『空飛ぶタイヤ』は、著名な作家・池井戸潤の同名ベストセラー小説を原作とした社会派エンターテインメント映画。2018年6月15日に全国公開され、監督は本木克英が務め、主演は長瀬智也が熱演。物語は、ある運送会社のトラックからタイヤが脱輪し、無垢な母子を襲う悲劇的な事故から始まります。社長である主人公が、整備不良の疑いをかけられながらも、大手自動車メーカーの欠陥隠蔽という巨大な闇に立ち向かう姿を描いた痛快な人間ドラマ。
実在の企業不祥事をモデルに、中小企業と大企業の力関係、社会正義の追求をテーマに据え、観る者の胸を熱くさせる作品として高い評価を博しました。総製作費は控えめながら、緻密な脚本と迫力あるアクションシーンが融合し、興行収入も20億円を超えるヒットを記録しています。この映画は、単なるサスペンスにとどまらず、家族の絆や個人の信念を丁寧に紡ぎ出す点で、池井戸作品の真髄を体現した一作と言えましょう。全体として、現代社会の企業倫理を問いかける深みのある内容で、幅広い世代から支持を集めています。
基本情報
- 原題:空飛ぶタイヤ
- 公開年:2018年
- 製作国・地域:日本
- 上映時間:120分
- ジャンル:サスペンス、ドラマ
- 配給:松竹
女優の活躍
本作におきましては、数々の名女優の皆が重要な役どころを演じられ、物語に深みと情感を加えています。
特に、深津絵里が演じる小田切千鶴役は、被害者となった妹の死をきっかけに、復讐心と正義感の狭間で揺れる長女の複雑な心理を、繊細かつ力強く表現なさっています。彼女の演技は、静かなる怒りと静謐な悲しみを交え、観客の心を強く揺さぶります。家族の支柱として、弟や妹たちをまとめ上げる姿は、深津の長年のキャリアが光る一場面です。
また、矢田亜希子は主人公・赤松徳郎の妻、朋子役を熱演なさり、夫の闘いを陰ながら支える健気な妻婦の姿を、温かくも芯の強い眼差しで体現しています。家庭内のささやかな喜びや、危機に直面した不安を自然に演じ分け、物語の人間味を豊かにしています。
本田翼は、ホープ自動車の販売部長・沢田誠の妻、遥役として登場し、夫の葛藤を優しく見守る女性像をさりげなく描き出します。彼女の清純な魅力が、緊張感漂うストーリーに柔らかな息抜きを与えています。
さらに、高橋メアリージュンが演じる小田切真由美役は、被害者家族の末妹として、姉の死に対する無力感と成長の過程を、若々しい情感で表現なさいます。これらの女優の皆の活躍は、男優中心の社会派ドラマに、女性の視点という重要なレイヤーを加え、作品全体のバランスを絶妙に保っています。
各々が持つ独自の存在感が、群像劇としての厚みを増し、観客に多角的な感動をお届けしています。女優の皆の献身的な演技なくしては、この映画の成功はなかったと言えましょう。
女優の衣装・化粧・髪型
本作の女優の皆の衣装、化粧、髪型は、現代日本の日常を反映したリアリズムを重視したスタイリングとなっています。
深津絵里の小田切千鶴役では、シンプルで上品なブラウスに膝丈のスカートを合わせたオフィスカジュアルが主で、喪服姿のシーンでは黒のワンピースドレスが用いられ、悲しみを強調しています。化粧はナチュラルメイクを基調とし、薄いファンデーションに淡いピンクのリップを施し、疲労感を表すための軽いアイシャドウが印象的です。髪型はストレートのセミロングを後ろで軽くまとめ、機能性と女性らしさを両立させたスタイルで、感情の高ぶる場面では少し乱れた子が心理描写を助けています。
