1964年に公開された日本映画『肉体の盛装』は、京都の宮川町を舞台に、芸者一家の姉妹の運命を描いた女性ドラマ。売れっ子芸者の姉・君蝶は、金のためなら手段を選ばないドライな性格で、一家の支柱となります。一方、妹の妙子は市役所勤めで実直に生き、恋人と結婚を目指します。母の過去の因縁や家族の借金が絡み、君蝶の誘惑と復讐が物語を駆動します。新藤兼人の原作を基に、華やかな花街の裏側をねっとりと描きます。
基本情報
- 邦題:肉体の盛装
- 製作年:1964年
- 製作国・地域:日本
- 上映時間:87分
女優の活躍
『肉体の盛装』では、主演の佐久間良子さんが君蝶役を務めます。佐久間良子さんは、売れっ子芸者として家族の生活を支える一方で、金のためなら他人の男を奪うほどの行動力と頭脳を備えた女性を熱演します。彼女の活躍は、物語の中心を成しており、家族を守るための冷徹な判断と、母や妹への愛情深い対応が対比的に描かれます。例えば、妹の結婚相手の養母への復讐として、相手の旦那を誘惑するシーンでは、佐久間良子さんの妖艶さと計算高さが際立ちます。また、過去の恋人から刺されるクライマックスでは、恐怖と後悔の表情を細やかに表現し、観客に強い印象を残します。佐久間良子さんは、この役を通じて、芸者という職業の負い目を抱えつつ、人情や義理を理解した常識ある女性像を体現します。彼女の演技は、オリジナル版の京マチ子さんを思わせる品の良さとエゲツなさを併せ持ち、家族の柱として飛ばす活躍が本作の魅力です。
もう一人の主要女優である富司純子さん(藤純子さん)は、妙子役を演じます。富司純子さんは、市役所に勤める実直で清純な妹として、姉の君蝶とは対照的なキャラクターを鮮やかに描きます。彼女の活躍は、恋人である孝次との純粋な恋愛模様を中心に展開し、家族の複雑な事情に巻き込まれながらも、自分の幸せを追求する姿が感動を呼びます。例えば、母の過去の因縁から結婚を反対される中、姉の助けを借りて東京へ駆け落ちする決断では、富司純子さんの内面的な葛藤と決意がよく表れます。富司純子さんは、この役で姉の影に隠れがちな妹の存在を際立たせ、物語に清涼感を与えます。彼女の自然な演技は、姉のドライさに対するバランスを取っており、本作の人間ドラマを豊かにします。
また、丹阿弥谷津子さんが母・きく役を務めます。丹阿弥谷津子さんは、芸者から足を洗った女将として、家族の絆を繋ぐお人好しの母親を演じます。彼女の活躍は、息子の借金工面や娘たちの生活を支える苦労を中心に描かれ、過去の恋愛の因縁が物語の伏線となります。丹阿弥谷津子さんの穏やかで包容力のある演技が、家族の中心として機能します。
さらに、岩本多代さんが芸者・福弥役で、肺病に苦しむ姿を情感豊かに表現します。彼女の活躍は、家族の経済的負担を象徴し、君蝶の金策を促す重要な役割を果たします。楠田薫さんが千代役で、きくの過去のライバルとして毒々しい演技を見せ、物語に緊張感を加えます。
これらの女優さんたちの活躍は、互いに絡み合い、花街の女性たちの複雑な人間関係を深く描き出します。佐久間良子さんをはじめとする女優さんたちの熱演が、本作の成功の鍵です。
女優の衣装・化粧・髪型
佐久間良子さんが演じる君蝶の衣装は、主に華やかな着物が中心です。芸者としての一流らしい絢爛な柄の着物が多く、赤や金色のアクセントが彼女の妖艶さを強調します。例えば、伊勢浜を誘惑するシーンでは、華美な振袖が体を包み、動きに合わせて優雅に揺れます。これにより、君蝶の計算高さと美しさが視覚的に表現されます。化粧については、白粉を厚く塗った伝統的な芸者メイクが施され、赤い唇と強調された目元が冷徹な表情を引き立てます。髪型は、島田髷のようなアップスタイルで、簪を挿した洗練された形が、花街のプロフェッショナルさを表します。このスタイルは、佐久間良子さんの太めの体型と相まって、京マチ子さんを思わせるクラシックな美を醸し出します。
富司純子さんが演じる妙子の衣装は、市役所勤めの現代的な女性らしく、白いワンピースやシンプルなスカートが多用されます。特に、縁側に立つシーンでは、白いワンピースが暗闇と坪庭の緑に浮かび上がり、清純さを象徴します。これにより、姉の華やかな着物との対比が際立ちます。化粧は薄くナチュラルで、日常的なオフィスレディらしい控えめなメイクが、妙子の実直さを強調します。髪型は、肩までのボブや軽くまとめたスタイルで、現代風のシンプルさが恋愛シーンで自然さを生みます。
