ケリー・グリーンウッドの『令嬢探偵ミス・フィッシャー』シリーズは、オーストラリアの歴史ミステリーの代表作ですが、現代ミステリー作家もオーストラリア文学の重要な一翼を担っています。以下のリストでは、現代オーストラリアのミステリー・犯罪小説作家を紹介します。特に、2000年代以降に活躍し、国際的に評価されている作家や、グリーンウッドの作品と関連性のある作家(例:女性作家、都市設定、歴史的要素、コージーミステリー)に焦点を当てます。
ジェイン・ハーパー(Jane Harper)
- 関連性…メルボルン在住のハーパーは、グリーンウッドと同様にオーストラリアの地域性を活かし、女性の視点で物語を構築。『ミス・フィッシャー』の華やかな1920年代とは対照的に、現代の厳しい現実を描く。
- 日本語訳…『ドライ』、『フォース・オブ・ネイチャー』、『ロスト・マン』、『サバイバー』(The Survivors)が翻訳済み(ハヤカワ・ミステリ文庫)。
- 評価…国際的に高い評価を受け、映画化(『ドライ』、エリック・バナ主演)やNed Kelly Award受賞など、オーストラリア犯罪小説の第一人者。
エマ・ヴィスキック(Emma Viskic)
- 代表作…ケイレブ・ゼリック・シリーズ(Resurrection Bay, 2015年; And Fire Came Down, 2017年; Darkness for Light, 2019年; Those Who Perish, 2022年)
- 特徴…メルボルンを拠点とする作家で、聴覚障害を持つ私立探偵ケイレブ・ゼリックを主人公にしたシリーズが特徴。聴覚障害の経験をリアルに描き、心理サスペンスと都市犯罪を融合。グリーンウッドの『ミス・フィッシャー』に似たメルボルン設定や、鋭い社会的観察が共通するが、ヴィスキックの作品はより暗く、現代的なトーンを持つ。
- 関連性…女性作家であり、グリーンウッドと同様にメルボルンの都市文化を背景に、個性的な探偵像を描く。フライニーの軽快さとは異なり、ゼリックの内面的葛藤が強調される。
- 日本語訳…2023年時点で未翻訳。英語版はEcho PublishingやAllen & Unwinから入手可能。
- 評価…Ned Kelly Awardを複数受賞し、オーストラリアの新世代ミステリー作家として注目される。
スラリ・ジェンティル(Sulari Gentill)
- 代表作…ローランド・シンクレア・シリーズ(A Few Right Thinking Men, 2010年~)、『ザ・ウーマン・イン・ザ・ライブラリー』(The Woman in the Library, 2022年)
- 特徴…歴史ミステリーと現代ミステリーの両方で活躍。ローランド・シンクレア・シリーズは1930年代のオーストラリアを舞台に、貴族の青年ローランドが事件を解決する物語で、グリーンウッドの『ミス・フィッシャー』と時代背景やコージーミステリーの雰囲気が近い。『ザ・ウーマン・イン・ザ・ライブラリー』は現代設定で、複雑なメタフィクション構造のミステリー。Ned Kelly Award受賞(After She Wrote Him)。
- 関連性…グリーンウッドと同様に歴史ミステリーで女性作家として活躍。フライニーのような強い主人公やオーストラリアの社会的背景を活かす点で共通。ローランド・シンクレア・シリーズは『ミス・フィッシャー』のファンに特に訴求する。
- 日本語訳…未翻訳。英語版はPoisoned Pen PressやUltimo Pressから。
- 評価…歴史と現代の両方で評価され、国際的な注目を集める。
サリー・ヘプワース(Sally Hepworth)
- 代表作…『ダーリン・ガールズ』(Darling Girls, 2024年)、The Soulmate(2023年)
- 特徴…メルボルン在住の女性作家で、心理サスペンスと家族ドラマを融合させた作品が特徴。『ダーリン・ガールズ』は、養子姉妹が過去のトラウマと殺人事件に直面する物語で、2024年Ned Kelly Award for Best Crime Fiction受賞。グリーンウッドのコージーミステリーとは異なり、感情的な深みと現代の家庭問題に焦点を当てるが、女性の視点やキャラクタードリブンの物語は共通。
