ケリー・グリーンウッド(Kerry Greenwood、1954年~2025年)は、『令嬢探偵ミス・フィッシャー』(*Phryne Fisher Mystery*)シリーズで知られるオーストラリアの作家ですが、彼女の作品は歴史ミステリーにとどまらず、現代ミステリー、ファンタジー、ヤングアダルト(YA)、短編小説など多岐にわたります。弁護士としての経歴を持ち、歴史や文化への深い知識を活かした作品は、オーストラリア文学において独自の地位を築いています。以下に、グリーンウッドの『ミス・フィッシャー』以外の主な作品をジャンル別に整理し、詳細を解説します。なお、日本語訳の状況や『ミス・フィッシャー』との関連性も考慮します。
コリンナ・チャップマン・シリーズ(Corinna Chapman Mysteries)
概要
現代のメルボルンを舞台にしたコージーミステリーシリーズ。全6巻(2004年~2010年)。主人公コリンナ・チャップマンは、元会計士からパン職人に転身した女性で、ベーカリー「Earthly Delights」を経営しながら、近隣で起こる事件を解決します。『ミス・フィッシャー』の歴史的設定とは異なり、現代の都市生活や多文化社会を描きますが、ユーモアと食文化への愛が共通しています。
主な作品
- Earthly Delights(2004年): シリーズ第1作。コリンナが麻薬問題や殺人事件に巻き込まれる。
- Heavenly Pleasures(2005年): チョコレート工場の謎を追う。
- Devil’s Food(2006年): 食文化と犯罪が交錯。
- Trick or Treat(2007年): ハロウィンを背景にした事件。
- Forbidden Fruit(2009年): クリスマスシーズンのミステリー。
- Cooking the Books(2010年): シリーズ最終作。映画撮影現場での事件。
特徴
コリンナはフライニー・フィッシャーとは異なり、庶民的で親しみやすいキャラクター。料理やパン作りの描写が豊富で、グリーンウッドの食への情熱が反映されています。メルボルンの多様なコミュニティ(移民、LGBTQ+など)も描かれ、現代オーストラリアの社会問題が背景にあります。『ミス・フィッシャー』の軽快なトーンや女性主人公の自立心は引き継がれています。
評価
オーストラリアで人気を博し、2007年に*Earthly Delights*がDavitt Award(女性による犯罪小説賞)にノミネート。『ミス・フィッシャー』ほど国際的な知名度は低いものの、コージーミステリー愛好者に支持されています。
日本語訳
2023年時点で日本語訳は未出版。英語版はAllen & UnwinやPoisoned Pen Pressから入手可能。
デルフィック・ウーマン・シリーズ(Delphic Women Series)
概要
古代ギリシャを舞台にした歴史ミステリー・ファンタジーシリーズ。全3巻(1995年~1998年)。神話や歴史を背景に、女性主人公(ディオティマなど)が活躍。『ミス・フィッシャー』の歴史的背景へのこだわりや強い女性像が、このシリーズにも見られます。
主な作品
- Medea(1995年): ギリシャ神話のメデアを再解釈。彼女の視点から復讐と愛を描く。
- Cassandra(1996年): トロイの予言者カッサンドラの物語。神託と運命をテーマに。
- Electra(1998年): エレクトラの悲劇をミステリーとして再構築。
特徴
グリーンウッドの歴史研究への造詣が深く、神話の女性キャラクターを現代的な視点で描き直す。フライニーのフェミニスト的姿勢と通じるテーマ(女性のエンパワーメント、運命への抵抗)が中心。ミステリー要素は『ミス・フィッシャー』より控えめで、ファンタジーや心理ドラマの要素が強い。
評価
歴史や神話に興味のある読者に支持されるが、ニッチなジャンルのため『ミス・フィッシャー』ほどの人気はない。
日本語訳
未翻訳。英語版は限られた版元から入手可能。
ストームブリンガー・シリーズ(Stormbringer Series)
概要
ファンタジー・アドベンチャーシリーズで、YA向け。全3巻(1994年~1996年)。中世風の架空世界を舞台に、若者たちが冒険や魔法に挑む。『ミス・フィッシャー』の軽快な冒険心やユーモアが、YA向けにアレンジされています。
主な作品
- The Rat and the Raven(1994年)
- Lightning Nest(1995年)
- Raven’s Rising(1996年)
特徴
グリーンウッドの多才さを示す作品群で、歴史ミステリーとは異なるが、彼女のストーリーテリングの魅力(ウィット、キャラクターの魅力)が感じられる。『ミス・フィッシャー』のドットのような若者の成長物語と通じる部分がある。
評価
オーストラリアのYA読者に人気だが、国際的な知名度は低い。
日本語訳
未翻訳。
スタンドアローン小説
