『Bad Genius』(2024年)は、2017年のタイ映画『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』の英語リメイク版で、アメリカ製作のクライム・スリラー映画。J.C.リー監督が手掛け、天才的な頭脳を持つ高校生たちが大学入試の不正システムを打破する計画を立てる物語。カンニングを題材に、緊張感溢れる展開と社会的不平等をテーマにした作品で、ベネディクト・ウォンや新進気鋭の若手俳優が出演。2024年10月11日に米国で公開されました。
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あらすじ
『Bad Genius』(2024年)は、アメリカの高校を舞台に、優れた頭脳を持つ女子高生リン(カーリナ・リャン)が中心となり、大学入試の不正システムに立ち向かう物語です。リンは貧しい家庭で育ち、奨学金を得て名門校に通う才女。ある日、友人のためにテスト中にカンニングを助けたことをきっかけに、彼女の才能が注目されます。裕福な同級生からカンニングの代行を依頼され、リンは高度な手法を駆使して試験を攻略し、報酬を得るビジネスを始めます。
このビジネスは次第にエスカレートし、国際的な大学入試であるSATを舞台にした大規模なカンニング計画へと発展。リンは仲間たちとともに、緻密な策略とテクノロジーを活用し、試験会場をまたぐ大胆な作戦を展開します。しかし、計画が進むにつれ、倫理的な葛藤や当局の追及、そして仲間内の裏切りが表面化。リンは自らの未来と正義の間で揺れ動きながら、システムの不公平さに立ち向かう決断を迫られます。スリリングな展開の中、知恵と勇気を武器に挑む高校生たちの姿が描かれます。
解説
『Bad Genius』(2024年)は、2017年のタイ映画『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』のリメイクであり、オリジナルがアジアで記録的なヒットを収めた成功を背景に、アメリカの観客に向けて再構築された作品です。オリジナルは中国で実際に起きた集団不正入試事件をモチーフに、カンニングという日常的な行為をスリリングな犯罪映画の枠組みで描き、批評家から高い評価を受けました(ロッテントマト92%)。 本作もそのエッセンスを継承しつつ、アメリカの教育システムや社会的不平等を背景に物語を展開しています。
本作の魅力は、カンニングという身近な題材を、まるで『オーシャンズ11』のようなハイステークな犯罪計画に昇華させた点にあります。オリジナルでは、ピアノの指の動きで解答を伝える「ピアノレッスン」や、時差を利用した国際的なカンニング作戦など、独創的な手法が話題となりました。リメイク版では、これらの要素を現代のテクノロジーやアメリカの大学入試システム(SATやACT)に合わせて再構築。視覚的な演出やテンポの良い編集により、観客は手に汗握る緊張感を味わえます。
また、本作は単なるエンターテインメントに留まらず、階級格差や教育システムの不公平さという社会問題を浮き彫りにします。リンは貧困層出身であり、裕福な同級生との経済的格差や、大学進学における不平等な競争に直面します。このテーマは、オリジナルがタイやアジア諸国の観客に共感を呼んだ点と同様に、アメリカの観客にも響く普遍的なメッセージを持っています。さらに、倫理的なジレンマや友情、裏切りといった人間ドラマが物語に深みを加え、単なる犯罪映画を超えた作品に仕上げています。
監督のJ.C.リーは、脚本家として知られ、本作で長編監督デビューを果たしました。彼の演出は、オリジナルをリスペクトしつつも、アメリカの若者文化や教育環境に適応させた独自の視点を加えています。オリジナル監督のナタウット・プーンピリヤが築いたスタイリッシュで緊張感のあるトーンを継承しつつ、新たなキャストによるフレッシュな解釈が光ります。
女優の活躍
本作で主人公リンを演じたカーリナ・リャン(Callina Liang)は、カナダ出身の新進気鋭の女優で、本作が彼女のブレイク作品となりました。リンは天才的な頭脳を持ちながら、貧困と倫理的葛藤に悩む複雑なキャラクターであり、リャンはその内面的な葛藤を繊細に表現。知性と脆弱さを兼ね備えた演技で、観客に強い印象を与えました。とくに、カンニングの実行場面では、冷静かつ大胆なリンの姿を生き生きと演じ、アクション場面や感情的な場面でも存在感を発揮しています。リャンのデビュー作としてのパフォーマンスは、オリジナルでチュティモン・ジョンジャルーンスックジンがタイのアカデミー賞を受賞した演技に匹敵する評価を受けています。
