オピオイド危機(Opioid epidemic または Opioid crisis)とは米国で1990年代からオピオイド系鎮痛剤の乱用により依存症や過剰摂取死が急増した公衆衛生上の非常事態。60万人以上が死亡、製薬会社の責任も問われている。ここではオピオイド危機の解説、経緯、取り上げた映画を紹介。
解説
オピオイド危機とは、アメリカ合衆国を中心に、医療用鎮痛剤であるオピオイドの乱用によって引き起こされた深刻な健康危機を指します。
オピオイドは、ケシから採取されるアルカロイドやその合成化合物で、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなどが含まれます。これらは強力な鎮痛作用を持ち、がん患者の疼痛管理や手術後の痛み緩和に有効ですが、依存性が高く、誤った使用や過剰摂取により命を落とすリスクがあります。
米国では、1990年代以降、医師による過剰な処方や製薬会社の積極的なマーケティングにより、オピオイドが広く普及しました。その結果、依存症患者が増加し、過剰摂取による死亡者が急増。2017年にはトランプ政権下で「公衆衛生上の非常事態」が宣言されるに至りました。死亡者数は2015年に約3万3千人、2021年には8万人を超えると推定され、社会的・経済的影響も甚大です。
特に、ラストベルトと呼ばれる地域では、経済的困窮や失業率の上昇が危機を悪化させ、「絶望の薬」とも称されるオピオイド依存が広がりました。製薬会社、特にパーデュー・ファーマは、オキシコンチンの安全性を過剰に宣伝し、危機を助長したとして訴訟を受けています。この危機は、医療システム、規制当局、製薬業界の構造的問題を浮き彫りにしています。
経緯
オピオイド危機の起源は、1990年代に遡ります。この時期、医療界では慢性的な疼痛を積極的に治療する動きが強まり、患者の「痛み」を軽視しない方針が広まりました。
1996年、パーデュー・ファーマがオキシコンチンを発売し、「依存性が1%未満」との誤った情報を基に積極的な販売戦略を展開しました。医師へのマーケティングや無料サンプルの提供により、処方箋が急増。1999年から2010年にかけて、オピオイドによる死亡者は4千人から1万6千人に増加し、2015年には3万3千人に達しました。
2017年、トランプ大統領は国家非常事態を宣言し、フェンタニルなど違法オピオイドの流入防止や治療アクセスの向上を目指す「SUPPORT法」を成立させました。しかし、コロナ禍でストレスや孤立感が増加し、2020年には死亡者が6万9千人に急増。
パーデュー・ファーマは2020年に83億ドルの和解案で有罪を認めましたが、州や個人による訴訟は続き、責任追及が進行中です。危機の背景には、医療サービスの競争激化、規制の緩さ、経済格差が複雑に絡み合い、解決には包括的な対策が必要です。
取り上げた映画
DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機(2021年、ディズニープラス)
このドラマシリーズは、パーデュー・ファーマのオキシコンチン販売とオピオイド危機の拡大を描いた実話に基づく作品です。バージニア州の小さな町を舞台に、医師、患者、製薬会社の営業マン、司法関係者の視点から、危機の背景と影響を詳細に描きます。特に、製薬会社の無責任なマーケティングや、依存症に苦しむ人々の人間ドラマに焦点を当て、社会問題の根深さを浮き彫りにします。マイケル・キートン主演で、批評家から高い評価を受けています。
The Pharmacist(2020年、Netflix)
このドキュメンタリー番組は、ルイジアナ州の薬剤師ダン・シュナイダーが、息子のオピオイド過剰摂取による死をきっかけに、危機の原因を追及する姿を描きます。シュナイダーは、過剰処方を行う医師や薬局の不正を暴き、地域社会でのオピオイド乱用の実態を明らかにします。個人的な悲劇から社会問題に立ち向かう姿は感動的で、危機の構造的問題を理解するのに役立ちます。
ビューティフル・ボーイ(2018年、映画)
スティーヴ・カレルとティモシー・シャラメ主演のこの映画は、ジャーナリストのデビッド・シェフとその息子ニックの実話に基づく物語。ニックの薬物依存症(オピオイドを含む)と、家族がその影響にどう向き合うかを描き、危機の個人的な影響を強調します。依存症の苦しみと回復の困難さをリアルに描写し、観客に感情的な共感を呼び起こします。
ペイン・ハスラーズ2023年、Netflix)
オピオイド危機を題材にした映画です。エミリー・ブラント主演で、製薬会社のセールス担当者がオピオイド販売に関与し、危機の深刻さに直面する姿を描きます。実話に基づき、製薬業界の倫理的問題と個人の葛藤をリアルに描写。危機の構造と人間ドラマを浮き彫りにします。
LAZARUS ラザロ(2024年、MAPPAによるTVアニメ)
MAPPA制作のアニメで、オピオイド危機をモデルにしたフィクション作品です。渡辺信一郎監督によるこの作品は、危機をSF的な視点で描き、人類に対するメッセージを込めています。オピオイド危機の社会的な影響を間接的に扱い、独自の芸術的アプローチで問題を浮き彫りにします。
レビュー 作品の感想や女優への思い