『三人の女』(1977年)は、アメリカの監督ロバート・アルトマンが手がけた心理ドラマ。カリフォルニアの砂漠の町を舞台に、三人の女性たちの複雑で不気味な関係を描いています。本作の魅力は、何と言ってもシェリー・デュヴァル、シシー・スペースク、ジャニス・ルールの女優3人の卓越した演技にあります。以下に、概要、女優の活躍、女優の衣装・化粧・髪型、あらすじ、解説、キャスト、スタッフについて詳しく説明します。
カリフォルニアの荒涼とした砂漠の町で、気弱な少女ピンキーが自負心の強い同僚ミリーに憧れ、奇妙な共依存関係が生まれる。妊娠中の寡黙な画家ウィリーが加わり、アイデンティティの交換が起こる夢幻的な物語。女性の心理を探るアルトマンの傑作。
基本情報
- 邦題:三人の女
- 原題:3 WOMEN
- 公開年:1977年
- 製作国・地域:米国
- 上映時間:124分
- ジャンル:ドラマ
女優の活躍
本作の魅力は、何と言っても三人の女優たちの卓越した演技にあります。シェリー・デュヴァルはミリー・ラモロー役を演じ、自己中心的な現代女性を完璧に体現しています。彼女は絶え間なく話し続け、周囲を無視するような振る舞いを自然に表現し、観客に不快さと同情を同時に喚起します。デュヴァルの演技は、鏡の前で何度も自分の姿を確かめるシーンで特に際立ち、孤独な内面を繊細に描き出しています。ロジャー・イーバート批評家は、彼女の表情を「不安の研究」と称賛し、本作をアルトマンの傑作と位置づけました。
シシー・スペースクはピンキー・ローズ役を熱演し、天真爛漫で内気な南部出身の少女を生き生きと演じ分けます。物語の進行とともにミリーの真似をし、性格が逆転する過程を、微妙な表情の変化で表現。彼女の演技は、コミカルさと不気味さを融合させ、観客を物語に引き込みます。スペースクの自然体なパフォーマンスは、後のアカデミー賞受賞作での活躍を予感させるものでした。
ジャニス・ルールはウィリー役を静かに、しかし力強く演じています。ほとんど言葉を発さない妊娠中の画家として、視線と仕草だけで存在感を発揮。物語の終盤で三人の関係が再構築される中、彼女の沈黙が全体の緊張感を高めます。ルールの演技は、派手さはないものの、深みのある心理描写で女優陣のバランスを保っています。三人の女優たちは、即興的な要素を取り入れたアルトマンの演出のもとで、互いの演技を高め合い、忘れがたいアンサンブルを実現しました。
女優の衣装・化粧・髪型
本作の衣装デザインは、キャラクターの心理を象徴的に反映しており、各女優のスタイルが物語のテーマであるアイデンティティの流動性を強調しています。シェリー・デュヴァルのミリーは、鮮やかなイエローのドレスやブラウスを多用し、明るく派手な印象を与えます。彼女の衣装は常に完璧に着こなし、鏡の前で微調整するシーンが繰り返されます。化粧は濃いめの口紅とアイラインで、現代的で洗練された女性像を演出。髪型はボリュームのあるブロンドのボブカットで、常に整えられたスタイルが彼女の自負心を表しています。この視覚的な統一感が、ミリーの表層的な自信を強調します。
シシー・スペースクのピンキーは、ピンク色の可愛らしい衣装が特徴で、少女らしい無垢さを象徴します。初期のシーンではシンプルなピンクのワンピースやブラウスを着用し、田舎育ちの純朴さを表現。化粧は薄く、自然なメイクで内気な性格を反映します。髪型はストレートのロングヘアで、時折ポニーテールにまとめ、若々しさを際立たせています。物語が進むと、ミリーのイエロー系の衣装を取り入れ、髪を少し巻いて変化を示します。この移行が、キャラクターの心理変容を視覚的に伝えます。
ジャニス・ルールのウィリーは、地味なアースカラーのドレスやローブを着用し、神秘的で孤立した存在を体現。妊娠を考慮したゆったりしたシルエットが、彼女の内省的な性格を表します。化粧はほとんど施さず、素顔に近いナチュラルメイクで、寡黙さを強調。髪型は緩やかなウェーブのかかったダークブラウンのミディアムヘアで、時折乱れが見られ、芸術家らしい自由奔放さを示します。終盤ではミリーがウィリーのスタイルを模倣し、化粧を薄くし髪をまとめ、役割の逆転を象徴します。衣装デザイナー・キャサリン・ブースの仕事は、色彩とスタイルのコントラストで女性たちの関係性を深く描き出しています。
あらすじ
物語は、カリフォルニアの砂漠に位置する寂れた町で始まります。内気な南部出身の少女、ピンキー・ローズ(シシー・スペースク)は、高齢者向けのヘルススパで働き始めます。そこで出会ったのが、自信過剰で社交的な同僚のミリー・ラモロー(シェリー・デュヴァル)です。ミリーは常に自分の魅力について語り、周囲を振り回しますが、ピンキーはそんな彼女に強く憧れを抱きます。ミリーはピンキーを自室に招き、ルームメイトとして迎え入れます。二人はパープル・セージ・アパートに住むことになり、そこは酒浸りの元スタントマン、エドガー・ハート(ロバート・フォーティエ)とその妻で寡黙な画家ウィリー(ジャニス・ルール)が所有しています。ウィリーはほとんど言葉を発さず、不気味な壁画を描き続け、妊娠中です。