グリーンウッドはシリーズ以外にも単発の小説を執筆しています。以下は代表的な作品。
- The Childstone Cycle(1994年): ファンタジー小説。魔法と冒険をテーマにしたYA向け作品。
- The Broken Wheel(1996年): ディストピア的な要素を含むSFファンタジー。グリーンウッドの多ジャンルへの挑戦を示す。
- The Three-Pronged Dagger(2002年): 歴史ミステリーで、『ミス・フィッシャー』に近い雰囲気を持つ単発作品。17世紀を舞台にした探偵物語。
- Out of the Black Land(2010年): 古代エジプトを舞台にした歴史小説。ネフェルティティとアクエンアテンの時代を描き、グリーンウッドの歴史への深い知識が光る。
特徴
これらの作品は、グリーンウッドの歴史や文化への興味と、異なる時代やジャンルへの挑戦を反映。『ミス・フィッシャー』の探偵要素や女性中心の物語が部分的に見られる。
日本語訳
いずれも未翻訳。
短編小説とアンソロジー
グリーンウッドは短編小説も多数執筆し、アンソロジーに寄稿しています。
- 『The Lady with the Gun Asks the Questions』(2022年)…『ミス・フィッシャー』シリーズの短編集。フライニーの未収録エピソードを収録し、シリーズの補完的役割を果たす。
- 日本語訳…未翻訳。ドラマ版ファンの間で人気。
- 他の短編…『Sisters in Crime』などのオーストラリアのミステリーアンソロジーに寄稿。女性作家による犯罪小説が多く、グリーンウッドのフェミニスト的視点が反映されている。
- 特徴…短編はグリーンウッドの軽快な文体やユーモアが凝縮されており、『ミス・フィッシャー』のファンにも親しみやすい。
- 日本語訳…未翻訳。
児童書とその他の作品
- Journey to Eureka**(2005年): 歴史小説で、1850年代のオーストラリアのゴールドラッシュを背景にしたYA向け作品。『ミス・フィッシャー』の歴史的リアリティと通じる。
- Tamam Shud**(2012年): 実在の未解決事件「タマム・シュッド事件」を基にしたノンフィクション風小説。グリーンウッドのミステリーへの興味を示す。
- 日本語訳…未翻訳。
日本語訳の状況
『ミス・フィッシャー』シリーズ以外で、グリーンウッドの作品の日本語訳は2023年時点で存在しません。『ミス・フィッシャー』の翻訳(早川書房、3巻のみ)も限定的であり、他のシリーズや単発作品は英語版でのみ入手可能です。日本語訳が進まない理由は、オーストラリア文学の日本市場での需要の低さや、グリーンウッドの作品がニッチなジャンル(歴史ミステリー、YAファンタジー)に特化しているためと考えられます。
『ミス・フィッシャー』との関連性
共通点
どの作品もグリーンウッドの特徴であるユーモア、強い女性キャラクター、詳細な時代・文化描写が感じられる。特に、コリンナ・チャップマン・シリーズは『ミス・フィッシャー』の現代版とも言える雰囲気を持ち、食文化やコミュニティへの焦点が共通する。デルフィック・ウーマン・シリーズは歴史的女性像の再解釈で、フライニーのフェミニスト的視点とつながる。
相違点
『ミス・フィッシャー』が1920年代の華やかさとコージーミステリーに特化しているのに対し、他の作品は現代(コリンナ・シリーズ)、古代(デルフィック・ウーマン)、架空世界(ストームブリンガー)と多様な設定を持つ。また、YAやファンタジーではミステリー要素が薄い場合も。
評価と影響
グリーンウッドはオーストラリアのミステリー文学で重要な存在であり、『ミス・フィッシャー』は国際的な成功(ドラマ化)を収めましたが、他の作品は主にオーストラリア国内で支持されています。Davitt AwardやAurealis Award(ファンタジー・SF)へのノミネート歴があり、彼女の多才さが評価されています。2025年3月の逝去後も、作品はオーストラリア文学の遺産として読み継がれています。
入手方法
- 英語版…Allen & Unwin、Poisoned Pen Press、Amazon Kindleなどで購入可能。Text Classicsシリーズで再版されている作品も。
- 日本での入手…英語版はAmazon.co.jpやBook Depositoryで購入可。図書館や洋書店(丸善、紀伊國屋)でも一部入手可能。
総括
ケリー・グリーンウッドの『ミス・フィッシャー』以外の作品は、コリンナ・チャップマン・シリーズの現代ミステリー、デルフィック・ウーマンの歴史ファンタジー、ストームブリンガーのYAファンタジー、単発小説や短編など多岐にわたります。彼女のユーモア、歴史への造詣、女性中心の物語は一貫しており、『ミス・フィッシャー』ファンにも魅力的です。ただし、日本語訳はなく、英語での読書が必要です。
レビュー 作品の感想や女優への思い