上野千鶴子のジェンダー論は、マルクス主義フェミニズムを基盤とし、家父長制(パトリアルキー)と資本主義の交差を女性差別の根源と位置づける。ジェンダーは生来の性別(セックス)ではなく、社会的・文化的につくられた性差を指し、「男は仕事、女は家事育児」といった規範が社会構造によって強化されると指摘。女性の解放は、単なる平等ではなく、資本主義社会の変革を通じて実現すると主張する。フェミニズムを「弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想」と定義し、ミソジニー(女性嫌悪)社会で育った女性が自覚的に闘うものとする。
一方で、ラディカル・フェミニズムやエコロジカル・フェミニズムを批判し、男性優位文化の延長と見なす。消費社会での女性の商品化やセクシュアリティを記号論的に分析し、女性の自立と「差異の政治学」を提唱。結婚を「性的自由の放棄」とし、男性中心の家族制度を解体すべきと論じる。
上野千鶴子のジェンダー論
主要な理論ポイント
- 家父長制と資本制の交差:近代産業社会で市場(資本制)と家族(家父長制)が分離し、女性を家庭に閉じ込め、労働力再生産を担わせる。これが女性抑圧の基盤で、社会主義婦人解放論を批判的に継承。
- ジェンダー概念の意義:ジェンダーを社会的構築物とし、生物学的性差を超えた文化的規範を分析。エコフェミ論争では、母性中心のエコロジカル・フェミニズムを「本質主義」と批判。
- フェミニズムの目的:排他的カテゴリーの置き換えではなく、多様な生き方の尊重。ネオリベラリズム下でのジェンダー平等を「個の尊重」と結びつけ、DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)の実現を提唱。
- ナショナリズムとジェンダー:国家がジェンダー規範を強化し、戦争や民族主義で女性を動員。慰安婦問題など歴史的文脈で論じる。
- ケアと老後:単身高齢者の自立をテーマに、当事者主権の福祉社会を提案。ジェンダー格差がケア労働に及ぼす影響を指摘。
これらの理論は、女性学の枠を超え、社会学全体に影響を与え、中国でも「上野ブーム」を引き起こし、現地女性の苦境理解に寄与している。
代表的な著作
上野の著作はジェンダー論の古典が多く、以下が主なもの。
- セクシィ・ギャルの大研究(1982年):消費社会での女性像を分析。
- 家父長制と資本制(1990年):マルクス主義フェミニズムの基盤書、サントリー学芸賞受賞。
- 近代家族の成立と終焉(1994年):家族制度の変遷を論じ、家族社会学の視点を提供。
- ナショナリズムとジェンダー(1998年):国家とジェンダーの関係を考察。
- おひとりさまの老後(2007年):単身者の老後問題を扱い、ベストセラー。
- ケアの社会学(2011年):ケア労働の社会学的分析、博士論文基盤。
- フェミニズムがひらいた道(2022年):フェミニズムの歴史総括。
- 最後の講義 完全版(2023年):これからの時代への提言。
これらはAmazonなどで高評価を得ており、ジェンダー/女性学カテゴリで人気。
影響と最近の活動
上野は40年以上にわたり日本女性学・ジェンダー研究を牽引し、一般読者への社会学普及に貢献。アグネス論争(1987-88年)で働く母親の問題を議論化し、ウーマンリブ運動を再評価。指導学生を通じて学界に影響を与え、SDGsのジェンダー目標を「本質的な平等」として直言。
2021年東京オリンピック反対署名(13万超)、2022年安倍国葬反対署名(28万超)、2023年LGBT理解増進法抗議声明など、社会運動を主導。X(@ueno_wan)で発信し、最近では高市早苗首相誕生を巡る議論で、ジェンダーと政治の優先順位を指摘。賛否両論を呼び、左派的偏りや「上野一強」の批判もあるが、タイム誌選出のように国際的影響大。
中国でのブームは、現地ジェンダー研究不足を補う役割を果たす。一方で、大学イベントでの言及や「男から降りろ」発言が議論を呼ぶ。
上野千鶴子の経歴と背景
上野千鶴子は、1948年7月12日生まれの日本の社会学者で、フェミニストとして知られる。
富山県出身で、京都大学文学部哲学科社会学専攻を卒業後、同大学院で学び、単位取得退学。平安女学院短期大学講師、京都精華大学助教授・教授、東京大学文学部助教授・教授を歴任し、2011年に定年退職、東京大学名誉教授に。専門は家族社会学、ジェンダー論、女性学。
2011年から認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長を務め、日本社会学会理事、元日本学術会議会員など、社会運動にも積極的。
2021年には歴史家の色川大吉と死別前の短い婚姻関係を結び、2024年には米タイム誌「世界で最も影響力のある100人」に選出された。学生時代から学生運動に参加し、マルクス主義の影響を受け、女性の抑圧を社会構造から分析する視点を持つ。


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