『パトリオット・デイ』は2016年公開の米国サスペンス映画。2013年のボストン・マラソン爆破事件を題材に、爆破犯の追跡劇を描く。監督ピーター・バーグ、主演マーク・ウォールバーグ。実在の事件を基に、警察官の奮闘と市民の絆を感動的に綴る。事件の混乱と捜査の緊迫感が交錯し、ボストンの強靭な精神を象徴する作品。
基本情報
- 邦題:パトリオット・デイ
- 原題:Patriots Day
- 公開年:2016年
- 製作国・地域:アメリカ合衆国
- 上映時間:133分
- ジャンル:アクション、クライム
- 配給:キノフィルムズ
あらすじ
2013年4月14日、ボストン市警のトミー・サンダース巡査部長(マーク・ウォールバーグ)は、容疑者を逮捕するが、上司の判断で翌日のボストン・マラソン警備に配置される。マラソンのフィニッシュライン近くで、兄弟のタメルラン・ツァルナエフ(テモ・メリキゼ)とジョハル・ツァルナエフ(アレックス・ウォルフ)が自作爆弾を爆発させ、3人が死亡、数多くの負傷者を出す大惨事となる。負傷者のうち、パトリック・ダウンズ(クリストファー・オシェイ)とジェシカ・ケンスキー(レイチェル・ブロズナハン)は両脚を失う重傷を負い、スティーブ・ウルフエンデン(クリストファー・ボベール)は幼い息子レオから引き離されてしまう。
連邦捜査局(FBI)のリチャード・デスローリエス特別捜査官(ケビン・ベーコン)が捜査を主導し、ボストン市警のエド・デイビス委員長(ジョン・グッドマン)やワーテルタウン市警のジェフリー・プグリエーゼ巡査部長(J・K・シモンズ)と連携。トミーは負傷者の救助や証拠収集に奔走する。FBIは監視カメラ映像から容疑者の兄弟を特定し、写真をメディアに公開する。一方、兄弟はMITの警察官ショーン・コリアー(ジェイク・ピッキング)を射殺し、中国人留学生のダン・メン(ジミー・O・ヤン)の車をカージャック。メンは逃げ出し、警察に通報する。
ワーテルタウンでの銃撃戦でタメルランが死亡し、ジョハルは逃亡。市民のデビッド・ヘネベリー(デビッド・ヘネベリー)がボートに隠れるジョハルを発見し、逮捕に至る。事件後、ボストン市警はレッドソックス戦で称賛され、ジョハルの裁判で死刑判決が下る。物語は事件の余波とボストンの結束を描き、被害者たちの回復と正義の追求で締めくくられる。このあらすじは、事件の時系列を忠実に追いつつ、フィクションの要素を加えてドラマチックに展開される。
解説
『パトリオット・デイ』は、2013年のボストン・マラソン爆破事件を題材としたサスペンス映画として、監督ピーター・バーグのリアリズム志向が光る作品です。バーグ監督は『ディープウォーター・ホライゾン』や『ローン・サバイバー』で知られるように、実在の惨事や英雄譚を基に、ドキュメンタリー的な手法で描くスタイルを確立しています。本作では、事件の発生から容疑者逮捕までの5日間を、複数の視点からクロニクル形式で追跡。マーク・ウォールバーグ演じるトミー・サンダース巡査部長という架空の人物を軸に据えることで、観客に感情移入しやすくし、事件の複雑さを整理しています。
批評家からは、事件の再現度の高さと緊張感あふれるアクションが称賛されました。ロッテン・トマトでは80%の支持率を獲得し、ヴァラエティ誌のピーター・デブルージュは「徹底したリサーチに基づくエンターテイメントで、プロフェッショナルな演出が光る」と評価。一方、ボストン地元メディアからは、事件の近時性ゆえの違和感を指摘する声もあり、ボストン・グローブのタイ・バー氏は「必要以上のグラマラスさがあり、侮辱的」と批判。バーグ監督はこれに対し、事件の生々しさを避けず、ボストンの「ストロング」精神を伝える意図を強調しました。
