『TRANSPORT トランスポート』(原題:FETCHING CODY)は、2005年にカナダで製作されたSFドラマ。恋人コーディを救うため、青年アートがタイムマシンで過去を旅する物語。低予算ながら練られた脚本と情感豊かな演出で、愛と運命について深く考えさせられる作品。主演はジェイ・バルチェルとサラ・リンド。
TRANSPORT トランスポート
- 邦題:TRANSPORT トランスポート
- 原題:FETCHING CODY
- 公開年:2005年
- 製作国:カナダ
- 上映時間:89分
- ジャンル:ドラマ
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見どころ
タイムマシンといってもメカニカルなものを期待していると意表をつかれます。全体的にダークな作風で、出演者の演技力が確かで、そのひたむきな衝動に引き込まれます。
あらすじ
青年アート(ジェイ・バルチェル)は、恋人のコーディ(サラ・リンド)が薬物の過剰摂取で昏睡状態に陥ったことを知り、絶望に打ちひしがれます。病院に急行するも、彼女の命が危険にさらされている現実に直面します。そんな中、顔馴染みの浮浪者ハーベイ(ジム・バーンズ)が「タイムマシン」と称するボロボロの椅子をアートに教えます。半信半疑ながらも試してみると、驚くことに本当に過去への移動が可能でした。アートはコーディを救うため、彼女の過去を変えるべく時間と場所を行き来します。過去のコーディに会い、彼女の人生の選択を変えようと奮闘するアートですが、タイムトラベルの試みは予想外の結果を招き、彼女の運命を思うように変えることができません。繰り返し過去を訪れる中で、アートはコーディの人生の背景や彼女が抱えていた苦悩を深く理解していきます。物語は、愛と犠牲、そして運命を受け入れることの意味を問いかけながら、感動的な結末へと進みます。
感想
アート・フランケル、恋人コーディ(サラ・リンド)のアパートに着くと、彼女はヘロインの過剰摂取をしていました。アートは彼女の死を防ごうとタイムトラベルして事態を収拾しようとします。本作は奇妙なタイム・トラベルものですが、楽しいパラドックスの問題をほとんど回避し、バタフライ・エフェクトの問題に還元している気がしました。その分、コーディへの想いが高い純度で伝わってきます。
女優の活躍
本作でコーディ役を演じたサラ・リンドは、カナダ出身の女優で、本作での演技が特に注目されました。彼女はコーディの複雑な感情や薬物依存による脆さ、そして愛らしさを絶妙に表現し、物語の感情的な核を担っています。コーディは、時に明るく魅力的な女性として、時に自暴自棄になる姿を見せるキャラクターであり、サラ・リンドはその両極端な側面を自然に演じ分けました。特に、アートとのラブシーンでは、彼女の温かみのある演技が二人の絆を強調し、観客に強い印象を与えます。また、過去のシーンで若かりしコーディを演じる際には、無垢さと傷つきやすさを巧みに表現し、キャラクターの成長と変化を際立たせました。サラ・リンドの演技は、低予算映画の制約を補って余りある力強さを持ち、本作を名作たらしめる要因の一つです。
女優の衣装・化粧・髪型
サラ・リンド演じるコーディの衣装は、物語の舞台であるスラム街の雰囲気とキャラクターの生活環境を反映したものになっています。彼女の衣装は、派手さや華やかさよりも、日常的でややくたびれた印象を与えるものが中心です。例えば、ゆったりとしたTシャツや色あせたジーンズ、ボロボロのジャケットなどが多く、彼女の生活の困窮や薬物依存の影響を視覚的に示しています。これにより、コーディのキャラクターが社会の底辺で生きる若者としてリアルに感じられます。一方で、過去のシーンでは、若いコーディとして少し明るい色の服や、シンプルながらも女性らしいワンピースが登場し、彼女の純粋な一面を強調しています。
化粧に関しては、コーディの状況を反映して、基本的には薄化粧またはほぼスッピンの状態で登場します。薬物依存の影響でやつれた表情や青白い肌を表現するため、濃いメイクは避けられ、自然な肌の質感や目の下のクマなどが強調される場面もあります。これにより、彼女の心身の疲弊が視覚的に伝わります。一方、過去のシーンでは、軽いリップやチークを用いたナチュラルメイクで、若々しさや希望に満ちた雰囲気を演出しています。
髪型は、コーディの生活の不安定さを反映して、ルーズでやや乱れたスタイルが特徴です。ロングヘアをそのまま下ろしたり、雑に束ねたりする姿が多く、彼女の無造作な生き方を象徴しています。過去のシーンでは、髪を軽く巻いたり、ポニーテールにしたりすることで、若かりしコーディの活気や純真さを表現しています。これらの衣装、化粧、髪型は、コーディのキャラクター造形に深く貢献し、物語のテーマである「希望と現実」の対比を視覚的に補強しています。
解説
