『愛のタリオ』（原題：마담 뺑덕）は、2014年公開の韓国映画。韓国民話「沈清伝」を基に、大学教授ハッキュと少女ドクの禁断の愛が復讐劇へと変貌する愛憎サスペンス。チョン・ウソンとイ・ソムが主演し、情欲と裏切りが織りなす壮絶な物語が展開。監督はイム・ピルソン。112分、R18+指定。
基本情報
- 邦題：愛のタリオ
- 原題：마담 뺑덕
- 英題：Madam Ppang-Deok／Scarlet Innocence
- 公開年：2014年
- 製作国：韓国
- 上映時間：120分
- ジャンル：サスペンス
女優の活躍
『愛のタリオ』では、ヒロインのドク（後にセジョン）を演じたイ・ソムが特に注目を集めました。イ・ソムはモデル出身の女優で、本作では純粋な少女から復讐に燃える女性へと変貌する複雑な役柄を見事に演じ切りました。彼女の演技は、感情の起伏が激しいキャラクターの内面を繊細に表現し、観客に強い印象を与えました。特に、ドクの純真さと裏切られた後の冷酷な一面を対比させる演技は、物語の中心的な緊張感を高めています。イ・ソムは本作で大胆なラブシーンにも挑戦し、身体を張った演技で新たな一面を見せました。彼女のキャリアにおいて、本作は『サイコメトリー～残留思念～』（2013年）などと並び、女優としての幅を広げた重要な作品となりました。
また、脇役としてハッキュの娘チョンを演じたパク・ソヨンも印象的な演技を披露しました。彼女は母親の自殺を父親のせいだと憎む娘役として、複雑な感情を表現。特に物語後半でのドクとの対立シーンでは、若さゆえの衝動と知性を兼ね備えたキャラクターを鮮やかに演じ、物語に深みを加えました。パク・ソヨンは『レッド・ファミリー』（2013年）などでの経験を活かし、本作でも存在感を示しています。
女優の衣装・化粧・髪型
イ・ソムの衣装は、ドクのキャラクターの変遷を象徴しています。物語前半の田舎町では、純朴な少女を強調するシンプルなワンピースやカジュアルな服装が中心。淡い色合いの服やナチュラルなメイク、ゆるく結んだ髪型が彼女の無垢さを際立たせます。一方、物語後半でセジョンとして登場する際は、都会的で洗練されたスタイルに変化。タイトなドレスやシックなブラウス、ダークトーンのメイクが彼女の復讐心と大人の女性としての魅力を強調します。髪型もストレートやウェーブのかかったロングヘアで、冷たく計算高い印象を与えます。この対比は、ドクの内面的な変化を視覚的に表現する重要な要素となっています。
パク・ソヨンの衣装は、高校生らしいカジュアルな制服やカジュアルウェアが中心で、若さと反抗心を表現。メイクは控えめで、ナチュラルな美しさを活かしたものが多いですが、物語後半のクラブシーンでは少し大人びたメイクとファッションが登場し、彼女の成長と内面の葛藤を反映しています。
あらすじ
ソウルの大学で不祥事に巻き込まれた文学教授ハッキュ（チョン・ウソン）は、片田舎の生涯学習センターに左遷される。退屈な田舎生活の中で、彼は純粋な少女ドク（イ・ソム）と出会い、激しい恋愛に溺れる。しかし、ドクが妊娠したことを知ると、ハッキュは復職の機会を得て彼女に手切れ金を渡し、関係を一方的に終わらせる。この裏切りにより、ドクの家は火事で焼失し、聾病の母親を失う悲劇に見舞われる。一方、ハッキュの妻（ユン・セア）はうつ病を患い、娘チョン（パク・ソヨン）の前で自殺する。
