
ゆりかごを揺らす手は世を支配する手なり。
『ゆりかごを揺らす手』(1992年)は、カーティス・ハンソン監督による米国のサイコ・スリラー映画。産婦人科医の自殺をきっかけに、復讐に燃える女性がベビーシッターとして家庭に潜入し、恐怖と人間ドラマが交錯する傑作。レベッカ・デモーネイの名演が光る。
基本情報
- 邦題:ゆりかごを揺らす手
- 原題:THE HAND THAT ROCKS THE CRADLE
- 公開年:1991年
- 製作国:米国
- 上映時間:110分
- ジャンル:ホラー
女優の活躍
『ゆりかごを揺らす手』は、女優たちの卓越した演技が物語の緊張感と感情の深みを際立たせています。特に、レベッカ・デモーネイ演じるペイトン・フランダースは、冷酷かつ哀愁を帯びた悪女として圧倒的な存在感を示しました。彼女は復讐心と母性を複雑に絡ませたキャラクターを巧みに演じ、観客に恐怖と同時に同情を誘う演技を披露。複数のX投稿でも、「美しく、冷徹で、哀しい悪女」として彼女の演技に拍手が送られています。ペイトンの計算高さや感情の揺れを表現するデ・モーネイの繊細な演技は、映画のサイコスリラーとしての魅力を大きく高めています。
アナベラ・シオラ演じるクレア・バーテルも、家庭を守る母親としての強さと脆さをバランスよく表現。クレアの恐怖や決意を自然に演じ、観客に感情移入させます。彼女の演技は、ペイトンとの対比を通じて物語の人間ドラマを深化させました。また、ジュリアン・ムーアが脇役のマーリーン役で登場し、短い出番ながら印象的な演技を見せています。彼女のキャラクターは物語の転換点で重要な役割を果たし、後のキャリアでの成功を予感させる存在感を示しました。
女優の衣装・化粧・髪型
レベッカ・デ・モーネイ(ペイトン・フランダース)
ペイトンの衣装は、ベビーシッターとしての「信頼できる女性」を装うため、控えめで親しみやすいデザインが特徴です。淡い色調のブラウスやカーディガン、シンプルなスカートを着用し、清潔感と親しみやすさを演出。一方で、復讐心を隠すために化粧はナチュラルで、過度な装飾を避けたメイクが施されています。髪型は、ブロンドの髪をゆるくまとめたポニーテールや、時にはおろした自然なスタイルで、家庭に溶け込む「理想的な乳母」を強調。物語が進むにつれ、彼女の衣装や表情に微妙な変化が現れ、復讐の狂気が垣間見える演出が効果的です。
アナベラ・シオラ(クレア・バーテル)
クレアの衣装は、1990年代のアメリカの主婦を反映したカジュアルかつ実用的なスタイルです。コットンのシャツやジーンズ、柔らかい色合いのセーターなどが多く、母親としての温かみを表現。化粧は日常的で、薄いファンデーションとリップのみのシンプルなメイクが中心。髪型は、肩までのダークブラウンの髪を自然に下ろしたり、軽くまとめるスタイルで、家庭的な雰囲気を強調しています。物語の後半、ペイトンとの対決が近づくにつれ、彼女の衣装は動きやすさを優先したものに変化し、緊迫感を反映。
ジュリアン・ムーア(マーリーン)
マーリーンはキャリアウーマンとして、シャープなスーツや洗練されたブラウスを着用。赤みがかった髪をタイトにまとめたアップスタイルと、はっきりしたリップメイクで都会的な印象を与えます。彼女の衣装とメイクは、クレアやペイトンとは対照的に、プロフェッショナルで独立した女性像を際立たせています。

途中、ニットスーツとストッキングだ黒に統一した衣装を着用しています。
あらすじ