ミリーはピンキーを地元の酒場兼射撃場ドッジ・シティに連れていき、友人たちとの交流を自慢げに語ります。しかし、ミリーの話し相手は実際には彼女を無視しており、ピンキーだけが熱心に耳を傾けます。ある日、ミリーの元ルームメイトが夕食の約束をドタキャンし、苛立つミリーはエドガーと酒を飲み、帰宅します。ピンキーはウィリーの妊娠を心配し、ミリーにエドガーとの関係を控えるよう頼みますが、ミリーは激怒し、ピンキーに引っ越せと迫ります。傷ついたピンキーはバルコニーからプールに飛び込み、自殺を図りますが、一命を取り留め、昏睡状態に陥ります。
病院で目を覚ましたピンキーは、自分のテキサス出身の両親を認識せず、追い返します。退院後、ピンキーはミリーの振る舞いを真似し始め、酒を飲み、喫煙し、エドガーと関係を持ち、射撃を楽しむようになります。彼女は自分の名前をミルドレッドと名乗り、ミリーの影となります。一方、ミリーは次第にピンキーのような内気さを見せ始め、二人の役割が逆転します。ある夜、ピンキーの悪夢の後、二人はベッドを共にします。そこに酔ったエドガーが現れ、ウィリーの出産が近いことを告げます。二人はウィリーの元へ急ぎますが、ウィリーは一人で苦しみ、死産します。エドガーは姿を消します。
物語の終わりでは、ドッジ・シティでピンキーは子供のような無垢さを取り戻し、ミリーを母親と呼び、ミリーはウィリーの役割を担います。配達員がエドガーの死を告げ、三人の女性たちは新たな均衡を築きます。このあらすじは、夢のような曖昧さを持ち、明確な結末を残しません。
解説
ロバート・アルトマンの『三人の女』は、監督自身の夢から着想を得た心理ドラマの傑作。1977年のカンヌ国際映画祭でプレミア上映され、批評家から高く評価されました。物語は、女性たちのアイデンティティの流動性と相互依存をテーマに、砂漠の孤立した町を舞台に展開します。この設定は、登場人物たちの内面的な孤独を象徴し、アルトマンの得意とするアンサンブル演技を活かした即興的な演出が光ります。
分析の観点から、本作は三人の女性を「処女」「母」「老婆」のトリプル・ゴッデスとして描いていると解釈されます。ピンキーは無垢な処女、ミリーは野心的な母性、ウィリーは沈黙の老婆を表し、物語を通じてこれらの役割が循環します。ロジャー・イーバートは、前半を「風刺的でユーモラスなコミュニティの肖像」とし、後半を「仮面の性的恐怖」と評し、夢のような論理のつながりが感情的に響くと指摘しました。ミリーの絶え間ない独白は、現代女性の疎外感を風刺し、ピンキーの模倣はアイデンティティの危機を象徴します。
視覚的に、鏡の多用や壁画のモチーフが心理の複雑さを強調。ウィリーの絵は、女性たちの潜在意識を反映し、物語の不気味さを増幅します。アルトマンのドリームワークは、イングマール・ベルイマンの『ペルソナ』に影響を受けつつ、独自のアメリカンな風刺を加えています。批評家マイケル・スラゴウは、「アルトマン作品で最も奇妙で魅力的な幻惑」と呼び、豊かなイメージがメタファーを超えると絶賛。興行的には成功しませんでしたが、後の再評価でカルト的人気を博しました。本作は、女性の心理を探求するフェミニズム的視点からも注目され、現代のジェンダー論に通じる深みを持っています。
全体として、アルトマンの天才性が発揮された作品であり、観客に解釈の余地を残す開放的な構造が魅力です。女優たちの変容は、日常の仮面の下にある本質を問いかけ、永遠のテーマを扱っています。
キャスト
- シェリー・デュヴァル ミリー・ラモロー役
- シシー・スペースク ピンキー・ローズ役
- ジャニス・ルール ウィリー役
- ロバート・フォーティエ エドガー・ハート役
- クリスティーン・ネルソン ケイト役
- ルース・ネルソン ルームメイト役
- ジョン・カーター ドク役
- デビッド・ヒューレット ルシール役
- モイラ・ハリス コール役
スタッフ
- 監督・脚本・製作 ロバート・アルトマン
- 撮影 チャールズ・ロシャー・ジュニア
- 編集 デニス・ヒル
- 音楽 ジェラルド・ブズビー
- 衣装デザイン キャサリン・ブース
- 美術 ダイアン・レナード
- 音響 シェルドン・タドラー
- 製作会社 ライオンズ・ゲート・フィルムズ
- 配給 20th・センチュリー・フォックス
まとめ
以上が『三人の女』の詳細です。本作は、独特の雰囲気と深い心理描写で、繰り返し観賞する価値のある映画です。
レビュー 作品の感想や女優への思い