- 関連性…グリーンウッドと同じくメルボルンを拠点とし、女性の複雑な人間関係を描く。フライニーの華やかさとは対照的に、暗いテーマを扱う。
- 日本語訳…未翻訳。英語版はSt. Martin’s PressやPan Macmillanから。
- 評価…国際的に人気で、特に北米でベストセラー。
ベンジャミン・スティーヴンソン(Benjamin Stevenson)
- 代表作…『エブリワン・イン・マイ・ファミリー・ハズ・キルド・サムワン』(Everyone in My Family Has Killed Someone, 2022年)、『エブリワン・オン・ディス・トレイン・イズ・ア・サスペクト』(Everyone on This Train Is a Suspect, 2023年)
- 特徴…ユーモアとメタフィクションを駆使した現代ミステリー。クラシックな「鍵のかかった部屋」ミステリーを現代オーストラリア(例:ガン鉄道)に設定し、ウィットに富んだ語りが特徴。グリーンウッドの『ミス・フィッシャー』の軽快なトーンやユーモアと通じるが、よりポストモダンなアプローチ。
- 関連性…グリーンウッドのコージーミステリーの楽しさを現代的に再解釈。オーストラリアの風景や文化を活かし、読者を楽しませる点で共通。
- 日本語訳…未翻訳。英語版はPenguin Books AustraliaやMariner Booksから。
- 評価…国際的に注目され、特に英国や北米で高い評価。
クリス・ハマー(Chris Hammer)
- 代表作…『スクラブランド』(Scrublands, 2018年)、『シルバー』(Silver, 2019年)、『ティルト』(The Tilt, 2022年)
- 特徴…「アウトバック・ノワール」の代表的作家。元ジャーナリストで、農村やアウトバックの殺人事件を描く。『スクラブランド』は干ばつに苦しむ町での殺人事件を追う記者の物語。グリーンウッドの都市ミステリーとは異なり、過酷な自然環境や社会問題に焦点。
- 関連性…グリーンウッドと同様にオーストラリアの地域性を強調。メルボルン以外のオーストラリアの多面性を描く点で関連。
- 日本語訳…未翻訳。英語版はAllen & Unwinから。
- 評価…CWA John Creasey Dagger受賞。ハーパーと並ぶアウトバック・ノワールのリーダー。
キャンディス・フォックス(Candice Fox)
- 代表作…クリムゾン・レイク・シリーズ(Crimson Lake, 2017年~)、『ホワット・ライズ・ビトウィーン・アス』(What Lies Between Us, 2024年)
- 特徴…ノースクイーンズランドを舞台にしたハードボイルドなミステリーや、国際的な設定のスリラーで知られる。グリーンウッドのコージーミステリーとは対照的に、ダークで緊張感のある物語。ジェームズ・パターソンとの共著も多い。
- 関連性…女性作家として、グリーンウッドと同様に強い女性キャラクターを描く。オーストラリアの多様な地域を舞台にする点で共通。
- 日本語訳…未翻訳。英語版はPenguinやBantamから。
- 評価…Ned Kelly Award受賞。国際的に活躍。
シェリー・バー(Shelley Burr)
- 代表作…『ウェイク』(Wake, 2022年)、Murder Town(2023年)
- 特徴…農村の未解決事件をテーマにしたミステリー。『ウェイク』は少女失踪事件を追う私立探偵の物語で、CWA New Blood Dagger受賞。グリーンウッドの歴史的設定とは異なり、現代の社会問題(失踪、トラウマ)に焦点。
- 関連性…女性作家として、グリーンウッドと同様に感情的な深みを物語に取り入れる。オーストラリアの小さな町を舞台にする点で関連。
- 日本語訳…未翻訳。英語版はHachette Australiaから。
- 評価…新進気鋭の作家として注目。
ヘイリー・スクリヴナー(Hayley Scrivenor)
- 代表作…『ダート・クリーク』(Dirt Creek, 2022年)
- 特徴…小さな町での少女失踪事件を描く心理サスペンス。複数の視点を用いた叙述が特徴。グリーンウッドの軽快なミステリーとは異なり、暗いトーンだが、コミュニティの描写は共通。
- 関連性…女性作家として、グリーンウッドと同様にオーストラリアの地域社会を掘り下げる。メルボルン以外の地方設定が新鮮。
