『脂肪の塊』は、天野友二朗監督の長編第2作として、2017年に完成した日本のインディペンデント映画。
会社員として働くレズビアンの女性・沢村花子は、連日青いバケツと真っ赤な血の悪夢にうなされます。記憶の曖昧さを抱え、恋人ユキに相談する中、町では女性を狙う連続殺人鬼とストーカーが暗躍します。
花子の過去が徐々に暴かれ、驚愕の真実が明らかになるサスペンス。人間の孤独と内面的な闇を、夢と現実の交錯で描く異色作で、監督の独自の世界観が光ります。
基本情報
- 名前:脂肪の塊
- 製作年:2017年
- 公開年:2019年
- 製作国・地域:日本
- 上映時間:99分
- ジャンル:サスペンス
女優の活躍
本作の中心を担う女優として、主人公・沢村花子役のみやびさんが際立っています。彼女は連日繰り返される悪夢に苛まれる花子の複雑な心理を、ボソボソとした控えめな話し方と微妙な表情の変化で表現し、観る者の心を強く引きつけます。レビューでは「感情移入が止まらない」との声が多く、記憶の喪失という難役を見事に体現しています。一方で、台詞の聞き取りづらさが指摘されることもありますが、それが花子の内気で孤立したキャラクターをより強調し、物語の緊張感を高めています。
恋人・伊藤ユキ役の田山由起さんは、優しく花子を受け止める温かな存在として活躍します。彼女の穏やかな視線と自然なボディランゲージが、花子の苦悩に対する癒しの象徴となり、二人の関係性が物語の情感を深めています。田山さんは肉体関係のシーンでも、繊細なタッチで純愛の純粋さを伝え、観客に心地よい余韻を残します。また、脇を固める女優陣として、村田唯さん、真柳美苗さん、上田うたさん、宮内杏子さん、板垣まゆさんらが登場し、それぞれの役割で物語の闇を補完します。例えば、村田唯さんは被害者役として恐怖の表情をリアルに演じ、全体のサスペンスを支えています。
これらの女優たちの活躍により、本作は単なるホラーではなく、人間ドラマとしての深みを増しています。監督の天野友二朗氏が女優陣の内面を引き出す演出が功を奏し、限られた予算の中で力強いパフォーマンスが生まれました。全体として、女優たちの存在が本作の魅力の核心を成しており、彼女たちの努力がスクリーンを通じて強く伝わってきます。
女優の衣装・化粧・髪型
本作の女優たちの衣装、化粧、髪型は、キャラクターの心理状態を反映したシンプルで現実的なスタイルが特徴です。主人公・花子役のみやびさんの衣装は、日常的なオフィスウェアを中心に据え、二日連続で同じ服を着用するシーンが印象的です。この繰り返しの服装は、花子の記憶の混乱と日常の停滞を象徴し、柄物のブラウスやスカートが微妙にくたびれた質感で、彼女の内面的な疲弊を視覚的に表現しています。化粧は薄く、目元にわずかなクマを施すことで悪夢の影響を受けた憔悴した表情を強調し、ナチュラルながらも現実味のある仕上がりです。髪型はショートカットに軽く乱れを加え、寝起きの自然なボリュームで混乱した精神を表しています。
一方、ユキ役の田山由起さんの衣装はカジュアルで親しみやすいデニムやニットが多く、花子の硬い服装との対比で温かみを演出します。化粧は健康的なピンク系のチークを控えめに使い、親しみやすい笑顔を引き立て、髪型はストレートのロングヘアを後ろで軽くまとめ、日常の優しさを象徴しています。他の女優たち、例えば村田唯さんや真柳美苗さんの被害者役では、日常着のワンピースやコートが用いられ、ストーカー被害の恐怖を喚起するよう、ゆったりとしたシルエットが選ばれています。化粧は淡いリップとアイラインで無防備さを出し、髪型はポニーテールやおろしたスタイルで、突然の脅威に晒される脆弱性を強調します。
これらの選択は、監督の意図により低予算ながら効果的に機能し、女優たちの自然体な美しさを引き立てています。全体として、衣装・化粧・髪型は派手さを避け、物語のリアリズムを支える重要な要素となっています。
あらすじ
会社員として働くレズビアンの女性、沢村花子は、連日連夜、青いバケツと真っ赤な血の出てくる悪夢にうなされていました。この夢の意味を探る中、彼女は記憶が曖昧になっていることに気づきます。約一ヶ月前から、何かがおかしいのです。