テーマ的には、テロリズムの脅威に対するアメリカ社会の回復力を描き、FBIと地元警察の連携、市民の勇気、そして被害者のレジリエンスを強調。トレント・レズナーとアティカス・ロスの音楽は、緊迫したシーンのサウンドデザインを支え、感情の起伏を増幅します。また、事件の政治的文脈を深掘りせず、ヒューマン・ドラマに焦点を当てる点が、娯楽性と敬意のバランスを取っています。公開後、ボストン市民の間で議論を呼び、事件3周年のタイミングで上映された本作は、記憶の定着と癒しの役割を果たしました。全体として、バーグの「事件映画」シリーズの傑作として位置づけられ、観客に「ボストン・ストロング」のスローガンを体感させる力作です。
さらに、脚本のマット・クックとジョシュア・ゼトゥマーの貢献は大きく、原著『ボストン・ストロング』に基づきながら、ドラマチックな脚色を加えています。視覚効果面では、爆破シーンの再現がリアリティを追求し、観客に衝撃を与えつつ、過度なグロテスクさを避けています。このような配慮が、家族連れや事件関係者への配慮を示す一方で、エンターテイメントとしての緊張感を維持。結果、シネマスコアでA+の珍しい高評価を得ました。現代のテロ事件を扱う映画として、ジャーナリズムとフィクションの境界を探る点でも価値があり、将来の類似作品への指針となるでしょう。
女優の活躍
本作では、数名の女優が重要な役割を果たし、事件の人間的な側面を深く描き出しています。特に、メリッサ・ベノイストが演じるキャサリン・ラッセルは、タメルラン・ツァルナエフの未亡人として、FBIの尋問シーンで存在感を発揮します。ベノイストは『スーパーガール』で知られる若手女優ですが、本作ではイスラム教徒の女性として、夫の犯罪への関与を頑なに否定する複雑な心理を表現。尋問官ヴェロニカ(カンディ・アレクサンダー)との対峙で、信仰に基づく沈黙と微かな動揺を繊細に演じ、テロリストの家族というタブーな立場を説得力を持って体現します。この役柄は短い出番ながら、事件の背景に潜む文化的・宗教的ジレンマを象徴し、ベノイストの演技力が光るポイントです。
ミシェル・モナハンは、トミー・サンダースの妻キャロル・サンダース役で、家庭の支柱として描かれます。モナハンは『ミッション:インポッシブル』シリーズなどでアクションを得意とする一方、本作では爆破後の混乱で夫を心配する妻の不安と強さを、静かな表情で伝えています。病院での再会シーンでは、涙を堪えるリアクションが心を打つ。彼女の活躍は、事件の公的側面だけでなく、私的な喪失と回復の物語を支え、観客に感情的な深みを加えます。
また、レイチェル・ブロズナハンが演じるジェシカ・ケンスキーは、爆破で両脚を失う被害者として、物語の感情的核心を担います。ブロスナハンは『マーベラス・ミセス・メイズル』でブレイクする前作ですが、ここでは重傷を負った直後の苦痛と、恋人パトリックとの絆を、痛々しくも希望的な演技で表現。病院ベッドでの会話やリハビリシーンで、生存者のレジリエンスを体現し、観客の涙を誘います。彼女の活躍は、事件の犠牲者の声を代弁し、ボストンの回復力を象徴する重要な要素です。これらの女優たちは、男優中心のアクションに女性の視点を加え、作品のバランスを整えています。
女優の衣装・化粧・髪型
