『ヴァーチャル・ウォー』(2019年、ラトビア)は、死者の意識を仮想空間に再現する技術をめぐる恋愛ドラマ。プログラマーの主人公が、愛と倫理の葛藤に直面しながら未来を模索する物語。Filmarks評価2.4点。
基本情報
- 邦題:ヴァーチャル・ウォー
- 原題:Tur
- 公開年:2019年
- 製作国:ラトビア
- 上映時間:83分
- ジャンル:SF
見どころ
バーチャルの世界で亡き恋人にすがり続けたいという気持ちと、現実を見据えて乗り越えようという気持ちがせめぎあう。リアルな仮想世界との付き合い方も考えさせてくれる。
あらすじ
『ヴァーチャル・ウォー』(原題:Nekro Frost)はラトビアで製作されたSF要素を含む恋愛ドラマです。物語の中心は、若きプログラマーのアレクサンダー(アレクサンドルス・ロニス)が、死んだ人間の意識を仮想空間に再現する革新的な技術「ネクロ・プログラム」を開発する過程で、恋愛と倫理的ジレンマに直面する姿を描いています。
アレクサンダーは、恋人のエヴァ(イェカテリーナ・ソコロワ)が不慮の事故で亡くなった後、彼女の意識を仮想空間に再現しようと試みます。しかし、この技術は単なるデータ復元にとどまらず、感情や記憶の複雑さを再現する難しさに直面します。エヴァの仮想意識は時に本物の彼女のように振る舞い、時に予測不能な反応を示し、アレクサンダーは現実と仮想の境界に悩まされます。さらに、彼のプロジェクトを支援する企業がこの技術を軍事利用しようと目論んでいることが明らかになり、倫理的・道徳的な葛藤が深まります。アレクサンダーは、愛する人を蘇らせる夢と、技術の悪用を防ぐ責任感の間で揺れ動きながら、自身の信念と向き合います。
物語は、恋愛の美しさと喪失の痛みを軸に、テクノロジーが人間の感情や倫理に与える影響を深く掘り下げます。ラトビアの寒々とした風景と、近未来的な仮想空間のコントラストが、物語に独特の雰囲気を加えています。
解説
『ヴァーチャル・ウォー』は、SFと恋愛ドラマの融合を試みた作品で、ラトビア映画としては珍しいジャンルの挑戦です。Filmarksのレビューでは平均スコア2.4点と評価が低めで、特に邦題の「ウォー」がミスリーディングとの指摘があります。実際、戦争やアクション要素はほとんどなく、恋愛と技術の倫理的問題に焦点を当てた内省的な物語です。
ラトビア映画は国際的にあまり知られていないため、本作は新鮮な視点を提供しますが、プロダクションの規模や予算の制約から、視覚効果やストーリー展開に粗さがあるとの意見も見られます。それでも、死とテクノロジー、愛と喪失という普遍的なテーマは、観客に深い思索を促します。特に、仮想空間での意識再現というアイデアは、『ブラック・ミラー』や『アップロード』といった現代のSF作品とも共鳴し、技術の進化がもたらす倫理的問題を浮き彫りにします。
監督のヤニス・ノルズは、ラトビアの新世代監督として注目されており、本作ではミニマリスティックな映像美と感情の機微を丁寧に描いています。物語のペースはゆっくりで、アクションよりも心理描写に重きを置いているため、思索的な映画を好む観客には響く可能性があります。
女優の活躍
本作の主要な女優は、エヴァ役のイェカテリーナ・ソコロワです。彼女はラトビアの若手女優で、舞台や短編映画でキャリアを積んできた実力派です。本作では、現実のエヴァと仮想空間のエヴァの両方を演じ分ける難役に挑戦。現実のエヴァでは、温かみのある恋人としての魅力を、仮想のエヴァでは、時に機械的で時に感情的な不安定さを表現し、観客に「人間性とは何か」を考えさせます。彼女の演技は、物語の感情的な核を支えており、特に仮想空間でのシーンでは、微妙な表情や仕草で「再現された意識」の不完全さを巧みに伝えています。