丹阿弥谷津子さんが演じるきくの衣装は、女将らしい落ち着いた着物です。地味めの色調の着物が、過去の芸者生活を思わせつつ、家族の苦労を反映します。化粧は年齢相応の穏やかな白粉使いで、優しい表情を助けます。髪型は、まとめ髪のシンプルなスタイルが、母親らしい包容力を表します。
岩本多代さんが演じる福弥の衣装は、病床につく芸者として薄い着物が用いられ、弱々しさを強調します。化粧は青白く薄く、髪型は乱れたアップで、病気の苦しみを視覚化します。楠田薫さんが演じる千代の衣装は、裕福な夫人らしい上品な着物で、毒々しい性格を際立たせます。
これらの衣装・化粧・髪型は、伝統的な日本家屋の空間と調和し、物語の時代背景を豊かに彩ります。全体として、花街の華やかさと日常の対比が、女優さんたちの視覚的な活躍を支えています。
あらすじ
京都の宮川町、静乃家の女将きくは、かつての恋人渡辺との間に生まれた娘たちと暮らします。姉の君蝶は一流の芸者として一家の柱となり、金勘定を優先するドライな性格です。妹の妙子は市役所に勤め、同じ職場の孝次と恋仲で結婚を望みます。
しかし、孝次の養母千代は、きくの過去の因縁から反対します。一方、きくの息子秀雄が借金を抱え、きくは家を抵当に入れて工面します。これにより、君蝶はさらに金策に奔走します。芸者の福弥が喀血して倒れ、君蝶の負担が増します。君蝶は千代の旦那伊勢浜を誘惑し、二十万円をせしめ、温習会のスポンサーとします。
福弥が亡くなり、通夜を欠席して伊勢浜と会う君蝶ですが、過去の恋人山下に刺されます。回復した君蝶は、妙子と孝次の駆け落ちを見送り、幸せを祈ります。この物語は、家族の絆と金銭の現実が交錯するドラマです。
解説
本作『肉体の盛装』は、1964年に東映で製作された女性ドラマです。新藤兼人さんの原作『偽られる盛装』を基に、新藤さん自身が脚色を担当し、村山新治監督がメガホンを取りました。
この作品は、1951年の吉村公三郎監督版『偽れる盛装』のリメイクとして位置づけられ、京都の花街を舞台に、芸者一家の人間模様をねっとりと描きます。
テーマは、戦後日本の女性たちの生き様と、金銭・欲望の絡み合う現実です。君蝶のドライな性格は、金の切れ目が縁の切れ目という花街の厳しさを象徴し、家族愛と復讐の狭間で揺れる心理が深く掘り下げられます。
監督の村山新治さんは、空間の描写にこだわり、伝統的な日本家屋の襖、障子、坪庭を活用した構図が特徴です。例えば、座敷の光源の違いを活かしたショットは、人物の感情を視覚的に強調します。また、季節外れの風鈴やタバコをふかす女中のシルエットが、叙情的な雰囲気を生み出します。このような演出は、日本映画の美学を体現し、観客にゾクゾクする緊張感を与えます。
佐久間良子さんの君蝶は、オリジナル版の京マチ子さんを思わせる演技で、太めの体型とメイクがクラシックな魅力を発揮します。一方、富司純子さんの妙子は、清純さを加え、姉妹の対比が物語の深みを増します。本作は、芸者という職業の華やかさと裏側の苦労を、女性の視点から描き、男の嘘に対する女の嘘というテーマを追求します。
公開当時の社会背景として、戦後復興期の京都の風俗が反映され、祇園と宮川町の格式の違いが因縁を生む設定がリアリティを高めます。クライマックスの刺傷シーンは、無表情の西村晃さんの迫力で緊張を極め、君蝶の回復後の幸せの祈りが感動を呼ぶ終わり方です。
この作品は、新藤兼人さんの脚本の洗練さと、村山監督のスタイルが融合した傑作で、日本映画の楽しさを再認識させます。全体として、欲望と人間関係の複雑さを、87分の尺で凝縮した内容です。
キャスト
- 君蝶:佐久間良子
- 妙子:富司純子
- きく:丹阿弥谷津子
- 福弥:岩本多代
- とんぼ:新井茂子
- 千代:楠田薫
- 孝次:江原真二郎
- 伊勢浜:山茶花究
- おとき:赤木春恵
- 友香:岩崎加根子
- 渡辺秀雄:新井和夫
- 藤尾:村瀬幸子
- 山下:西村晃
- 笠間:南都雄二
- 雪子:安城百合子
- 福寿楼の仲居:谷本小夜子
- 飯焚きの婆さん:関田千栄子
- 仲居A:山本緑
- 仲居B:伊藤慶子
- 女将A:西智子
- 女将B:香月三千代
- 菊亭の女中:八百原寿子
- 按摩:多騎由郎
- 福寿楼の女将:進藤幸
- 鮒吉の仲居:小林テル
- 看護婦:杉正子
スタッフ
- 監督:村山新治
- 脚色:新藤兼人
- 原作:新藤兼人
- 企画:吉野誠一、矢部恒
- 撮影:坪井誠
- 美術:進藤誠吾
- 音楽:池野成
- 録音:広上益弘
- 照明:神谷興一
- 編集:田中修
- スチール:藤井善男


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