメロディと不気味なストリングスが融合し、エロスとサスペンスを強調します。
テーマ的には、美しさの危うさと女性の主体性を探求。ニコールは被害者として描かれつつ、積極的に真相を追う姿が、1970年代のフェミニズムの萌芽を感じさせます。一方で、エロティックなシーンは搾取的と批判される側面もありますが、当時のイタリア映画の文脈では、ジャンルの定番。エルコリは商業性を意識しつつ、ナバロの魅力を最大限に活かしました。
文化的影響として、本作はギアルロの黄金期を象徴。続編的な「午前2時の死神」(1972年)へ繋がり、ナバロの人気を確立。現代では、カルト的人気を博し、ブライアン・デ・パルマの影響源とも言われます。全体として、娯楽性が高く、複雑な謎解きを楽しめる一作です。
キャスト
- ニコール・ロチャール役:ニエベス・ナバロ(Susan Scott)
- ロバート・メイサーズ役:フランク・ウォルフ
- ミシェル・ノワール役:シモン・アンドレウ
- インスペクター・バクスター役:カルロ・ジェンティリ
- バーグソン役:ファブリツィオ・モレスコ
- ヴァネッサ・メイサーズ役:クロード・ラング
- ハロリー役:ルチアーノ・ロッシ
- 船長レニー役:ジョルジュ・リゴー
- 魚屋役:イヴ・ヴィンセント
- 検事役:ローランド・カルメル
- エルネスト・ロチャール役:ブルーノ・ガルガリオ
スタッフ
- 監督:ルチアーノ・エルコリ
- 脚本:エルネスト・ガスタルディ、マナヘン・ヴェラスコ
- 製作:ルチアーノ・エルコリ、アレクサンドル・ウォン
- 撮影:フェルナンド・アリバス
- 美術:アレハンドロ・ウルティア
- 衣装:アレハンドロ・ウルティア
- 音楽:ステルヴィオ・チプリアーニ
- 編集:アドリアーナ・ノヴォットニ
- 音響:カルロ・サンポリーニ
- 特殊効果:不明
レビュー 作品の感想や女優への思い