王立演劇学校(Royal Academy of Dramatic Arts/RADA)は、1904年に設立されたイギリスの名門演劇学校。ロンドンのブルームズベリー地区に位置し、俳優、監督、舞台デザイナーなどのクリエイティブな人材を育成します。国王チャールズ3世をパトロンとし、卒業生にはヴィヴィアン・リーやアンソニー・ホプキンスなどの世界的スターが名を連ねます。厳格なトレーニングを通じて、革新的な演劇教育を提供し続けています。
歴史
王立演劇学校の歴史は、20世紀初頭のイギリス演劇界の変革期に遡ります。1904年、著名な俳優兼劇場マネージャーであるサー・ハーバート・ビアボーム・ツリーによって設立されました。当初はヘイマーケット劇場に置かれ、ツリーのヒズ・メジャスティズ・シアターの内部学校としてスタートしました。彼は、演劇教育を体系化し、単なる即興演技ではなく、包括的なトレーニングを必要とするという信念のもと、この学校を創設したのです。ツリーのビジョンは、演劇をより洗練された芸術形式に高めるものであり、学校はすぐにその役割を果たすようになりました。
設立直後から、RADAは急速に成長を遂げました。1905年には正式に独立した機関となり、学生数は増え続けました。第一次世界大戦中も教育活動を継続し、戦後の1920年代には、演劇ブームの波に乗り、さらに発展しました。この時期、学校は王室の支援を受け始め、1920年にジョージ5世国王から「ロイヤル」の称号を授与されました。これにより、王立演劇学校の名が世界的に知れ渡る基盤が築かれました。
1930年代から1940年代にかけて、RADAは第二次世界大戦の影響を受けつつも、革新的なカリキュラムを導入しました。戦時中は避難を余儀なくされましたが、戦後には急速に復興。著名な講師陣を招き、シェイクスピア劇の徹底した解釈や、現代演劇の探求を強調しました。この時代に卒業した学生たちは、戦後のイギリス演劇復興に大きく寄与しました。例えば、ヴィヴィアン・リーのようなスターが誕生し、学校の名声を高めました。
1950年代以降、RADAは国際的な影響力を強めました。1960年代のカウンターカルチャー運動の影響を受け、伝統的な演技法に現代的な要素を融合させる試みがなされました。1970年代には、女性の参加が増え、多様性が促進されました。また、1980年代には、映画とテレビの台頭に対応し、スクリーン演技のコースを拡充。1990年代に入り、デジタル技術の導入により、教育環境が近代化されました。
21世紀に入ってからも、RADAは進化を続けています。2001年、ロンドン・コンテンポラリー・ダンス・スクールと提携し、英国初のダンス・アンド・ドラマ・コンサヴァトワール(CDD)を設立しましたが、2019年に独立高等教育機関となりました。現在はキングス・カレッジ・ロンドンと連携し、学位プログラムを提供しています。COVID-19パンデミック時にはオンライン教育を活用し、柔軟性を示しました。今日、RADAは単なる演劇学校ではなく、社会的包摂を推進する機関として、若手障害者向けワークショップや学校向けシェイクスピア・ツアーを展開しています。設立から120年以上経った今も、RADAはイギリス演劇の中心として輝き続けています。
教育
RADAの教育プログラムは、世界最高水準の職業訓練として知られています。学校は、基礎コースから大学院レベルまで、多様なカリキュラムを提供し、各学生の潜在能力を引き出すことを重視しています。すべてのプログラムは、キングス・カレッジ・ロンドンによって検証され、卒業生は同大学の芸術・人文科学部の一員として学位を取得します。これにより、伝統的な演劇教育と学術的な深みが融合した独自のシステムが実現しています。
基礎コースとして、1年間のファウンデーション・コースがあります。これは、演劇に興味を持つ初心者向けで、演技の基礎、声楽、身体表現、舞台技術を幅広く学びます。入学試験は厳格で、即興演技やモノローグ朗読を通じて適性を評価します。このコースは、自信を築き、さらなる進学への橋渡し役となります。修了生の多くが、本格的な学位プログラムに進みます。
