『新怪物たち』(I nuovi mostri)は、1977年公開のイタリア式コメディのオムニバス映画。マリオ・モニチェリ、ディーノ・リージ、エットーレ・スコラが監督を務め、14の短編で構成。人間の愚かさや社会の闇を風刺し、第52回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた。
基本情報
- 邦題:新怪物たち
- 原題:I nuovi mostri
- 公開年:1977年
- 上映時間:115分
- 製作国:イタリア
- 言語:イタリア語
あらすじ
『新怪物たち』は、1977年に公開されたイタリアのオムニバス映画で、14の短編からなるコメディ作品です。マリオ・モニチェリ、ディーノ・リージ、エットーレ・スコラの3人の名監督が手がけ、1963年の『怪物たち』の続編として製作されました。各エピソードは、イタリア社会の中流階級の人間の愚かさ、悪徳、偽善を鋭く風刺し、1970年代の「鉛の時代」と呼ばれる社会背景を反映しています。以下に主要なエピソードの概要を紹介します。
- L’uccellino della Val Padana(エットーレ・スコラ監督):歌手を目指す女性が、彼女を利用するマネージャーに翻弄される物語。人間関係の搾取を描く。
- Con i saluti degli amici(ディーノ・リージ監督):マフィアの抗争を背景に、裏切りと復讐が交錯するブラックユーモア。
- Tantum Ergo(ディーノ・リージ監督):宗教的偽善をテーマに、聖職者の裏の顔を暴く。
- Autostop(マリオ・モニチェリ監督):ヒッチハイクを装った犯罪が展開され、予想外の結末が待つ。
- Il sospetto(エットーレ・スコラ監督):疑心暗鬼に陥る男の滑稽な行動を描く。
- First Aid – Pronto soccorso(マリオ・モニチェリ監督):医療現場の混乱と無責任さを風刺。
- Mammina e mammone(ディーノ・リージ監督):過保護な母親と息子の異常な関係をユーモラスに描く。
- Cittadino esemplare(エットーレ・スコラ監督):模範市民の裏に隠された本性を暴く。
イタリア国内での公開時には、一部のエピソードが過激と見なされ、約28分がカットされた87分の短縮版も上映されました。オリジナル版は約115分です。
女優の活躍
本作では、ヴィットリオ・ガスマンやウーゴ・トニャッツィといった男性俳優が主役を務めるエピソードが多いものの、女性俳優も重要な役割を果たしています。特に注目すべきは、オルネラ・ムーティとラウラ・アントネッリです。
- オルネラ・ムーティ:若くして美貌と演技力で知られたムーティは、『Autostop』でヒッチハイクをする女性役を演じ、危険な状況での感情の揺れを見事に表現。彼女の存在感は、エピソードの緊張感を高め、観客を引き込みます。
- ラウラ・アントネッリ:『L’uccellino della Val Padana』で歌手を目指す女性を演じ、搾取される弱い立場ながらも人間味あふれる演技で観客の共感を誘います。彼女の繊細な表現は、物語の悲喜劇的な要素を強調。
両女優ともに、イタリア映画界で当時既に高い評価を受けており、本作でも短い出演時間ながら強い印象を残しました。彼女たちの演技は、男性中心の物語に女性の視点や感情を織り交ぜ、作品に深みを加えています。
女優の衣装・化粧・髪型
1970年代のイタリア映画らしい、時代の空気を反映した衣装、化粧、髪型が本作の女優たちに採用されています。以下に詳細を述べます。
- オルネラ・ムーティ:『Autostop』でのムーティは、1970年代の若者らしいカジュアルな服装が特徴。ジーンズやシンプルなトップスに、ナチュラルメイクを施し、自然体の美しさを強調。髪型はルーズなウェーブで、自由奔放な雰囲気を演出。彼女の衣装は、ヒッチハイクという設定に合わせて動きやすく、庶民的な印象を与えます。
- ラウラ・アントネッリ:『L’uccellino della Val Padana』では、歌手を目指す女性らしく、華やかなドレスやステージ衣装が登場。化粧は、アイラインや口紅を強調したグラマラスなスタイルで、1970年代のイタリア女性のトレンドを反映。髪型はボリュームのあるカールやアップスタイルで、舞台映えするデザインが採用されています。
衣装や化粧は、各エピソードのキャラクター設定や社会的背景を反映しており、1970年代イタリアの文化や流行を視覚的に伝える重要な要素となっています。特に、女性キャラクターの衣装は、物語の風刺的なトーンを補完しつつ、視覚的な魅力も提供しています。
解説
『新怪物たち』は、1963年の『怪物たち』の続編として製作され、イタリア社会の闇や人間の愚かさを風刺するコメディとして高い評価を受けました。1970年代のイタリアは、「鉛の時代」と呼ばれるテロリズムや政治的混乱の時期であり、本作はその社会的不安や道徳の崩壊を背景に、日常の中の異常性を描き出します。各エピソードは独立していますが、共通のテーマとして人間のエゴイズムや偽善、権力の濫用が浮き彫りにされます。
監督たちの個性が作品に色濃く反映されています。モニチェリのエピソードは社会批判が鋭く、リージはブラックユーモアを強調、スコラは人間ドラマに重点を置いています。この多様なアプローチが、作品全体に豊かなテクスチャーを与えています。また、本作は第52回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされ、国際的にも注目されました。
日本では劇場公開が限定的で、DVDなどのビデオグラムも2010年時点で発売されておらず、入手が難しい作品です。しかし、イタリア文化会館などでの上映を通じて、一部の映画ファンに愛されています。現代の観点から見ても、普遍的な人間の弱さを描いた本作は、時代を超えて共感を呼びます。
キャスト
- ヴィットリオ・ガスマン:複数のエピソードで主演。コミカルかつシニカルな演技で人間の二面性を表現。
- ウーゴ・トニャッツィ:ガスマンと並び、多くのエピソードで活躍。軽妙な演技で作品のユーモアを牽引。
- オルネラ・ムーティ:『Autostop』でヒッチハイクの女性役を演じ、若々しい魅力と演技力を発揮。
- ラウラ・アントネッリ:『L’uccellino della Val Padana』で搾取される歌手役を情感豊かに演じる。
- アルベルト・ソルディ:一部エピソードで登場し、独特の存在感で物語に深みを加える。
スタッフ
- 監督:マリオ・モニチェリ、ディーノ・リージ、エットーレ・スコラ
- 製作:ピオ・アンドレッティ、アドリアーノ・デ・ミケーリ
- 製作会社:ディーン・フィルム
- 脚本:アージェ・スクルペッタ、ベルナルディーノ・ザッポーニ他
- 撮影:トニーノ・デリ・コリ
- 音楽:アルマンド・トロヴァヨーリ
- 編集:アルベルト・ガリッティ
レビュー 作品の感想や女優への思い