共演のテイラー・ヒクソン(Taylor Hickson)も注目すべき女優です。彼女はグレース役を演じ、リンの友人でありカンニング計画のきっかけとなるキャラクターを好演。ヒクソンは『デッドプール』(2016年)などで知られ、若手ながら安定した演技力で知られています。本作では、グレースの天真爛漫さと裏に隠れた野心を見事に表現し、リャンとの掛け合いが物語に軽快なリズムをもたらしています。彼女の演技は、物語の青春ドラマの側面を強化し、観客に感情的な共感を呼び起こします。
さらに、サラ・ジェーン・レドモンド(Sarah-Jane Redmond)も重要な脇役として登場。ベテラン女優として知られる彼女は、厳格な教師や保護者役で物語に緊張感を加え、若手キャストとの対比で作品に深みを加えています。彼女の経験豊富な演技は、物語のリアリティを支える重要な要素となっています。
詳細補足
カーリナ・リャンの演技は、本作の成功の鍵と言えるでしょう。彼女はリンの知性と感情の揺れを巧みに表現し、特にカンニング計画の実行シーンでは、観客を引き込む緊張感を演出。オリジナルでチュティモンが「タイのアカデミー賞」主演女優賞を受賞したように、リャンも今後さらなる注目を集める可能性があります。テイラー・ヒクソンは、グレース役でコミカルな魅力と裏に隠れた野心をバランスよく演じ、物語に軽快なリズムを加えました。サラ・ジェーン・レドモンドのベテランらしい安定感も、若手キャストのエネルギーと調和し、作品全体のバランスを整えています。
キャスト
カーリナ・リャン(Callina Liang)
主人公リン役。貧困家庭出身の天才女子高生で、カンニング計画の首謀者。知性と倫理的葛藤を体現。
ジャバリ・バンクス(Jabari Banks)
バンク役。リンの同級生で、カンニング計画に参加する仲間。『ベルエアのフレッシュ・プリンス』(2022年)で知られる若手俳優。
テイラー・ヒクソン(Taylor Hickson)
グレース役。リンの友人で、カンニングのきっかけを作る天真爛漫なキャラクター。
ベネディクト・ウォン(Benedict Wong)
リンの父親役。厳格だが娘を愛する父親を演じ、物語に感情的な重みを加える。『ドクター・ストレンジ』シリーズなどで知られる。
サラ・ジェーン・レドモンド(Sarah-Jane Redmond)
教師または保護者役(詳細な役柄は公開情報に基づく推測)。物語の緊張感を高める脇役。
スタッフ
- 監督:J.C.リー…本作が長編監督デビュー作。脚本家として『ルース・エドガー』(2019年)などで知られ、緻密なストーリーテリングが特徴。オリジナルを尊重しつつ、アメリカの観客に合わせたアプローチでリメイクを成功させた。
- 脚本:J.C.リー、ジュリアス・オナー…リーは監督と兼任し、ジュリアス・オナー(『ルース・エドガー』プロデューサー)と共同で脚本を執筆。オリジナル脚本のナタウット・プーンピリヤ、タニダ・ハンタウィーワタナ、ヴァスドーン・ピヤロムナを基に、現代のアメリカの教育環境に適応させた。
- 製作:エリック・フェイグ、パトリック・ワクズバーガー…フェイグは『ラ・ラ・ランド』(2016年)、ワクズバーガーは『トワイライト』シリーズなどで知られるベテランプロデューサー。2019年にリメイク企画を発表し、本作の実現に大きく貢献。
- 撮影監督:未公開情報…公開情報に詳細はないが、オリジナル同様、スタイリッシュで緊張感のある映像が特徴。カンニングシーンのクローズアップやテンポの速い編集が際立つ。
- 音楽:未公開情報…オリジナルではサウンドトラックが緊張感を高める要素として評価されており、リメイクでも同様の効果が期待される。
総括
『Bad Genius』(2024年)は、オリジナル作品のスリリングなエンターテインメント性と社会的なメッセージを継承しつつ、アメリカの観客に合わせたリメイクとして成功を収めています。カーリナ・リャンをはじめとする若手俳優のフレッシュな演技と、ベネディクト・ウォンらのベテランの安定感が融合し、緊張感と感情的な深みを両立。J.C.リーの監督デビュー作として、オリジナルへのリスペクトと新たな視点が見事に調和した作品です。教育システムの不平等や倫理的葛藤を描きながら、観客をハラハラさせるクライム・スリラーとして、幅広い層に楽しめる一作となっています。
レビュー 作品の感想や女優への思い