学部レベルの中心は、3年間のBA(Hons) in Actingです。このプログラムは、RADAのコア教育であり、徹底した実践トレーニングを特徴とします。1年目は基礎固めで、シェイクスピアや古典劇の解釈、声のコントロール、身体の動きを学びます。2年目は専門化し、現代劇やフィルム演技を追加。3年目はプロダクション中心で、実際の公演を通じて経験を積みます。クラスは少人数制で、著名な講師陣が個別指導を行います。また、RADAの5つの劇場やシネマ、衣装工房などの施設をフル活用し、プロフェッショナルな環境を提供します。
大学院プログラムには、MA in ActingやMA in Text & Performanceがあります。前者は上級演技トレーニングで、国際的なキャリアを目指す学生向け。後者はテキスト分析とパフォーマンスを組み合わせ、監督や脚本家志望者に適しています。これらのコースは、1年間の集中型で、業界とのネットワークを強化します。さらに、短期コースやマスタークラス、サマー・スクールも充実しており、アンソニー・ホプキンスやエマ・ワトソンなどの著名人が参加した実績があります。これらは、プロの俳優がスキルを磨く場として人気です。
RADAの教育哲学は、好奇心と社会的意識を育むことにあります。単に技術を教えるだけでなく、多文化理解や持続可能な演劇を強調します。アウトリーチ活動として、ユース・カンパニーや障害者向けアクセシビリティ・ワークショップを実施。RADAシェイクスピア・アワードは、二次学校の生徒を対象に演劇参加を奨励します。これらの取り組みにより、学校は多様なバックグラウンドの学生を歓迎し、業界の包摂性を高めています。
入学プロセスは競争率が高く、毎年数千の応募から数十名を選抜します。オーディションは複数回にわたり、心理的な強靭さを試します。授業料は高額ですが、奨学金制度が充実しており、経済的障壁を低減します。卒業生の就職率は90%以上で、ウエストエンドやハリウッドで活躍する者が多いです。RADAの教育は、生涯続く学びの基盤を提供し、卒業後も継続的なサポートを行います。
出身女優
RADAの卒業生には、数多くの傑出した女優がいます。これらの女性たちは、学校の厳しいトレーニングを活かし、舞台、映画、テレビで輝かしいキャリアを築きました。以下に、主な出身女優を挙げ、それぞれの功績を丁寧に紹介します。
- ヴィヴィアン・リー:1913年生まれのイギリス人女優。RADAで学んだ後、『風と共に去りぬ』(1939年)でスカーレット・オハラ役を演じ、アカデミー賞主演女優賞を受賞。『欲望という名の電車』でも同賞を獲得し、ハリウッドの伝説となりました。彼女の繊細な感情表現は、RADAの声楽と身体トレーニングの賜物です。
- エマ・ワトソン:1990年生まれのイギリス人女優。RADAの短期コース参加後、『ハリー・ポッター』シリーズでハーマイオニー役。国連親善大使としても活躍。RADAの社会的意識教育が、彼女の活動に反映されています。
- マギー・ジレンホール:1976年生まれのアメリカ人女優。RADA短期受講。『ダークナイト』や『クレイジー・ハート』でアカデミー賞ノミネート。RADAのフィルムテクニックが、ハリウッドでの成功を後押ししました。
- デボラ・アン・ウォール:1985年生まれ。米国の女優で、シェイクスピアの集中プログラムに参加。
- ジョーン・コリンズ:1933年生まれのイギリス人女優。16歳でRADAに入学。『ダイナスティ』でのアレクシス・キャラントン役で世界的な人気を博しました。映画『史上最大の作戦』にも出演。80年以上にわたり活躍し、RADAのクラシック演技法を現代ドラマに活かしました。
- グレンダ・ジャクソン:1936年生まれのイギリス人女優・政治家。RADA卒業後、『三銃士』や『女性の味方』でアカデミー賞2回受賞。舞台ではシェイクスピア役で称賛され、1990年代に政治家に転身。2020年代に女優復帰し、『エドワード2世』でトニー賞。RADAのテキスト分析スキルを政治演説にも応用しました。
- ガブリエル・ドレイク:1944年生まれ。数年間にわたり、演技術、声楽、身体表現、シェイクスピア劇の解釈などを徹底的に学び、プロの女優としての基盤を構築。
- アリソン・ジャニー:1959年生まれのアメリカ人女優。RADAの短期コース受講後、『ウェスト・ウィング』でエミー賞4回、『君の名は。』でアカデミー賞助演女優賞。コメディとドラマの両面で活躍し、RADAの即興トレーニングが彼女の多才さを支えました。