クレア・バーテル(アナベラ・シオラ)は、夫マイケル(マット・マッコイ)と娘エマ(マデリーン・ジマ)と共に幸せな家庭を築き、第二子を妊娠中です。新たな産婦人科医モット(ジョン・デ・ランシー)の診察を受けるが、彼の診察中にわいせつな行為を受け、ショックを受けます。夫の勧めでモットを告訴すると、他の被害者も名乗りを上げ、事件は大きなニュースに。追い詰められたモットは自殺し、彼の妻ペイトン(レベッカ・デモーネイ)はショックで流産、さらに子供を産めない体になってしまいます。
全てを失ったペイトンは、クレア一家を逆恨みし、復讐を誓います。半年後、クレアが出産を終えた後、ペイトンは正体を隠し、理想的なベビーシッターとしてバーテル家に潜入。子供たちやマイケルを巧みに操り、クレアの信頼を裏切りながら家庭を崩壊させようと画策します。ペイトンの策略は徐々にエスカレートし、クレアの友人マーリーン(ジュリアン・ムーア)や知的障害を持つ庭師ソロモン(アーニー・ハドソン)も巻き込みます。クレアはペイトンの本性を知り、家族を守るため壮絶な戦いに挑みます。
解説
『ゆりかごを揺らす手』は、英国のことわざ「ゆりかごを揺らす手は世界を制す」に由来し、子育てをする者の影響力をテーマに、復讐と母性の葛藤を描いたサイコスリラーです。カーティス・ハンソン監督は、派手なアクションやCGを避け、心理的な緊張感と人間ドラマに焦点を当て、観客を引き込みます。ペイトンのキャラクターは単なる悪役ではなく、母性を失った悲しみと嫉妬が動機となっており、複雑な感情が物語に深みを与えています。
映画は、性被害や告訴の心理的影響、被害者への社会的な偏見といった重いテーマも扱い、1990年代の社会問題を反映。特に、クレアが被害を訴える際の葛藤や、ペイトンの孤独と憎しみが丁寧に描かれ、単なるスリラー以上の深さを持っています。 一方で、終盤の戦闘シーンについては、一部のレビューで「まとまりがない」と批判されることもありますが、全体としては緊迫感と感情移入のバランスが評価されています。
キャスト
- アナベラ・シオラ(クレア・バーテル):家族を守る母親役。恐怖と決意を繊細に演じる。
- レベッカ・デモーネイ(ペイトン・フランダース):復讐に燃えるベビーシッター。冷酷さと哀しみを併せ持つ名演。
- マット・マッコイ(マイケル・バーテル):クレアの夫。家族を支えるが、ペイトンの策略に惑わされる。
- アーニー・ハドソン(ソロモン):知的障害を持つ庭師。ペイトンの本性に気づく重要な役割。
- ジュリアン・ムーア(マーリーン):クレアの友人。短い出番ながら印象的な演技。
- マデリーン・ジマ(エマ・バーテル):クレアの娘。ペイトンの影響を受ける無垢な少女。
スタッフ
- 監督:カーティス・ハンソン(『L.A.コンフィデンシャル』で知られる名匠。緻密な演出が光る)
- 脚本:アマンダ・シルヴァー(心理的な緊張感を巧みに構築)
- 製作:デイヴィッド・マデン
- 製作総指揮:テッド・フィールド、ロバート・W・コート、リック・ジャファ
- 撮影:ロバート・エルスウィット(暗いトーンの映像で緊張感を演出)
- 音楽:グラエム・レヴェル(不穏なスコアでスリラーの雰囲気を強化)
総括
『ゆりかごを揺らす手』は、復讐と母性を軸に、心理的な恐怖と人間ドラマを融合させた1990年代のサイコスリラー映画の傑作です。レベッカ・デモーネイとアナベラ・シオラの対照的な演技、リアルな衣装とメイク、緻密な脚本と演出が、観客に深い印象を与えます。社会問題を背景に、家庭内の恐怖を描いた本作は、今日でも色褪せない魅力を持っています。
レビュー 作品の感想や女優への思い