矢田亜希子の赤松朋子役は、家庭的な主婦らしいカジュアルウェアが中心で、ジーンズにゆったりしたニットセーターを着用し、夫の帰宅を待つ温かな雰囲気を醸し出します。化粧は最小限のベアメイクで、ツヤのあるリップグロスが柔和さを演出。髪型はミディアムヘアを軽くウェーブさせ、ポニーテールにアレンジしたシーンが多く、日常の活発さを表しています。
本田翼の沢田遥役では、洗練されたワンピースやブラウスにパンツスタイルが用いられ、夫の職場近くのシーンでエレガントさを加味。化粧はクリアなスキンケアベースに、ナチュラルなアイラインとチークで爽やかさを強調し、髪型はボブカットに軽いカールをかけたモダンなルックで、現代女性の自立心を象徴しています。
高橋メアリージュンの小田切真由美役は、学生風のTシャツにデニムスカートという若々しいコーディネートが特徴で、化粧はほぼすっぴんに近いフレッシュメイク。髪型はロングヘアをストレートに下ろし、姉の葬儀シーンでは黒リボンでまとめ、喪失感を視覚的に表現しています。
これらのスタイリングは、監督の本木克英の意向により、過度な装飾を避け、役柄の内面的な成長を際立たせるよう配慮されています。女優の皆の自然体な装いが、物語のリアリティを高め、観客に親近感を与える工夫となっています。全体として、衣装は無印良品風のシンプルさを基調とし、化粧・髪型はヘアメイクチームの細やかな調整により、シーンの感情移行をスムーズに支えています。このような細部へのこだわりが、本作のクオリティを支える一因です。
あらすじ
物語は、穏やかな日常を突然破壊する衝撃的な事故から幕を開けます。中小運送会社・赤松運輸の社長、赤松徳郎(長瀬智也)は、ある朝、衝撃的な報せを受け取ります。自社の大型トレーラーから、走行中にタイヤが脱輪し、歩行中の母子を直撃。無垢な母親は即死し、幼い我が子は重傷を負うのです。警察の捜査は即座に赤松運輸の整備不良を疑い、徳郎は世間の非難の矢面に立たされます。会社は廃業の危機に瀕し、家族や従業員からの信頼も揺らぎ始めます。しかし、徳郎は自らの手で事故車両を徹底的に調べ上げ、驚愕の事実に辿り着きます。タイヤの脱輪は、単なるミスではなく、製造元である大手自動車メーカー・ホープオートモーティブの設計欠陥によるものでした。徳郎は、ホープの販売部長・沢田誠(堤真一)のもとへ直談判に乗り込み、再調査を強く求めますが、大企業特有の冷徹な壁に阻まれます。沢田は当初、責任を回避しようとしますが、徐々に徳郎の真摯さに心動かされ、内通者です。
一方、被害者家族の長女・小田切千鶴(深津絵里)は、妹の死に対する怒りを抑えきれず、赤松運輸を糾弾します。しかし、真相を知るにつれ、千鶴は徳郎の闘いに共感し、家族として協力の道を選びます。徳郎の父・正一(光石研)や妻・朋子(矢田亜希子)も、夫の信念を支え、家族の絆が試されます。ホープの広報部長・北原健二(ディーン・フジオカ)は、会社のイメージを守るためにメディア操作を画策しますが、内部告発者の存在が明らかになり、事態は一気に転機を迎えます。徳郎は、弁護士やジャーナリストの助けを借り、消費者庁や裁判所への提訴を決意。全国の運送業者たちも同調し、ホープに対する大規模な抗議運動が巻き起こります。クライマックスでは、ホープの社長室での最終対決が描かれ、欠陥の隠蔽が暴かれ、リコール命令が下されます。徳郎の不屈の精神が勝利を呼び、被害者家族との和解、会社の再生、そして社会の公正が回復する感動の結末です。このあらすじは、単なる復讐劇ではなく、個人の尊厳と企業の責任を巡る壮大な叙事詩として、観客を魅了します。池井戸潤の原作が持つリアリティを、映像美と緊張感あふれる演出で昇華させた本作は、繰り返し観たくなる魅力に満ちています。
