『裏窓』(1954年/原題:Rear Window)はアルフレッド・ヒッチコック監督の傑作サスペンス映画。写真家ジェフは足を骨折し、車椅子でアパートに籠る。退屈しのぎに隣人たちを覗くうち、向かいの部屋で殺人事件を疑う。恋人リサや看護師ステラと共に真相を追う。
基本情報
- 邦題:裏窓
- 原題:Rear Window
- 公開年:1954年
- 製作国:米国
- 上映時間:113分
- ジャンル:サスペンス、スリラー
見どころ
アパートの一室を舞台に、ヒッチコックが映画技法の限りを尽くした屈指の人気作。伝説のハリウッド女優グレイス・ケリーの類いまれな美貌も存分に堪能できる。
女優の活躍
『裏窓』(原題:Rear Window)は、アルフレッド・ヒッチコック監督の傑作サスペンス映画で、グレース・ケリー演じるリサ・フレモントが物語の中心的な女性キャラクターとして際立っています。
グレース・ケリーは、この作品で優雅で知的なヒロインを演じ、観客に強い印象を与えました。彼女の演技は、単なる美貌の持ち主を超え、好奇心旺盛で勇敢な女性としての魅力を存分に発揮しています。特に、リサが危険を冒して隣人のアパートに侵入するシーンでは、彼女の決断力と行動力が強調され、物語の緊張感を高めています。ケリーは、ジェームズ・スチュアート演じるジェフとのロマンスを自然体で表現しつつ、事件解決に積極的に関わることで、ヒーロー的な役割も果たしました。彼女の演技は、ヒッチコック作品の中でも特に評価が高く、本作で彼女のスター性が確立されたと言えるでしょう。
また、共演のセルマ・リッター演じる看護師ステラも、ユーモラスで現実的な視点を提供し、物語に深みを加えています。ステラの率直な物言いとリサの洗練された魅力が対比され、女性キャラクターの多面性が際立っています。
女優の衣装・化粧・髪型
グレース・ケリーの衣装は、1950年代のファッションを象徴する洗練されたスタイルで、名デザイナー、イーディス・ヘッドによるものが使用されました。
リサの登場シーンでは、淡いグリーンのシフォンドレスが印象的で、彼女の優雅さと上流階級の雰囲気を強調します。このドレスは、流れるようなシルエットと繊細なディテールで、ケリーの美しさを最大限に引き立てました。別のシーンでは、黒と白のモノトーンのドレスや、シンプルだが高級感のあるブラウスとスカートの組み合わせが登場し、リサの洗練されたキャラクター性を表現しています。
化粧は、ナチュラルでありながらも洗練された印象を与えるもので、薄い口紅と繊細なアイメイクが特徴です。髪型は、ブロンドの髪をエレガントにアップにしたスタイルや、柔らかなウェーブがかかったショートスタイルで、1950年代の女性らしい魅力を強調しています。
一方、セルマ・リッターのステラは、実用的な看護師のユニフォームを着用し、化粧も控えめで、飾らない庶民的なキャラクターを反映しています。リサの華やかな装いとステラの簡素な服装が、両者の社会的立場や性格の違いを視覚的に表現しています。
あらすじ
プロの写真家L・B・ジェフリーズ(ジェームズ・スチュアート)は、仕事中の事故で足を骨折し、ニューヨークのグリニッジ・ビレッジにあるアパートで車椅子生活を余儀なくされます。退屈な日々を過ごす中、彼は窓から見える中庭と隣人たちの生活を観察し始めます。双眼鏡やカメラの望遠レンズを使い、隣人たちの私生活を覗き見るジェフは、向かいのアパートに住むセールスマン、ラー・ソーウォルド(レイモンド・バー)の行動に不審な点を見つけます。ソーウォルドの妻が突然姿を消し、彼が怪しい行動を取っていることから、ジェフは殺人事件が起きたのではないかと疑います。
