「スーパーマンII 冒険篇」(原題:Superman II、1980年公開)は、リチャード・レスター監督によるスーパーヒーロー映画で、DCコミックスの「スーパーマン」を原作としたシリーズの第2作です。
この作品に登場する女性キャラクター、アーサ(Ursa)は、惑星クリプトン出身の反逆者で、ゾッド将軍の忠実な部下として物語の主要な敵役の一人を務めます。サラ・ダグラスが演じたアーサは、冷酷で強力なヴィランとして印象的な存在感を持ち、スーパーマンとの対決を通じて作品に緊張感とダイナミズムを加えています。以下では、アーサの背景、性格、役割、映画における意義を詳しく解説します。
背景
アーサは、クリプトン星の出身であり、ゾッド将軍(テレンス・スタンプ)とノン(ジャック・オハロラン)と共に、クリプトン社会に対する反逆罪でファントム・ゾーン(Phantom Zone)への追放を宣告された犯罪者です。映画の冒頭で、クリプトン星が爆発する前に、彼女を含む3人の反逆者が透明なガラス状の刑務所に閉じ込められ、宇宙空間を漂うシーンが描かれます。このシーンは、前作『スーパーマン』(1978年)でも簡単に触れられており、ゾッド将軍のグループがスーパーマンの宿敵として重要な役割を果たす伏線となっています。
アーサの具体的な過去や反逆の動機については、映画内で詳細に語られることはありません。コミック原作では、アーサはゾッド将軍の忠実な副官として描かれ、クリプトンの軍事クーデターを企てたメンバーとして設定されています。映画版では、彼女の背景は最小限に抑えられ、ゾッドとノンとの関係や、クリプトン社会に対する敵意が強調されます。彼女はゾッドの野望を共有し、権力と破壊を追求する冷酷な戦士として登場します。
物語の開始時点で、スーパーマン(クリストファー・リーヴ)がパリのエッフェル塔でテロリストが仕掛けた核爆弾を宇宙空間に投げ捨てますが、その爆発の衝撃波がファントム・ゾーンを破壊し、アーサ、ゾッド、ノンを解放します。地球に到着した彼らは、太陽の黄色い光を浴びることでスーパーマンと同じ超人的な力を獲得し、地球征服を企てます。アーサの背景は、クリプトンの滅亡とファントム・ゾーンでの長い幽閉によって形成された復讐心と権力への渇望に根ざしており、彼女の行動の動機となっています。
性格と特徴
アーサは、冷酷で攻撃的、かつ自信に満ちたキャラクターとして描かれ、以下のような特徴が際立っています。
冷酷さとサディズム
アーサは、敵に対する容赦ない態度と、破壊を楽しむサディスティックな一面を持っています。月に降り立った際、彼女は無抵抗の宇宙飛行士を簡単に殺害し、その力を誇示します。また、地球上での戦闘シーンでは、彼女の冷笑や挑発的な態度が、彼女の残忍さを強調します。サラ・ダグラスの演技は、アーサの冷酷さを鋭い眼差しと抑揚のある声で表現し、観客に強烈な印象を与えます。
ゾッドへの忠誠
アーサはゾッド将軍に対して揺るぎない忠誠心を示し、彼の命令に従いながらも、自身の個性を発揮します。彼女はゾッドの右腕として戦略的な役割を果たし、ノンとは異なり、知性と狡猾さを持った戦士として描かれます。ゾッドとの関係は、恋愛的な要素は明確に示されませんが、彼女のゾッドへの献身は、彼女のキャラクターに深みを加えています。
女性としての力強さ
アーサは、男性中心のヴィラングループの中で、唯一の女性として対等に振る舞います。彼女の超人的な力と戦闘能力は、スーパーマンやゾッドと同等であり、性別による制限を感じさせません。彼女の自信と支配的な態度は、伝統的な女性ヴィランのステレオタイプを打破し、力強い女性像を提示します。
皮肉とユーモア
アーサの台詞や行動には、皮肉や軽いユーモアが込められることがあり、彼女の傲慢さと知性を際立たせます。例えば、地球の人間を「原始的」と嘲笑したり、ホワイトハウスでのシーンで大統領を侮辱する態度には、彼女の優越感と遊び心が垣間見えます。
人間への軽蔑
アーサは、地球の人間を劣った存在と見なし、彼らを支配することに何の躊躇もありません。この態度は、クリプトン人の優越意識と、ファントム・ゾーンでの長い幽閉による憎しみの結果として描かれます。彼女の人間への軽蔑は、ゾッドの地球征服計画を支える重要な要素です。
映画での役割
アーサは、「スーパーマンII 冒険篇」の主要な敵役の一人として、物語に緊張感とアクションをもたらします。彼女の役割は、ゾッド将軍の地球征服計画を支える戦士であり、スーパーマンとの対決を通じて彼の力を試す存在です。
地球征服の実行者
アーサは、ゾッドとノンとともに、地球に到着後、すぐにその力を誇示します。月での宇宙飛行士の殺害、ホワイトハウスでの大統領への攻撃、メトロポリスでの破壊行為など、彼女はゾッドの命令を実行し、地球人を恐怖に陥れます。特に、ホワイトハウスでのシーンでは、彼女が大統領を床に跪かせ、ゾッドに忠誠を誓わせる場面が、彼女の支配的な性格を象徴しています。
スーパーマンとの対決