解説
本作「空飛ぶタイヤ」は、池井戸潤の経済小説の伝統を継承しつつ、現代社会の企業不正を鋭く抉る傑作です。原作は、実在のブリヂストンタイヤ脱輪事故をモチーフに、中小企業が大企業に挑む構図を描いたもので、2004年に放送されたテレビドラマ版の成功を受けての映画化です。
監督の本木克英は、「超高速!参勤交代」シリーズで培ったテンポの良い演出を活かし、社会派テーマをエンターテインメントとして昇華させています。物語の核心は、主人公・赤松徳郎の「正義の闘い」にあり、彼の行動は、単なる個人的な復讐ではなく、社会全体の公正を求める象徴として機能します。大手ホープオートの隠蔽体質は、現実の企業スキャンダルを思わせ、観客に「自分ごと」として問いかけます。一方で、被害者家族の葛藤や、内部告発者の苦悩といった多角的な視点が、単純な善悪二元論を避け、人間ドラマの深みを加えています。
脚本の吉田恵里香は、原作のエッセンスを凝縮し、裁判シーンやメディア戦をスリリングに展開。音楽の川井憲次による緊張感あふれるスコアが、感情の起伏を強調します。また、キャスティングの妙も見逃せません。長瀬智也の熱血漢ぶりが主人公にぴたりと合い、堤真一のクールな演技が対立軸を際立たせます。
女優陣の活躍は、男性中心の闘争に女性の感性を注入し、家族の絆を温かく描きます。本作の意義は、単なる娯楽を超え、消費者保護やコーポレートガバナンスの重要性を啓発する点にあります。公開当時、#MeToo運動の余波や企業不祥事のニュースが相次ぐ中、観客に勇気を与え、興行的に大成功を収めました。批評家からは「痛快な社会風刺」と評され、続編やリメイクの可能性も囁かれるほどです。
しかし、深層では「正義の代償」を問い、勝利の喜びの裏に潜む喪失を描くことで、リアリズムを保っています。総じて、本作は日本映画の良心を体現した一編であり、繰り返し観るごとに新たな発見があるでしょう。現代を生きる私たちに、信念を持って立ち向かう勇気を教えてくれる、永遠の名作です。
キャスト
- 長瀬智也 – 赤松徳郎(赤松運輸社長)
- 深津絵里 – 小田切千鶴(被害者家族の長女)
- 堤真一 – 沢田誠(ホープ自動車販売部長)
- 寺脇康文 – 小田切秀夫(被害者家族の父)
- 矢部浩之 – 小田切亮(被害者家族の長男)
- 高橋メアリージュン – 小田切真由美(被害者家族の末妹)
- 本田翼 – 沢田遥(沢田誠の妻)
- ディーン・フジオカ – 北原健二(ホープ自動車広報部長)
- 光石研 – 赤松正一(赤松徳郎の父)
- 矢田亜希子 – 赤松朋子(赤松徳郎の妻)
- 和田正人 – 東出修(赤松運輸の専務)
- 前田公輝 – 赤松大輔(赤松徳郎の長男)
- 中村梅雀 – ホープ自動車社長
- 笹野高史 – 裁判官
- 小林薫 – 弁護士
スタッフ
- 監督 – 本木克英
- 脚本 – 吉田恵里香
- 原作 – 池井戸潤(『空飛ぶタイヤ』新潮社刊)
- 音楽 – 川井憲次
- 撮影 – 柳田雄介
- 照明 – 川里一仁
- 美術 – 木村威夫
- 編集 – 田中和彦
- 音響 – 虹木綾子
- 特殊効果 – 百武朋
- プロデューサー – 佐藤順一郎、豊島浩行
- 製作総指揮 – 木下直哉
- 配給 – 松竹
- 製作 – 「空飛ぶタイヤ」製作委員会(松竹、木下グループ、KADOKAWA、テレビ朝日ほか)
レビュー 作品の感想や女優への思い