女優たちの衣装・化粧・髪型は、事件のリアリズムを重視したデザインで、キャラクターの社会的立場や感情状態を反映しています。メリッサ・ベノイストのキャサリン・ラッセルは、イスラム教徒の未亡人として、控えめで伝統的な服装が特徴です。尋問シーンでは、黒いヒジャブを被り、ゆったりとした長袖のチュニックとパンツを着用。ヒジャブは柔らかなコットン素材で、顔周りを覆うスタイルが、信仰の厳格さを表します。化粧は最小限で、ナチュラルメイクに留め、眉を整える程度。唇は淡い色で、苦悩の表情を強調。髪型はヒジャブの下に隠れ、黒髪をストレートにまとめ、露出を避けています。この装いは、文化的敬意を示しつつ、孤立感を視覚的に演出します。
ミシェル・モナハンの演じるキャロル・サンダースは、警察官の妻としてカジュアルで実用的なスタイルです。日常シーンでは、ジーンズにシンプルなブラウス、またはスウェットを着用し、ボストンの春らしいレイヤードコーディネート。病院訪問時は、ダークカラーのカーディガンを羽織り、家族の絆を象徴する温かみのある装い。化粧は軽やかで、ファンデーションとリップのみのナチュラル志向。髪型はミディアムレングスのウェーブヘアをルーズに下ろし、母親らしい柔軟さを表します。事件後の緊張感を、わずかな乱れで表現し、親しみやすさを保っています。
レイチェル・ブロズナハンのジェシカ・ケンスキーは、マラソン観戦者としてスポーツウェアから病院ガウンへ移行します。爆破前はランニングパンツとTシャツ、ポニーテールで活発な印象。負傷後は病院の白いガウンに包帯が目立ち、脆弱さを強調。化粧は事件後ほぼオフで、青白い肌と腫れた目元が痛々しさを増幅。髪型はベッドヘッド風の乱れ髪で、ショートカットに近いボブを崩さず、回復の過程で徐々に整えられます。これらの要素は、被害者の現実を忠実に再現し、観客の共感を呼び起こします。全体の衣装デザインは、ペギ・ストラムが担当し、時代性と感情を融合させた秀逸な仕事です。
キャスト
- トミー・サンダース巡査部長:マーク・ウォールバーグ
- リチャード・デスローリエス特別捜査官:ケビン・ベーコン
- エド・デイビス委員長:ジョン・グッドマン
- ジェフリー・プグリエーゼ巡査部長:J・K・シモンズ
- キャロル・サンダース:ミシェル・モナハン
- ジョハル・ツァルナエフ:アレックス・ウォルフ
- タメルラン・ツァルナエフ:テモ・メリキゼ
- ダン・メン:ジミー・O・ヤン
- トーマス・メニーノ市長:ビンセント・クラトーラ
- ウィリアム・B・エヴァンス警視総監:ジェームズ・コルビー
- デヴァル・パトリック知事:マイケル・ビーチ
- ジェシカ・ケンスキー:レイチェル・ブロズナハン
- パトリック・ダウンズ:クリストファー・オシェイ
- キャサリン・ラッセル:メリッサ・ベノイスト
- ヴェロニカ尋問官:カンディ・アレクサンダー
- ショーン・コリアー巡査:ジェイク・ピッキング
- デイビッド・オルティス:本人
スタッフ
- 監督:ピーター・バーグ
- 脚本:ピーター・バーグ、マット・クック、ジョシュア・ゼトゥマー
- 原案:ピーター・バーグ、マット・クック、ポール・タマシー、エリック・ジョンソン
- 原作:ケイシー・シャーマン、デイブ・ウェッジ(『ボストン・ストロング』)
- プロデューサー:マーク・ウォールバーグ、スコット・スターバー、ディラン・クラーク、スティーブン・レビンソン、マイケル・ラダツキー、ハッチ・パーカー、ドロシー・アウフィエロ
- 撮影:トビアス・A・シュリessler
- 編集:コールビー・パーカー・Jr.、ガブリエル・フレミング
- 音楽:トレント・レズナー、アティカス・ロス
- 衣装デザイン:ペギ・ストラム
- メイクアップ:クレア・カヴァナー
- ヘアスタイリスト:エリン・デイビス
- 製作会社:CBSフィルムズ、ライオンズゲート
- 配給:ライオンズゲート
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