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The Singapore Grip(小説)

J・G・ファレル(James Gordon Farrell)の歴史小説『The Singapore Grip』は、1939年のシンガポールを舞台に、第二次世界大戦直前の英国植民地社会を描いた作品。

ゴム貿易で富を築いた英国人実業家一家を中心に、帝国主義の腐敗と崩壊を風刺的に描き、日本軍の侵攻によるシンガポール陥落を背景に、愛と戦争の悲喜劇を展開します。エンパイア・トリロジーの最終巻として、植民地主義の終焉を象徴的に表現しています。

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あらすじ

物語は、1939年のシンガポールから始まります。英国の植民地であるこの都市は、熱帯の豊かな自然と活気ある商業の中心地として繁栄していましたが、第二次世界大戦の影が忍び寄っていました。主人公の一人、ウォルター・ブラケットは、ブラケット・アンド・ソンズ社という古参のゴム貿易会社を率いる野心的な実業家です。彼は、会社の存続と拡大を第一に考え、常に利益を追求する男として描かれます。ウォルターは、自身の娘ジョーンを、ビジネスパートナーの息子であるマシュー・ウェッブと結婚させる計画を練ります。マシューは、亡くなった父の遺産を相続した若者で、シンガポールに新しくやってきたばかりです。彼は当初、植民地生活の華やかさに魅了されつつも、徐々にその裏側にある不平等と搾取に気づき始めます。

一方、ジョーンは活発で独立心の強い女性で、父親の思惑に反発しつつも、周囲の期待に縛られていきます。彼女は、マシューとの関係を通じて、伝統的な英国社会の価値観と自身の感情の間で葛藤します。物語には、ウォルターの忠実な部下である中国人助手リー・チンホアも登場し、彼は会社の運営を支えながら、自身の野心を秘かに抱えています。リーは、英国人の傲慢さを冷静に観察し、植民地社会の複雑な力学を体現する人物です。

シンガポールの英国人社会は、表面上は華やかなパーティーやクラブ活動で賑わっていますが、労働者のストライキや現地住民の不満が頻発します。ウォルターはこれらを警察の力で抑え込み、会社の利益を守ろうとします。しかし、ヨーロッパでの戦争が激化し、日本軍の脅威が近づくにつれ、状況は一変します。1941年末、真珠湾攻撃とプリンス・オブ・ウェールズおよびリパルス号の撃沈により、日本軍の南進が現実味を帯びます。英国軍の準備不足が露呈し、シンガポールの防衛は脆弱であることが明らかになります。

マシューは、ジョーンとの恋愛を通じて成長し、植民地主義の本質を問い始めます。彼は、現地住民の貧困や搾取を目の当たりにし、英国の「文明化」の名の下に行われる経済的支配に疑問を抱きます。物語は、1942年の日本軍侵攻とシンガポール陥落へと向かいます。英国人たちは当初、勝利を信じて余裕を保っていましたが、戦況の悪化とともにパニックに陥ります。ウォルターの会社は、ゴムの在庫を巡る混乱に巻き込まれ、家族の絆も試されます。最終的に、シンガポールは日本軍に占領され、英国の植民地支配は崩壊します。物語は、個人の運命と歴史の潮流が交錯する中で、帝国の終わりを象徴的に描き出します。

このあらすじは、愛の物語と戦争の悲劇が絡み合う形で進み、ファレルの筆致により、ユーモアと風刺が交えられています。キャラクターたちの行動は、しばしば滑稽で、読者に植民地社会の虚構性を印象づけます。全体として、600ページを超える長編ながら、細やかな心理描写と歴史的事実の織り交ぜにより、緊張感を保っています。

解説

J・G・ファレルは、英国の小説家で、歴史小説の分野で傑出した業績を残しました。1935年に生まれ、1979年に早逝した彼の作品は、主に英国帝国の衰退をテーマとしています。『The Singapore Grip』は、1978年に出版された彼の最後の完成した長編小説で、エンパイア・トリロジーの最終巻です。このトリロジーは、『Troubles』(1970年、アイルランド独立戦争期)、『The Siege of Krishnapur』(1973年、インド大反乱期)、そして本作から成り、英国の植民地支配の崩壊を三つの異なる時代と場所で描いています。『The Siege of Krishnapur』はブッカー賞を受賞し、ファレルの名を世界的に知らしめました。本作もブッカー賞の最終候補に挙がるなど、高い評価を受けました。

まず、歴史的背景について触れます。本作の舞台は、第二次世界大戦中のシンガポールです。シンガポールは、19世紀から英国の重要な貿易拠点として発展し、「東洋のジブラルタル」と呼ばれました。しかし、1942年の日本軍侵攻により、わずか70日で陥落するという歴史的な敗北を喫します。この出来事は、英国の軍事力と植民地統治の脆弱性を露呈し、帝国の終焉を象徴します。ファレルは、史実を基にしながら、フィクションの要素を加えて物語を構築しています。例えば、真珠湾攻撃や連合艦隊の撃沈などの出来事を織り交ぜ、読者に当時の緊迫感を伝えます。彼の研究熱心さが、詳細な描写に表れており、シンガポールの地理や気候、経済構造が生き生きと描かれています。

  • 帝国主義の風刺:ファレルは、英国人キャラクターを通じて、植民地主義の欺瞞を鋭く批判します。ウォルター・ブラケットのような実業家は、利益追求を「文明の使命」と正当化しますが、それは現地住民の搾取に他なりません。ゴム産業は、英国の経済的支配の象徴として用いられ、労働者の貧困やストライキが繰り返し描かれます。
  • 資本主義の「グリップ」:タイトル『The Singapore Grip』は、シンガポールの熱帯の土壌がゴムを強く握る様子を指しつつ、資本主義が伝統文化を締め付ける「握り」を比喩的に表しています。マシューの視点から、英国の経済支配がアジア諸国に与える悪影響が探求されます。
  • ユーモアと悲劇の融合:ファレルのスタイルは、風刺的なユーモアが特徴です。英国人たちのパーティーや日常の滑稽さが、戦争の惨禍と対比され、帝国の空虚さを強調します。愛の要素も加わり、ジョーンとマシューの関係は、個人的な成長と社会の崩壊を映し出します。
  • 多角的な視点:物語は英国人中心ですが、中国人やマレー人、日本人の視点を一部取り入れ、植民地社会の複雑さを示します。これにより、ファレルは単なる英国批判を超え、人間性の普遍性を描きます。
  • トリロジー全体の位置づけ:前二作が政治・軍事的な崩壊を描くのに対し、本作は経済的側面を強調します。ファレルは、帝国の衰退を「個人の失敗の集積」として捉え、読者に歴史の教訓を投げかけます。

批評家からは、本作の長さと詳細な描写が時に冗長だと指摘される一方、風刺の鋭さと歴史再現の精度が高く評価されています。出版当時、英国の脱植民地化プロセスが進む中で、ファレルの作品は時代を反映した意義深いものでした。また、2020年にITVでドラマ化され、再び注目を集めました。ファレルの早逝は惜しまれますが、『The Singapore Grip』は彼の遺産として、帝国主義の愚かさを後世に伝える重要な小説です。この作品を通じて、読者は歴史の繰り返しを避けるための洞察を得られるはずです。

原作・実話
なむ

洋画好き(字幕派)。だいたいU-NEXTかNetflixで、妻と2匹の猫と一緒にサスペンスやスリラーを観ています。詳細は名前をクリックしてください。猫ブログ「碧眼のルル」も運営。

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