『ファウスト』(2011年)はロシア映画で、欲望と贖罪のテーマを探求し、権力の腐敗を描いた作品。19世紀を舞台に、知識を求める学者ファウストが悪魔のような金貸しと出会います。美しい少女グレッチェンに魅了され、魂を売る契約を結びます。ソクーロフ監督の独特な視覚スタイルが際立ちます。
基本情報
- 邦題:ファウスト
- 原題:FAUST
- 公開年:2011年
- 製作国・地域:ロシア
- 上映時間:140分
女優の活躍
『ファウスト』では、主な女優としてイゾルダ・ディチャウクがグレッチェン役を演じています。彼女はファウストの欲望の対象となる純粋で美しい少女を体現し、物語の中心的な役割を果たします。ファウストが彼女に魅了され、魂を売るきっかけとなる存在として、感情的な深みを加えています。ディチャウクの演技は、少女の無垢さと悲劇的な運命を繊細に表現し、観客に強い印象を与えます。特に、ファウストとの出会いや、兄の死後の苦悩を演じるシーンでは、彼女の存在感が光ります。
また、ハンナ・シグラが金貸しの妻役で出演しています。彼女は古く奇妙な夫人として登場し、物語に神秘的な要素を加えています。シグラの演技は、経験豊富なベテラン女優らしい深みがあり、ファウストの旅路に不気味な影を落とします。彼女のシーンは少ないものの、存在感が強く、物語の雰囲気を高めています。アンチェ・レヴァルトがグレッチェンの母役を務め、家族の悲劇を支える役割を果たします。彼女の演技は、母としての苦しみをリアルに描き、物語の感情的な層を厚くしています。
これらの女優たちは、男性中心の物語の中で重要な役割を担い、ファウストの内面的な葛藤を強調します。ディチャウクの若々しい魅力とシグラの熟練した演技が対比され、作品のテーマである欲望と腐敗を象徴的に表現しています。全体として、女優たちの活躍は、ソクーロフ監督の人間性探求に寄与しています。
女優の衣装・化粧・髪型
イゾルダ・ディチャウク演じるグレッチェンの衣装は、19世紀のドイツを思わせるシンプルで質素なドレスが中心です。白や淡い色の布地を使い、無垢さを強調しています。化粧は控えめで、自然な肌色を活かし、少女らしい純粋さを表現します。髪型はゆるく編み込んだ長い髪で、時代を感じさせるスタイルです。これにより、彼女の美しさがファウストの欲望を掻き立てる要素となっています。
ハンナ・シグラ演じる金貸しの妻の衣装は、古風で奇抜なデザインが特徴です。重厚な布地と暗い色調のドレスで、神秘的で不気味な雰囲気を醸し出します。化粧は濃く、顔を白く塗り、しわを強調して老婦人を演出します。髪型は乱れたアップスタイルで、物語のグロテスクな側面を表しています。これらの要素が、彼女のキャラクターを強調し、ファウストの世界観を深めます。
アンチェ・レヴァルト演じるグレッチェンの母の衣装は、日常的な農民風の服で、くすんだ色合いが使われています。化粧は最小限で、疲れた表情を自然に描きます。髪型はシンプルなまとめ髪で、現実的な生活感を出しています。
全体的に、女優たちの衣装・化粧・髪型は、時代背景を反映しつつ、物語のテーマを視覚的に支えています。汚れや質感がリアルで、作品の没入感を高めます。
あらすじ
物語は、19世紀のドイツを舞台に始まります。学者であるハインリヒ・ファウストは、知識の限界に悩み、死体を解剖して魂の所在を探求しています。彼の助手のヴァグナーが支える中、ファウストは「はじめに言葉ありき」と哲学します。一方、金貸しのマウリツィウスは「はじめに行為ありき」と主張し、超人思想を語ります。
ファウストはマウリツィウスと出会い、街を歩きます。浴場で美しい少女グレッチェンを見かけ、魅了されます。酒場での喧嘩で、ファウストは誤ってグレッチェンの兄ヴァレンティンを殺してしまいます。この事件が、ファウストの罪悪感を生み、物語を加速させます。
グレッチェンを象徴的な生命の源として追い求めるファウストは、マウリツィウスに魂を売る契約を結びます。血で署名し、グレッチェンを手に入れようとします。しかし、罪の意識に苛まれ、ファウストはマウリツィウスを埋め、荒野をさまよいます。物語は、欲望と贖罪の末にファウストが失われる形で終わります。
このあらすじは、ゲーテの原作を基にしつつ、ソクーロフ独自の解釈を加えています。ファウストの内面的な旅路が、視覚的に描かれます。
解説
テーマの探求
本作『ファウスト』は、ゲーテの『ファウスト』を基にした自由な解釈です。ソクーロフ監督は、権力の腐敗をテーマに据え、ファウストの物語を人間の内面的な力として描きます。これは、監督のシリーズ作品の最終章で、ヒトラー、レーニン、ヒロヒトを描いた前作と連動します。ファウストの知識欲が、欲望と魂の喪失につながる過程が、権力の危険性を象徴します。
物語では、ファウストの「言葉」とマウリツィウスの「行為」の対比が重要です。これにより、知識と行動の葛藤を探求します。ファウストは魂を探す解剖から始まり、グレッチェンへの欲望で堕落します。このテーマは、人間性の本質を問うものです。
視覚スタイル
ソクーロフのスタイルは、絵画的な美しさが特徴です。フランドルやオランダの絵画に影響を受け、灰色の調子で描かれます。デイヴィッド・テニールスやヘリ・メット・デ・ブレスを思わせる映像が、物語を豊かにします。カメラワークはダイナミックで、記憶に残るシーンが多いです。
例えば、湖に落ちるカップルのシーンは、欲望と深淵を象徴します。歪んだレンズを使ったショットは、物語の不可解さを強調します。全体的に、グロテスクで不気味な雰囲気が、ファウストの内面を反映します。
制作背景と評価
映画はチェコ、ドイツ、アイスランドで撮影され、予算800万ユーロです。ドイツ語の対話で、134分の長さです。ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞し、ロシア映画批評家ギルド賞でも複数受賞しました。批評家からは、野心的で魅力的と評価されますが、難解さも指摘されます。
ソクーロフは、文学的な興味を強調し、映画を人間理解の手段とします。本作は、伝統的なファウスト像を刷新し、新鮮なエネルギーを与えています。観客は、視覚とテーマの深みに浸れます。
キャスト
- ヨハネス・ツァイラー:ファウスト
- アントン・アダシンスキー:金貸し(メフィストフェレス)
- イゾルダ・ディチャウク:グレッチェン
- ゲオルク・フリードリヒ:ヴァグナー
- ハンナ・シグラ:金貸しの妻
- アンチェ・レヴァルト:グレッチェンの母
- フロリアン・ブリュックナー:ヴァレンティン
- シグルズル・スクーラソン:ファウストの父
- マクシム・メーメット:ヴァレンティンの友人
- エヴァ=マリア・クルツ:ファウストの料理人
スタッフ
- 監督:アレクサンドル・ソクーロフ
- 脚本:アレクサンドル・ソクーロフ、マリナ・コレネヴァ、ユーリ・アラボフ
- 製作:アンドレイ・シグレ
- 撮影:ブルーノ・デルボネル
- 編集:ヨルク・ハウスヒルト
- 音楽:アンドレイ・シグレ
- 美術:エレナ・ジュコヴァ
- 衣装:リディア・クリロヴァ
- 特殊効果:カミル・ヤファル、エッゲルト・ケティルソン
- 視覚効果:トゥオモ・ヒンティッカ



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