ソコロワは、限られた出番の中で強い印象を残し、特にアレクサンダーとの回想シーンでは、愛情と喪失感を繊細に表現。ラトビア映画界ではまだ新進気鋭の存在ですが、本作での演技は今後の活躍を期待させるものでした。Filmarksのレビューでも、彼女の演技は「作品の数少ないハイライト」と評価されることがあり、物語の感情的な重みを引き立てています。
女優の衣装・化粧・髪型
イェカテリーナ・ソコロワの衣装は、作品のトーンを反映したシンプルかつ機能的なデザインが特徴です。現実のエヴァとしては、カジュアルで温かみのあるスタイルが中心。ラトビアの寒冷な気候を意識した、ウールコートやニット、マフラーといった防寒着が多く、色調はグレーやベージュ、ダークブルーなど落ち着いたものが選ばれています。これにより、彼女のキャラクターに親しみやすさと現実感が加わっています。
仮想空間のエヴァでは、衣装はより抽象的で、デジタル的な美しさを強調。白やシルバーのワンピースが用いられ、流れるようなシルエットが仮想世界の非現実性を表現しています。化粧は現実のシーンではナチュラルで、薄いファンデーションと淡いリップが中心。仮想空間では、シャープなアイラインと光沢のあるリップで、人工的な美しさを際立たせています。
髪型も対比が明確で、現実のエヴァは自然なウェーブのロングヘアを下ろしたスタイルで、親しみやすい印象を与えます。一方、仮想のエヴァはタイトなアップスタイルや、デジタル処理を思わせる滑らかなストレートヘアで、人工的な雰囲気を強調。これらの選択は、キャラクターの二面性を視覚的に表現する重要な要素となっています。
キャスト
- アレクサンダー:アレクサンドルス・ロニス。若きプログラマーで、恋人の死をきっかけに仮想意識の再現に没頭。内向的だが情熱的な性格を、ロニスの抑制された演技が表現。
- エヴァ:イェカテリーナ・ソコロワ。アレクサンダーの恋人で、物語の感情的中心。現実と仮想の両方で登場し、ソコロワの演技が作品の深みを加える。
- ヴィクトル:ヤニス・アマニス。アレクサンダーの上司で、ネクロ・プログラムの軍事利用を企む企業家。冷酷な一面をアマニスが巧みに演じる。
- マリヤ:リガ・グラウバ。アレクサンダーの同僚で、技術開発のパートナー。物語に客観的な視点を加える。
スタッフ
- 監督:ヤニス・ノルズ。ラトビアの新進気鋭の監督。ミニマリスティックな映像と心理描写に定評がある。
- 脚本:エリン・カスパール、ヤニス・ノルズ。SFと恋愛の融合を試み、倫理的テーマを丁寧に描く。
- 撮影:マーティンシュ・クリエフス。ラトビアの風景と仮想空間のコントラストを効果的に捉えた撮影が特徴。
- 音楽:ライモンド・ペテルソンス。電子音とピアノを組み合わせたスコアで、作品の感情的な雰囲気を強調。
- 製作:ラトビア・フィルム・スタジオ。ラトビア国内での小規模製作ながら、国際的なテーマに挑戦。
総括
『ヴァーチャル・ウォー』は、ラトビア映画としては野心的な作品で、愛とテクノロジーの交錯をテーマに据えた内省的なドラマです。イェカテリーナ・ソコロワの演技と、衣装・化粧・髪型の工夫が、物語の二面性を際立たせています。Filmarksの低評価にもかかわらず、SFや倫理的問題に興味がある観客には一見の価値があります。物語のペースやプロダクションの制約はあるものの、ヤニス・ノルズ監督のビジョンとキャストの努力が光る作品です。
レビュー 作品の感想や女優への思い