『TRANSPORT トランスポート』は、タイムトラベルを題材にしたSFファンタジー映画ですが、その本質は青春恋愛ドラマにあります。物語の中心は、恋人コーディを救おうとするアートの純粋でひたむきな愛です。低予算映画であるため、特殊効果やセットは簡素で、タイムマシン自体も電飾が施された古びたソファーというユニークな設定です。しかし、このチープさが逆に親しみやすさを生み、物語の情感を際立たせています。監督のデヴィッド・レイは、限られた予算の中で独特のカメラワークとダークな雰囲気を用いて、スラム街の荒々しい背景とキャラクターの内面的な葛藤を描き出しました。物語は単なるSF冒険にとどまらず、薬物依存や社会の底辺で生きる若者たちの現実をリアルに描写し、希望と絶望の間で揺れ動く人間ドラマを提示します。特に、赤い風船が象徴する「希望」や「幻覚」のテーマは、観客に深い解釈の余地を与え、物語の多層的な魅力を高めています。
本作は、典型的なハリウッド映画とは異なり、カナダのインディペンデント映画らしい独自の感性を持っています。主人公アートは、スクールカーストの頂点に立つようなヒーローではなく、どこか頼りない「ダメ男」として描かれ、その人間臭さが観客の共感を呼びます。コーディのキャラクターもまた、単なる被害者ではなく、複雑な背景を持つ女性として丁寧に描かれており、彼女の選択や行動が物語に深みを与えています。脚本は、タイムトラベルのパラドックスや倫理的問題を巧みに織り交ぜつつ、恋愛要素を9割、SF要素を1割とするバランスで展開し、観客に感情的なインパクトを与えることに成功しています。
キャスト
- ジェイ・バルチェル(アート):主人公のアートを演じ、恋人を救うために奮闘する青年のひたむきさと脆さを表現。
- サラ・リンド(コーディ):薬物依存に苦しむ恋人コーディ役。複雑な感情を繊細に演じ、物語の情感を牽引。
- ジム・バーンズ(ハーベイ):タイムマシンを発見する浮浪者役。コミカルかつ温かみのある演技で物語に彩りを加える。
- ニール・デニス(サドン):脇役として登場し、スラム街の雰囲気を補強。
- バークレイ・ホープ(コーディの父):コーディの過去に影響を与える重要な役どころ。
- リアム・マクギガン(デビッド):物語の背景を支える脇役。
登場人物 | 出演者 |
---|---|
アート・フランケル | ジェイ・バルチェル |
コディ・ウェッソン | サラ・リンド |
ハーヴェイ | ジム・バーンズ |
ホールデン・ウェッソン | ルーカス・ブラニー |
サドン | ニール・デニス |
デヴィッド・ヘルメット・ヤー | リアム・マクギガン |
ウェッソン夫人 | チルトン・クレーン |
ミスター・ウェッソン | バークレイ・ホープ |
ヤング・コーディ | ニコール・ムニョス |
サンタ | ケン・ジョーンズ |
サブリナ | ロバート・カイザー |
ローズ | ジェス・マクラウド |
ナース・サム | アンジェラ・ムーア |
チャラ | カイラ・ワイズ |
救急隊員 | アート・キッチング |
救急隊員 | モーガン・ブレイトン |
警備員 | マノジ・スード |
少女 | アシュリー・ウィランズ |
女子生徒 | キャロライン・チャン |
校長 | ピーター・ハンロン |
観光客 | コリン・フー |
そばかすの少年 | ジョシュ・ヘイデン |
自分 | ドッグ・ナイフ |
サッカー野郎 | マイケル・マッキャン |
スタッフ
- 監督・脚本:デヴィッド・レイ:本作の監督兼脚本家。低予算ながら独創的なビジョンでSFと恋愛ドラマを融合。
- 製作:キャロリン・アレイン、クリスティーナ・バルブルック:インディペンデント映画としての制作を支えた。
- 編集:カレン・ポーター:物語のテンポと情感を保つ編集で、タイムトラベルの混乱を整理。
- 撮影:ポール・ミットフォード:独特のカメラワークでスラム街の雰囲気とキャラクターの心情を描写。
- 音楽:フィリップ・ウェスタン:ダークで情感豊かな音楽が物語の雰囲気を高める。
担当 | 担当者 |
---|---|
衣装デザイン | ブロディ・デイヴィソン |
ヘアスタイル/メイクアップ助手 | クリスティン・フリッツ |
ヘア/メイクアップ主任 | レイチェル・ジョーンズ |
ヘア/メイクアップ助手 | ダナ・ムーニー |
オンセット衣装 | イライザ・ラウ |
まとめ
『TRANSPORT トランスポート』は、低予算ながらも愛と運命をテーマにした深い物語と、サラ・リンドの印象的な演技で観客を引き込む作品です。タイムトラベルというSF要素を活用しつつ、青春恋愛ドラマとしての情感を重視した本作は、カナダ映画の隠れた名作として評価されています。衣装や化粧、髪型を通じてキャラクターの生活や心情を表現し、視覚的にも物語を補強しています。監督デヴィッド・レイの独創性と、キャスト・スタッフの努力が結実した本作は、観る者に希望と現実の間で揺れ動く感情を呼び起こします。
レビュー 作品の感想や女優への思い