『女は冷たい嘘をつく』は、2016年に韓国で公開されたサスペンス・スリラー映画で、イ・オニ（イ・オンヒ）が監督・脚本を務めた作品。原題「미씽: 사라진 여자」（Missing: Sarajin Yeoja）は「消えた女」を意味し、シングルマザーと謎めいたベビーシッターを軸に、母性愛、格差社会、外国人労働者の現実といったテーマを織り交ぜた緊張感あふれる物語が展開します。主演はコン・ヒョジンとオム・ジウォンという韓国を代表する実力派女優が務め、両者の迫真の演技が作品の核心を担っています。公開当時、韓国で100万人以上を動員し、第37回黄金撮影賞でコン・ヒョジンが主演女優賞を受賞するなど、高い評価を受けました。日本では2017年10月30日にクロックワークス配給で劇場公開され、シネマート新宿・心斎橋での「のむコレ」特集上映作品として上映されました。上映時間は100分で、現代社会の闇を抉る社会派サスペンスとして注目されました。
本作は、コン・ヒョジンがそれまでのラブコメディのイメージを一新し、ミステリアスで複雑な役柄に挑戦したことで話題に。また、オム・ジウォンの母性愛を体現した感情豊かな演技も観客の共感を呼び、韓国映画界における女性主導のサスペンス作品として新たな地平を開いたと評価されています。
以下は韓国映画『女は冷たい嘘をつく』のあらすじ、女優の活躍、感想、解説、キャスト、スタッフについてまとめています。
あらすじ
ジソン（オム・ジウォン）は、テレビドラマの脚本家として多忙な日々を送るシングルマザー。1歳1か月の娘ダウンの親権を巡り、医師である元夫ジニョクと離婚調停中です。仕事と育児の両立に追われるジソンは、住み込みの中国人ベビーシッター、ハンメ（コン・ヒョジン）にダウンの世話をほぼ任せています。ハンメは韓国語が拙く、外国人労働者として低賃金で働く身ですが、ジソンにとっては欠かせない存在です。
ある日、ジソンが仕事から帰宅すると、ハンメとダウンが忽然と姿を消していることに気づきます。慌てて警察や周囲に相談するも、親権争い中の状況から「自作自演の誘拐」と疑われ、誰にも信じてもらえません。絶望の中、ジソンは自らダウンの行方を追う決意をします。調査を進めるうちに、ハンメの名前、年齢、経歴がすべて偽りだったことが判明。さらに、ハンメの背後には想像を絶する過去と動機が隠されていることが明らかになります。
物語は、ジソンの必死の追跡劇とハンメの謎めいた行動を通じて、2人の女性の視点から母性愛や社会の不平等を描きます。後半では、予想外の展開と衝撃の真実が明らかにされ、観客に深い余韻を残します。
女優の活躍
『女は冷たい嘘をつく』の最大の魅力は、コン・ヒョジンとオム・ジウォンという2人のトップ女優の圧倒的な演技力です。
コン・ヒョジン（ハンメ役）
コン・ヒョジンは、韓国ドラマ界で「ラブコメの女王」として知られ、『パスタ〜恋が出来るまで〜』（2010年）や『主君の太陽』（2013年）などで愛らしいキャラクターを演じてきました。しかし、『女は冷たい嘘をつく』ではそのイメージを大胆に脱ぎ捨て、ミステリアスで冷徹な中国人ベビーシッター、ハンメを演じました。韓国語が拙い外国人労働者としてのリアリティを出すため、コン・ヒョジンは中国語訛りの韓国語を丁寧に練習し、抑えた表情と仕草でハンメの複雑な内面を表現。物語が進むにつれ明らかになるハンメの過去と動機を、静かな迫力で体現しました。この演技が評価され、第37回黄金撮影賞で主演女優賞を受賞。批評家からは「コン・ヒョジンの新境地」と称賛され、彼女の演技の幅を証明する作品となりました。
特に、ハンメのキャラクターは、外国人労働者としての疎外感や社会の底辺で生きる苦しみを体現しており、コン・ヒョジンはその微妙な感情を繊細に演じ分けています。観客からは「ハンメの悲しみが痛いほど伝わった」「コン・ヒョジンの目だけで感情がわかる」との声が多く、彼女の演技が物語の深みを増したことは間違いありません。
オム・ジウォン（ジソン役）
一方、オム・ジウォンは、娘を奪われたシングルマザー、ジソンを熱演。『リバイバル 妻は二度殺される』（2015年）などスリラー作品での経験を活かし、仕事と育児の間で葛藤する現代女性のリアルな姿を体現しました。ジソンは、最初はハンメに依存しながらも、娘の失踪後は絶望と怒りを爆発させ、行動力ある母親へと変貌します。オム・ジウォンは、特にジソンの感情の起伏を丁寧に演じ、娘への愛と社会からの孤立感を観客に強く訴えかけました。
ジソンのキャラクターは、シングルマザーとしてのプレッシャーや、親権争いの中で感じる無力感を象徴しており、オム・ジウォンの演技は多くのmediaplayerがその感情をリアルに伝えます。特に、ジソンが娘を探すために奔走するシーンでは、鬼気迫る表情と声が観客の心を掴み、「母親なら共感せずにはいられない」との感想も多く寄せられました。