アーサは、スーパーマンと直接対決する場面で、彼女の戦闘能力を発揮します。メトロポリスでの戦闘シーンでは、彼女のスピード、飛行能力、熱視線(ヒートビジョン)などの超能力が、スーパーマンに匹敵する脅威であることが示されます。彼女の攻撃的な戦闘スタイルは、ゾッドの戦略的なリーダーシップやノンの粗暴な力と対比され、グループのダイナミズムを高めます。
ロイス・レーンとの対峙
アーサは、ロイス・レーン(マーゴット・キダー)に対しても敵意を示し、物語に女性同士の対立を加えます。特に、ラストの要塞(Fortress of Solitude)での戦闘シーンでは、ロイスがアーサに対して勇敢に立ち向かう場面があり、アーサの冷酷さとロイスの人間的な勇気が対比されます。この対峙は、アーサの非人間的な力を際立たせる一方で、彼女の敗北を予感させる重要な瞬間です。
結末での敗北
映画のクライマックスで、スーパーマンはアーサ、ゾッド、ノンを要塞に誘い込み、クリプトナイトの力を利用して彼らの超能力を剥奪します。アーサは、ゾッドと共にファントム・ゾーンに再び閉じ込められる(または映画によっては死に追いやられる)形で敗北します。彼女の敗北は、スーパーマンの知恵と正義の勝利を象徴し、物語の解決に不可欠な要素です。
成長と変化
「スーパーマンII 冒険篇」は、アクションとスーパーヒーローの対決を中心に展開するため、アーサの内面的な成長や変化はほとんど描かれません。彼女は物語の開始から終わりまで、一貫して冷酷で野心的なヴィランとして振る舞います。ただし、以下の点で彼女のキャラクターに微妙なニュアンスが見られます。
地球での力の覚醒
アーサは、ファントム・ゾーンから解放された後、太陽の光を浴びて超能力を得ることで、自身の力を初めて実感します。月や地球でのシーンで、彼女がその力を試し、楽しむ様子は、彼女のキャラクターに解放感と傲慢さを加えています。この「力の覚醒」は、彼女の自信と攻撃性をさらに強化します。
ゾッドとの関係の深まり
アーサのゾッドへの忠誠は、物語を通じて一貫していますが、ホワイトハウスやメトロポリスでの共同戦闘を通じて、彼女がゾッドのビジョンに完全に同調していることが強調されます。彼女のゾッドへの献身は、単なる服従ではなく、共有された野望に基づくパートナーシップとして描かれます。
敗北による挫折
アーサの敗北は、彼女の傲慢さと無敵意識の崩壊を意味します。要塞での戦闘で、彼女が超能力を失い、スーパーマンに敗れる瞬間は、彼女のキャラクターに一瞬の脆弱さを与えます。しかし、映画は彼女の内省や悔恨を描かず、ヴィランとしての役割を全うさせます。
物語における意義
アーサは、「スーパーマンII 冒険篇」において、単なる敵役を超えた重要な役割を果たし、以下のような意義を持っています。
女性ヴィランの革新
アーサは、1980年代のスーパーヒーロー映画における女性ヴィランとして、従来のステレオタイプを打破しました。彼女は、性的魅力に頼らず、純粋な力と知性でスーパーマンに立ち向かうキャラクターです。サラ・ダグラスの力強い演技は、アーサを単なる「ゾッドの部下」ではなく、独自の個性を持つ脅威として確立しました。
スーパーマンの試練
アーサを含む3人のクリプトン人の存在は、スーパーマンにとって最大の試練となります。彼らがスーパーマンと同じ力を持つため、単なる力比べでは勝敗が決まらず、スーパーマンの知恵と倫理観が試されます。アーサの攻撃性と冷酷さは、スーパーマンの正義感と対比され、物語のテーマである「力と責任」を強調します。
クリプトンの遺産
アーサは、スーパーマンの故郷クリプトンの暗い側面を体現します。彼女の反逆と破壊衝動は、クリプトン社会の厳格な秩序と、その崩壊の結果を象徴しています。スーパーマンがクリプトンの最後の希望であるのに対し、アーサはクリプトンの失敗と腐敗を表し、彼のアイデンティティとの対立を深めます。
アクション映画への貢献
アーサの戦闘シーンは、映画のアクション要素を強化し、特にメトロポリスでの大規模な戦闘は、1980年代のスーパーヒーロー映画の視覚的スペクタクルを定義しました。彼女の飛行や熱視線の使用は、後のスーパーヒーロー映画のヴィラン描写に影響を与えました。
結論
アーサは、「スーパーマンII 冒険篇」における強烈で魅力的な女性ヴィランであり、ゾッド将軍の忠実な部下として物語に緊張感とダイナミズムをもたらします。サラ・ダグラスの冷酷かつ自信に満ちた演技は、アーサを単なる敵役を超えた存在にし、観客に強い印象を残しました。彼女の冷酷さ、ゾッドへの忠誠、超人的な力は、スーパーマンの正義と対比され、物語のテーマである力、責任、アイデンティティを浮き彫りにします。
女性ヴィランとしての革新性、クリプトンの暗い遺産の体現、そしてアクション映画への貢献を通じて、アーサは1980年代のスーパーヒーロー映画における重要なキャラクターとして位置づけられます。彼女の存在は、スーパーマンの英雄性を引き立てると同時に、力の濫用と傲慢さの危険性を観客に示し、映画の深いテーマ性を補強します。アーサは、今なお「スーパーマンII」のファンにとって忘れがたいヴィランとして記憶されています。
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