恋人のリサ・フレモント(グレース・ケリー)は当初、ジェフの疑念を一笑に付しますが、次第に彼の推測に興味を持ち、調査に協力します。ジェフの看護師ステラ(セルマ・リッター)も、独特のユーモアと現実的な視点で二人をサポートします。ジェフ、リサ、ステラは、限られた情報と観察から真相を突き止めようと奔走しますが、ソーウォルドに気づかれたことで危険が迫ります。リサの大胆な行動とジェフの機転が試される中、緊迫感が高まるクライマックスで、事件の真相が明らかになります。ヒッチコック特有のサスペンスフルな展開と、限られた空間での巧みなストーリーテリングが光る作品です。
解説
『裏窓』は、ヒッチコックの代表作の一つであり、映画史においても重要な位置を占めています。本作の最大の特徴は、物語のほぼ全てがジェフのアパートの一室と、そこから見える中庭を舞台に展開される点です。この「限定された視点」を活かし、ヒッチコックは観客にジェフの視点を共有させ、覗き見のスリルと倫理的な葛藤を同時に味わわせます。映画は、盗撮やプライバシーの侵害というテーマを扱いながら、人間の好奇心や観察欲を巧みに描き出します。ジェフの行動は、観客自身の映画鑑賞行為を映し出す鏡とも言え、ヒッチコックはこれを利用して観客を物語に引き込みます。
また、本作はヒッチコックの技術的な才能が存分に発揮された作品でもあります。セットデザインは、ニューヨークのアパート群をリアルに再現し、複数の隣人の生活が同時に進行する様子を巧みに描写しています。カメラワークや編集も緻密で、ジェフの視線を強調するクローズアップや、緊張感を高めるカット割りが見事です。音楽はフランツ・ワックスマンによる控えめなスコアが使用され、街の雑音や隣人の生活音が効果的に取り入れられています。
さらに、ジェフとリサの関係は、1950年代の男女観や階級意識を反映しており、現代の観客にも興味深いテーマを提供します。リサの行動は、女性が伝統的な役割を超えて主体的に動く姿を示し、ジェフの固定観念に挑戦する形で描かれています。このような人間関係の描写とサスペンスの融合が、映画の普遍的な魅力を支えています。
キャスト
- L・B・ジェフリーズ(ジェフ):ジェームズ・スチュアート。主人公の写真家。骨折により車椅子生活を送り、隣人の観察に没頭する。
- リサ・フレモント:グレース・ケリー。ジェフの恋人で、ファッション業界で活躍する社交界の女性。事件解決に積極的に関わる。
- ステラ:セルマ・リッター。ジェフの看護師。ユーモラスで現実的な視点を持ち、調査に協力。
- ラー・ソーウォルド:レイモンド・バー。殺人容疑者とされるセールスマン。不気味な存在感で物語の緊張感を高める。
- トム・ドイル:ウェンデル・コーリー。ジェフの友人で刑事。ジェフの疑念を調査するが、懐疑的な態度を取る。
スタッフ
- 監督:アルフレッド・ヒッチコック。サスペンスの巨匠として知られ、本作でもその演出力が存分に発揮されている。
- 脚本:ジョン・マイケル・ヘイズ。コーネル・ウールリッチの短編「It Had to Be Murder」を基に、巧妙な脚本を執筆。
- 撮影:ロバート・バークス。ヒッチコックのビジュアルスタイルを支える撮影監督。限定された空間でのカメラワークが見事。
- 音楽:フランツ・ワックスマン。控えめながら効果的なスコアを提供し、街の音を活かした演出に貢献。
- 美術:J・マクミラン・ジョンソン、ハル・ペレイラ。リアルで複雑なアパートセットを設計し、物語の舞台を生き生きと再現。
- 衣装:イーディス・ヘッド。グレース・ケリーの衣装を担当し、1950年代のファッションを象徴するデザインを提供。
まとめ
『裏窓』は、ヒッチコックの演出力、グレース・ケリーの魅力、巧妙な脚本と技術が見事に融合したサスペンス映画の傑作です。限定された空間でのストーリーテリング、視覚的な工夫、テーマの深さが、今日でも多くの観客を魅了し続けます。グレース・ケリーの優雅な衣装と演技、セルマ・リッターのユーモラスな存在感が、物語に彩りを添え、ヒッチコックのサスペンス哲学を体現しています。
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