『罪(immorale)石田えり写真集』は1993年3月に講談社から刊行された石田えりさんのヘアヌード写真集。世界的な巨匠ヘルムート・ニュートン氏がパリで撮影を担当し、FRIDAY DELUXEシリーズの一冊として発行されました。全98ページの大型本で、タイトルはイタリア語の「immorale」(非道徳の)に由来し、女性の肉体美と内面的な罪のテーマを探求しています。当時33歳の石田さんの凛とした表情と大胆なポーズが特徴で、発売直後から大きな話題を呼び、ヘアヌードブームの象徴となりました。
解説
1990年代初頭の日本では、ヘアヌード写真集が一大ブームを巻き起こしていました。そんな中、女優の石田えりさんが発表した『罪(immorale)』は、ただのヌード写真集ではなく、芸術性と社会性を兼ね備えた画期的な一冊として位置づけられます。
撮影を手がけたのは、20世紀を代表するファッションフォトグラファー、ヘルムート・ニュートン氏。彼の作品は、女性の身体を力強く、時には挑発的に描くことで知られ、『ヴォーグ』や『Harper’s Bazaar』などの雑誌で革新的なスタイルを確立していました。ニュートン氏の視点は、単なる美の追求ではなく、権力、セックス、フェティシズムといったテーマを織り交ぜ、観る者に深い問いを投げかけます。この写真集でも、石田えりさんの肉体は、黒を基調とした劇的な照明の下で、力強いシルエットとして浮かび上がります。
石田えりさんは、1970年代にデビュー以来、映画『遠雷』で日本アカデミー賞を受賞するなど、演技力で知られる女優でした。しかし、ヘアヌードブームの時代にあって、彼女は安易な商業主義に流されず、ニュートン氏とのコラボレーションを選択します。これは、当時のインタビューで明らかになるように、「世界一の写真家とだったら」との強い意志によるものでした。
撮影はパリで行われ、ニュートン氏のスタジオで数日間にわたり進められました。石田さんは全裸でポーズをとりながら、ニュートン氏の指示に従い、時にはテーブルに覆いかぶさるような大胆な構図に挑戦。フィルム撮影特有の一期一会の緊張感が、作品の迫力を生み出しています。
- 表紙の凛とした石田さんの視線は、観る者を即座に引き込み、非道徳のテーマを象徴します。
- 内部の写真は、モノクロとセピア調の色使いが肌の質感を強調し、芸術的な深みを加えています。
- 特に、乳房が圧迫されるシンメトリーの構図は、ニュートン氏のフェティシ要素を体現し、女性の身体の多面性を表現。
- 全体として、淫靡さや健康的ヌードの枠を超え、セレブな大人の遊び心を感じさせる独特の雰囲気が漂います。
- 発売当時、世間を驚かせ、回収騒動の噂も立ったほどですが、結果として女性の自己表現をポジティブに変えるきっかけとなりました。
この写真集の意義は、単なるヌードの公開にとどまらず、石田えりさんのキャリアにおける転機でもありました。デビュー以来、セックスシンボルとして見なされ、セクハラ被害に苦しんだ彼女にとって、ヘルムート・ニュートン氏のレンズは解放のツールとなりました。
彼の言葉「あなたは美しい」が、石田さんの自信を回復させたのです。批評家からは、フィルムの質感がデジタル時代に失われたアナログの魅力を思い起こさせると評価されています。
また、FRIDAY DELUXEシリーズの豪華な造本も、作品のプレミアム感を高め、中古市場でも高値で取引される人気を維持しています。今日、30年以上経った今も、『罪』は女性の身体と精神の複雑さを問い続ける不朽の名作です。石田さんの大胆さとニュートン氏の視覚言語が融合したこの一冊は、写真集史に残る金字塔と言えるでしょう。
石田えり本人の談話
当時のヘアヌードブームで、多くのオファーが来ました。でも、私は決めていました。せっかくやるなら、世界一の写真家、ヘルムート・ニュートンさんと一緒にやりたい、と。事務所の人から「ニュートンさんがあなたに会いたい、パリに行けますか?」と連絡が来た時は、心臓が飛び出るほど興奮しました。すぐに「ヘルムート・ニュートンとだったらやります」と返事しましたよ。あの人は、私の憧れの人でしたから。
パリに着いてスタジオに入ると、ニュートンさんは穏やかで、でも鋭い目で私を見つめました。「あなたは美しい。自然に振る舞って」と一言。緊張が解けました。撮影は3日間、全裸でポーズをとりましたが、彼の指示は的確で、決して下品になりませんでした。テーブルに覆いかぶさるショットでは、身体が圧迫されて痛かったけど、それが芸術になるんです。フィルムのシャッター音が響くたび、生きている実感が湧きました。
デビューから15年、セックスシンボルとして見られることに疲れ果てていました。世の中を恨んで、外出も怖かったんです。セクハラの視線がいつもまとわりついて。でも、この撮影でニュートンさんの言葉が胸に刺さりました。「君の身体は力強い。罪などない」。それで、初めて自分の裸を肯定できました。『罪』というタイトルは、彼が提案したんです。immorale、非道徳の。でも、私にとっては、抑圧からの解放の象徴。発売後、話題になりましたが、批判も多かったです。家族やファンに申し訳ないと思ったけど、後悔はありません。むしろ、女性として自信を持てました。
- 撮影中、ニュートンさんは冗談を交えながら、「もっと大胆に!」と笑わせてくれました。あのユーモアが、緊張を和らげました。
- ポーズ一つ一つに、ニュートンさんの哲学を感じました。女性をオブジェクト化せず、主役として描くんです。
- 帰国後、鏡を見るのが少し楽になりました。自分の身体を、初めて愛おしく思えました。
- 今振り返ると、あの経験が後の監督業につながっています。身体表現の深さを学べました。
- 若い女優さんたちに伝えたい。ヌードは罪じゃない。自分を信じて、表現する勇気を持って。
最近、56歳でまた写真集を出しましたが、『罪』の記憶は鮮明です。ニュートンさんは2004年に亡くなりましたが、彼のレンズは永遠に私の中にあります。この作品は、私の人生の転機。女性の内なる罪を、優しく解きほぐす一冊になったと思います。皆さんも、ぜひ手に取ってみてください。きっと、何かを感じるはずです。
レビュー 作品の感想や女優への思い