- 日本語訳…未翻訳。英語版はFlatiron Booksから。
- 評価…新人作家として高い評価。
ディヌカ・マッケンジー(Dinuka McKenzie)
- 代表作…『ザ・トレント』(The Torrent, 2022年)、Tipping Point(2023年)
- 特徴…スリランカ系オーストラリア人女性作家で、女性刑事ケイト・マイルズを主人公にした警察小説。現代の多文化社会や家族のダイナミクスを描く。グリーンウッドのフェミニスト的視点と、オーストラリアの多様性を反映する点で関連。[](https://beaufortstreetbooks.com.au/c/australian-crime__2)
- 関連性…グリーンウッドと同様に、女性の視点で社会問題を扱う。メルボルンや地方都市を舞台に、現代的なテーマを追求。
- 日本語訳…未翻訳。英語版はHarperCollins Australiaから。
- 評価…Ned Kelly Award for Best Debut Crime Fiction受賞。
その他の注目作家
- ピーター・テンプル(Peter Temple, 1946年~2018年)…『ブロークン・ショア』(The Broken Shore, 2005年)やジャック・アイリッシュ・シリーズで知られる。ハードボイルドな作風で、CWAゴールド・ダガー賞受賞。グリーンウッドのコージーミステリーとは異なるが、オーストラリア犯罪小説の巨匠。
- ピーター・コリス(Peter Corris, 1942年~2018年)…シドニーPIクリフ・ハーディのシリーズで「オーストラリア犯罪小説のゴッドファーザー」と称される。グリーンウッドと同世代で、都市ミステリーの先駆者。
- ゲイリー・ディシャー(Garry Disher, 1949年~)…『ビター・ウォッシュ・ロード』(Bitter Wash Road, 2013年)など、農村や都市の犯罪小説。グリーンウッドの歴史ミステリーとは異なるが、多様なオーストラリアを描く。
- マーゴ・ラナガン(Margo Lanagan, 1960年~)…『ブラック・ジュース』(Black Juice, 2004年、邦訳:東京創元社、2007年)はダークな短編集で、ミステリー要素を含む。グリーンウッドのユーモアとは異なるが、女性作家として実験的な物語を展開。
『ミス・フィッシャー』との関連性
- コージーミステリー…グリーンウッドの『ミス・フィッシャー』はコージーミステリーの典型で、スティーヴンソンやジェンティルの作品にその軽快さが反映される。ハーパーやヴィスキックはより暗いトーンだが、女性主人公の活躍は共通。
- 歴史的要素…ジェンティルのローランド・シンクレア・シリーズは、グリーンウッドと同様に歴史ミステリーとして1920~30年代を舞台にし、フライニーのファンに訴求する。
- 女性作家の視点…ハーパー、ヴィスキック、ヘプワース、バー、フォックス、マッケンジーらは、グリーンウッドと同様に女性の視点や社会問題を物語に織り込む。
- オーストラリアの地域性…グリーンウッドがメルボルンの華やかな1920年代を描くのに対し、ハーパーやハマーはアウトバック、フォックスはクイーンズランドと、多様な地域を活かす。
日本語訳の状況
ハーパーの作品以外は、2023年時点で日本語訳がほとんどない。グリーンウッドの『令嬢探偵ミス・フィッシャー』同様、翻訳の進捗は限定的だが、ハーパーの成功が他の作家の翻訳を促進する可能性がある。英語版はAmazon、Book Depository、Allen & Unwin、Penguin Australiaなどで入手可能。
総括
オーストラリアの現代ミステリー作家は、ジェーン・ハーパーやエマ・ヴィスキック、スラリ・ジェンティルら女性作家を中心に、アウトバック・ノワールや都市サスペンス、コージーミステリーなど多様なジャンルで活躍。グリーンウッドの『ミス・フィッシャー』の軽快さや歴史的背景は、ジェンティルやスティーヴンソンに特に通じる。オーストラリアの地域性や社会問題を反映したこれらの作品は、国際的に注目され、ミステリー愛好家に強くおすすめできます。
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