両女優の対決シーンは、互いの母性愛がぶつかり合うクライマックスとして圧巻。コン・ヒョジンの静かな迫力とオム・ジウォンの爆発的な感情が交錯し、観客を引き込む力強い演技を見せています。
感想
『女は冷たい嘘をつく』は、サスペンスとしての緊張感と社会問題への深い洞察を兼ね備えた作品として、観客から高い評価を受けています。Filmarksでの平均スコアは3.4点（レビュー数約3370件）と、まずまずの好評を博しています。以下は、視聴者の主な感想です。
ポジティブな感想
- 「しっかりしたサスペンスで、ながら見のつもりが引き込まれた」（Filmarksレビュー）。物語の展開が早く、100分というコンパクトな上映時間の中で無駄がない点が好評。
- 「コン・ヒョジンとオム・ジウォンの演技がすごい。特にハンメの悲しい過去に涙した」（同上）。両女優の熱演が感情を揺さぶったとの声が多い。
- 「シングルマザーの苦労や外国人労働者の現実がリアルで考えさせられる」（同上）。社会派テーマが共感を呼んだ。
ネガティブな感想
- 「過去の描写の時系列がわかりにくい」（Filmarksレビュー）。フラッシュバックの多用が一部の観客にとって混乱を招いた。
- 「ジソンのキャラクターに感情移入しづらい」（同上）。ジソンの行動や態度が冷淡に感じられ、共感しにくいとの意見も。
- 「邦題が内容と合っていない」（映画.comレビュー）。原題「Missing」に比べ、邦題がミスリーディングとの批判。
全体的に、サスペンスとしての完成度や女優の演技は高く評価される一方、物語の構造やキャラクターへの共感度には賛否が分かれる印象です。個人的には、2人の女性の視点から描かれる母性愛の対比が胸を打ち、特にハンメの境遇に感情を揺さぶられました。
解説
『女は冷たい嘘をつく』は、単なるサスペンス映画にとどまらず、以下のようなテーマを深く掘り下げています。
母性愛の多面性
ジソンとハンメ、2人の女性の母性愛は、立場や境遇の違いから異なる形で現れます。ジソンの愛は、仕事と育児の間で葛藤しながらも娘を取り戻すための行動力に、ハンメの愛は、過去の喪失と絶望から生まれる複雑な感情に表れています。この対比は、母性愛が一様ではないことを示し、観客に深い共感を呼びます。
格差社会と外国人労働者の現実
ハンメのキャラクターを通じて、韓国における外国人労働者の過酷な現実が浮き彫りに。低賃金、長時間労働、差別といった問題が、ハンメの行動の背景として描かれ、現代社会の不平等を批判しています。映画.comのレビューでは、「出稼ぎ中国人の視点がリアルで、韓国の社会問題を突きつける」と評価されています。
サスペンスとしての構造
イ・オニ監督の緻密な演出により、物語は緊張感を途切れさせることなく進行します。ハンメの正体や動機が徐々に明らかになる過程は、ミステリー要素として観客を引きつけ、後半の「タネ明かし」は予想外の展開として高い評価を受けました。ただし、フラッシュバックの多用が時系列を複雑にし、一部で混乱を招いた点は課題です。
女性主導の物語
『女は冷たい嘘をつく』は、コン・ヒョジンとオム・ジウォンという2人の女優が物語を牽引し、男性キャラクターが脇役に徹する構造が特徴。女性の視点から描かれるサスペンスは、韓国映画界において新鮮であり、製作段階から話題を集めました。
キャスト
- コン・ヒョジン（ハンメ）：ミステリアスな中国人ベビーシッター。第37回黄金撮影賞主演女優賞受賞。
- オム・ジウォン（ジソン）：娘の失踪に立ち向かうシングルマザー。
- キム・ヒウォン：脇役としてジソンを支える刑事役など。
- パク・ヘジュン（ヒョニク）：ジソンの元夫。
- キム・ソニョン：助演として物語に深みを加える。
スタッフ
- 監督・脚本：イ・オニ（『アメノナカノ青空』）
- 製作：DICE FILM & MEGABOX PLUS M
- 配給（日本）：クロックワークス
音楽：キム・ホンジプ、チョン・ジヌ - 撮影：キム・ドンヨン
- 編集：シン・ミンジョン
結論
『女は冷たい嘘をつく』は、コン・ヒョジンとオム・ジウォンの圧倒的な演技力、緻密なサスペンス展開、母性愛と格差社会という深いテーマが融合した傑作です。物語のコンパクトさと緊張感は観客を引き込み、2人の女性の対決は感情を強く揺さぶります。一方で、時系列の複雑さや邦題への批判など、改善の余地も見られます。それでも、韓国映画の社会派サスペンスとしての完成度の高さと、女優たちの新境地は必見。シングルマザーや社会の底辺で生きる人々の苦悩に共感し、考えさせられる作品として、強くおすすめします。
レビュー 作品の感想や女優への思い