そんな花子は、親しい友人であり恋人の伊藤ユキに相談を持ちかけます。ユキの優しい眼差しに触れ、二人は自然と肉体関係を持ちますが、花子はなぜか「初めてではない」ような奇妙な既視感を覚えます。
一方、町では女性ばかりを狙った連続殺人事件が発生しており、犯人の野村邦夫は過去のトラウマに苛まれ、次々と犠牲者を増やしていきます。彼の冷徹な視線と残虐な手口は、社会に恐怖を植え付けます。
また、カトリック信者の根岸吾郎は、自らの抑えきれない欲望から複数の女性にストーカー行為を繰り返します。彼の執拗な監視と異常な行動は、日常を蝕みます。やがて、花子が根岸の標的となります。根岸は花子に巧みに接近し、彼女の過去に関する驚愕の真実を突きつけます。それは、花子の記憶の空白を埋める鍵であり、夢のバケツが示す秘密の正体です。
花子の過去が徐々に蘇り、消せない記憶が彼女を追い詰めます。ユキとの関係、殺人鬼の影、ストーカーの脅威が交錯する中、花子は自らのアイデンティティと向き合わざるを得なくなります。夢と現実の境界が曖昧になる中、彼女は真実を暴き、解放への道を探ります。
本作は、こうした緊張感あふれる展開を通じて、人間の暗部を抉り出します。99分の上映時間の中で、観客は花子の苦悩に深く没入し、最後のカタルシスを待ち望むことでしょう。
解説
『脂肪の塊』は、天野友二朗監督の長編第2作として、2017年に完成した日本のインディペンデント映画。監督自身が医学研究者から自主映画界へ転身した異色の経歴を持ち、前作『自由を手にするその日まで』でカナザワ映画祭2017審査員特別賞を受賞した実績を背景に、本作ではサスペンスの枠を超えた人間心理の探求を試みています。
タイトル「脂肪の塊」は、モーパッサンの同名小説を連想させますが、本作はオリジナル脚本で、肉体的な「塊」ではなく、精神的な「塊」――すなわち抑圧された記憶や欲望の凝集体を象徴します。物語の核となる悪夢のモチーフ、青いバケツと赤い血は、フロイト的な無意識の表象として機能し、花子のトラウマを視覚的に描き出します。この夢と現実の交錯は、観客に常識の崩壊を促し、監督の独自の世界観「天野ワールド」を体現しています。
テーマ的には、レズビアンの関係性を自然に織り交ぜ、性的指向の多様性を肯定しつつ、孤独と疎外の普遍性を強調します。連続殺人鬼とストーカーの存在は、社会の闇を映す鏡として機能し、加害者側の心理描写も丁寧で、単純な善悪二元論を避けています。製作は低予算ながら、特殊造型や音楽(新日本BGMフィルハーモニー管弦楽団の演奏)が効果的に用いられ、ホラー要素を強化。レビューでは「既成概念をぶっ壊す」「見返したくなる良作」と高評価が多く、挑発的な展開が若手監督の野心を感じさせます。一方で、演技の粗さやテンポの緩さが指摘されることもありますが、それがインディー映画の魅力として昇華されています。
本作は、現代社会のメンタルヘルス問題を予見的に扱い、観客に内省を促す作品です。公開後、DVD化され、Prime Videoなどで視聴可能となり、カルト的人気を博しています。監督の次作への布石としても、重要な一作と言えるでしょう。
キャスト
- 沢村花子:みやび
- 伊藤ユキ:田山由起
- 野村邦夫:髙野春樹
- 根岸吾郎:米元信太郎
- 村田唯
- 真柳美苗
- 上田うた
- 宮内杏子
- 板垣まゆ
- 田中一平
- アベラヒデノブ
- 田口由紀子
- 保土田智之
- 大澤あけみ
- 三好康司
- 冨田智
- 大野大輔(特別出演)
スタッフ
- 監督・脚本・作曲:天野友二朗
- 録音:川北ゆめき、井坂優介
- 特殊造型:土肥良成
- 小道具製作:藤本楓
- 楽曲演奏:新日本BGMフィルハーモニー管弦楽団(指揮:市原雄亮)、日吉真澄(ピアノ)
- 楽曲ミキシング:有馬克己
- 製作・宣伝配給:T&Y FILMS
- 製作年:2017年
- 製作国:日本
- 上映時間:99分

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