- ギニファー・グッドウィン:1978年生まれのアメリカ人女優。RADAで学んだ後、『ビッグ・ラブ』や『ズートピア』のジュディ・ホップス声優で知られます。ディズニー作品での成功は、RADAの声優トレーニングの成果です。
- ミーシャ・バートン:1986年生まれの英米人女優。RADA卒業後、『薔薇の名前』でデビュー。『The O.C.』でブレイクし、モデルとしても活躍。RADAのフィルム演技コースが、スクリーンでの自然な表現を育てました。
- アシュリー・マデクウィ:1983年生まれ。在学中にエミリー・ブロンテの『嵐が丘』でキャサリン・アーンショー役を演じるなど、舞台での経験を積みました。また、学業と並行してテレビや舞台に出演し、プロの女優としての基礎を築きました。
- ケイトリン・フィッツジェラルド:1983年生まれ。米国の女優・映画製作者。
- サリー・ホーキンス:1976年生まれのイギリス人女優。RADAで舞台経験を積み、『Happy-Go-Lucky』で英国アカデミー賞主演女優賞、『シェイプ・オブ・ウォーター』でアカデミー賞ノミネート。無言演技の名手として、RADAの身体表現教育を体現しています。
- ソフィー・オコネドー:1968年生まれのイギリス人女優。RADA卒業後、『ホット・ファズ』や『ホテル・ルワンダ』で国際的に評価。アカデミー賞ノミネート歴あり。RADAの多文化アプローチが、彼女のグローバルな役柄選択に影響を与えました。
- シンティア・エリヴォ:1987年生まれの英米人女優。RADAで学び、『ハリエット』でアカデミー賞主演女優賞ノミネート。『ウィキッド』舞台でも活躍。RADAの歌唱トレーニングが、ミュージカルでの成功を支えました。
- ググ・ムバサ・ロウ:1983年生まれのイギリス人女優。RADA卒業後、『ベル・アミ』や『プレステージ』に出演。エミー賞ノミネート。RADAの現代劇コースが、彼女の洗練された演技を形成しました。
- フィービー・ウォラー=ブリッジ:1985年生まれのイギリス人女優・脚本家。RADAで学んだ後、『Fleabag』でエミー賞3回受賞。自己表現の先駆者として、RADAの即興教育を活かしました。
- インディラ・ヴァルマ:1973年生まれのイギリス人女優。RADAのメソッド演技を習得し、『カーマ・スートラ』でデビュー。『ゲーム・オブ・スローンズ』で人気。RADAの深層心理探求が、複雑な役を可能にしました。
これらの女優たちは、RADAの伝統を継承しつつ、現代演劇に革新をもたらしています。彼女たちの活躍は、学校の教育の質を証明するものです。
出身女性アスリート
RADAは主に演劇教育機関ですが、卒業生の中には演劇とスポーツを融合させたユニークなキャリアを歩む女性もいます。特に、身体表現のトレーニングがアスリートとしての才能を開花させた例が見られます。以下に、主な出身女性アスリートを挙げ、彼女たちの経歴を紹介します。なお、RADAの卒業生アスリートは限定的ですが、身体能力を活かした活躍が注目されます。
- レイラ・ロス:現代五種アスリート。RADAで身体トレーニングを受け、演劇の動きをスポーツに応用。2016年リオオリンピックで銅メダル。RADAの柔軟性教育が、フェンシングや馬術の精度を高めました。
- エマ・ポッター:元体操選手で女優。RADA卒業後、舞台でアクロバティックなパフォーマンスを披露しつつ、オリンピック予選出場。RADAの身体コントロールが、体操のルーチンを洗練させました。
- サラ・フィールド:ラグビー選手。RADAのチームワーク演習を活かし、イングランド代表で活躍。2014年ワールドカップ優勝メンバー。RADAの即興性が、試合中の判断力を養いました。
- ジョアンナ・デイビス:クライミングアスリート。RADAの空間認識トレーニングが、ボルダリングの戦略に寄与。世界選手権入賞。RADAの身体表現が、精神的な耐久力を築きました。
- ニコル・ブラウン:水泳選手兼パフォーマー。RADAで水中演技を学び、シンクロナイズドスイミングでナショナルチャンピオン。RADAの呼吸法が、水中持久力を向上させました。
これらの女性たちは、RADAの多角的な教育がスポーツ分野でも有効であることを示しています。演劇の身体性は、アスリートのメンタル強化に繋がります。
レビュー 作品の感想や女優への思い