8年後、ハッキュは成功した小説家となるが、視力を失う病に侵され、放蕩生活で借金を抱える。そこにセジョンと名乗る女性（ドク）が現れ、彼の生活に入り込む。彼女はハッキュの友人ドンウ（イ・チャンフン）を利用して彼の状況を探り、偽の眼科医を紹介して視力を完全に奪う。さらに、ハッキュの借金取りであるチェ氏（キム・ヒウォン）と結託し、娘チョンを日本へ売春婦として送る契約を結ばせる。ドクはハッキュに自分の正体を明かし、復讐を宣言。しかし、チョンが予想外の行動に出てドクを追い詰め、彼女の目をハッキュに移植する手術を強制する。物語の最後、盲目となったドクは湖畔でハッキュと再会し、彼の「愛してる」という言葉で締めくくられる。
解説
『愛のタリオ』は、韓国の民話「沈清伝」を現代的に再解釈した愛憎劇であり、愛と復讐の境界を掘り下げるサスペンス作品です。「沈清伝」は、盲目の父親のために娘が犠牲となる孝行物語ですが、本作ではそのテーマを愛欲と裏切りに置き換え、登場人物のエゴイズムと情念を強調しています。タイトルの「タリオ」はラテン語で「同害復讐」を意味し、被害者が加害者に同等の苦しみを返す物語の核心を象徴します。
監督イム・ピルソンは、『南極日誌』（2005年）や『人類滅亡計画書』（2012年）で知られるサスペンスの名手。本作では、官能的な映像美と心理的な緊張感を融合させ、観客を物語に引き込みます。特に、ドクの復讐劇は単なる報復を超え、愛と憎しみの複雑な絡み合いを描き、観客に道徳的ジレンマを投げかけます。チョン・ウソンの演じるハッキュは、欲望に忠実だが自己中心的な男として、観客に共感と反発を同時に呼び起こすキャラクターです。一方、イ・ソムのドクは、純粋さから冷酷さへの変貌を通じて、女性の強さと脆さを体現。物語後半のチョン（パク・ソヨン）の行動は、復讐の連鎖が新たな犠牲を生むことを示唆し、物語に予想外の深みを加えています。
映像面では、田舎町の素朴な風景とソウルの洗練された都市景色の対比が、物語のトーンを効果的に演出。音楽はモグとイ・ウンジュが担当し、情緒的な旋律が登場人物の感情を増幅します。R18+指定の理由である官能シーンは、物語の情熱と破滅を象徴する重要な要素として機能しています。
キャスト
- チョン・ウソン（ハッキュ役）：ソウルの大学教授で、欲望に忠実な男。『私の頭の中の消しゴム』（2004年）などで知られる韓国のトップスター。
- イ・ソム（ドク／セジョン役）：純粋な少女から復讐の鬼へと変貌するヒロイン。モデル出身で、本作で女優としての評価を高めた。
- パク・ソヨン（チョン役）：ハッキュの娘で、父親を憎みつつドクに嫉妬する複雑な役どころ。
- キム・ヒウォン（チェ氏役）：借金取りのギャンブルボス。『アジョシ』（2010年）などでの悪役で知られる。
- ユン・セア（ハッキュの妻役）：うつ病に苦しむ妻を演じる。
スタッフ
- 監督：イム・ピルソン（『南極日誌』、『人類滅亡計画書』）
- 脚本：チャン・ユンミ、イム・ピルソン（脚色）
- 撮影：イ・スンジェ（『チェイサー』、『哀しき獣』）
- 音楽：モグ、イ・ウンジュ（『悪魔を見た』、『怪しい彼女』）
- 製作：CJ Entertainment
総括
『愛のタリオ』は、愛と復讐が交錯する壮絶な物語を通じて、人間の欲望と倫理の葛藤を描いた作品です。イ・ソムの変貌する演技とチョン・ウソンのカリスマ性が物語を牽引し、視覚的・音楽的な美しさが情感を高めます。衣装やメイクはキャラクターの心理を映し出し、観客に深い印象を与えます。韓国映画のサスペンスとロマンスの融合として、本作は観る者を惹きつけ、トラウマ的な余韻を残す力作です。
レビュー 作品の感想や女優への思い