フランシス・マクドーマンド(Frances McDormand)は米国の女優。ベサニー・カレッジで演劇の学士号を取得後、イェール大学の演劇学校で修士号を取得。1984年の映画『ブラッド・シンプル』でデビューし、コーエン兄弟作品で注目される。『ファーゴ』、『スリー・ビルボード』、『ノマドランド』でアカデミー賞主演女優賞を3度受賞し、『ノマドランド』ではプロデューサーとしても受賞。舞台や声優としても活躍する実力派女優。
プロフィール
- 名前:フランシス・マクドーマンド(Frances McDormand)
- 本名:Frances Louise McDormand
- 生年月日:1957年6月23日(68歳)
- 出生地:アメリカ合衆国イリノイ州シカゴ
- 国籍:アメリカ合衆国
- 職業:女優
- ジャンル:映画、TV番組、舞台
- 活動期間:1984年~
- 配偶者:ジョエル・コーエン(1984年~)
生い立ち・教育
フランシス・マクドーマンドは、1957年6月23日、アメリカ合衆国イリノイ州ギブソンシティで、シンシア・アンナ・スミス(Cynthia Ann Smith)という名前で生まれました。彼女の出生家庭についてはほとんど公にされていませんが、生後わずか1年半の頃に、カナダ人の牧師であるヴァーノン・マクドーマンドとその妻ノリーン・マクドーマンド夫妻に養子として迎え入れられました。この養子縁組により、彼女の姓はマクドーマンドに変わりました。ヴァーノンはディサイプルズ・オブ・クリスト教会の牧師として、家族とともに中西部のさまざまな町を転々と移り住む生活を送りました。こうした移動の多い幼少期は、フランシスの性格形成に大きな影響を与え、後に彼女の演技の深みや適応力の源泉となったと言われています。
家族は3姉妹の末っ子で、姉たちも養子でした。父親のヴァーノンは厳格ながらも愛情深い人物で、家族の絆を大切にする環境で育ちました。フランシスは幼い頃から本や物語に親しみ、想像力を育てるのが好きでした。こうした環境が、彼女の創造的な才能を早い段階で開花させました。高校時代はペンシルベニア州モネッセン高校に通い、1975年に卒業しました。在学中は演劇部に所属し、すでに演技への情熱を示していました。学校の劇で主役を務めるなど、才能を周囲に認められ始めました。
大学進学後、フランシスはウェストバージニア州にあるベサニー・カレッジに入学し、演劇を専攻しました。この小さなリベラルアーツカレッジは、彼女に基礎的な演劇教育を提供し、1979年に学士号(BA)を取得しました。ベサニーでの日々は、古典劇から現代劇まで幅広い作品に触れる機会となり、彼女の演技の基盤を固めました。卒業後、彼女はさらに高度な教育を求め、名門イェール大学演劇学校(Yale School of Drama)に入学しました。1982年に修士号(MFA)を取得するまで、ここで厳しい訓練を受けました。イェールでは、ホリー・ハンターやジョン・タートゥーロら後の著名俳優たちと同室生活を送り、互いに刺激を与え合う環境でした。この時期の経験は、彼女のプロフェッショナルなキャリアのスタートラインとなりました。イェールの厳格なカリキュラムは、身体表現から声のコントロール、脚本分析までを徹底的に鍛え、後の成功の土台を築きました。
教育を通じて、フランシスは単なる技術の習得にとどまらず、人間性や社会性を深く探求する姿勢を身につけました。こうしたバックグラウンドが、彼女の演技にリアリティと深みを加え、観客を魅了する要因となっています。
経歴
フランシス・マクドーマンドのキャリアは、1980年代初頭の舞台公演から始まりました。イェール大学卒業後、ニューヨークのオフ・ブロードウェイ劇場で活動を開始し、1982年に『オセロ』や『トービーおばさんの肖像』などの作品に出演しました。これらの舞台経験は、彼女の演技力を磨き、批評家から注目を集めました。1984年、運命的な出会いが訪れます。映画監督のジョエル・コーエンとイーサン・コーエンのデビュー作『ブラッド・シンプル』で、主人公の妻アベ役を演じ、これが彼女の映画デビューとなりました。この作品はノワール・スリラーとして高評価を受け、フランシスはコーエン兄弟のミューズとして位置づけられるようになりました。以降、彼女は彼らの多くの作品で重要な役割を果たし、独特のユーモアと緊張感を織り交ぜた演技で知られるようになりました。
1980年代後半から1990年代にかけて、フランシスは多様なジャンルの映画で活躍しました。1987年の『レイジング・エイリアン』では、風変わりな妊婦役をコミカルに演じ、批評家から絶賛されました。1990年の『ミラー・クロッシング』では、ギャングの物語に絡む女性を、1991年の『バートン・フィンク』ではハリウッドの闇を描く中で重要な脇役を務めました。これらのコーエン作品は、彼女のキャリアの基盤を固めました。一方、1988年の『ミシシッピ・バーニング』では、公民権運動を題材にしたドラマで、FBI捜査官の妻役を演じ、アカデミー賞助演女優賞にノミネートされる快挙を達成しました。この作品は、彼女の社会的テーマへの取り組みを示すものでした。
1996年の転機は、『ファーゴ』での主演でした。雪深いミネソタを舞台に、妊婦の警察官マーグ役を演じ、独特の方言と穏やかな強さを体現。ゴールデングローブ賞とアカデミー賞主演女優賞を受賞し、初のオスカーとなりました。この役は、彼女のキャリアの象徴として語り継がれています。2000年代に入り、『ワンダー・ボーイズ』(2000年)や『有名な男になる方法』(2000年)で、複雑な女性像を描き、多様な役柄を開拓しました。2005年の『スタンドアップ』では、鉱山労働者の女性リーダー役グローリー・ダッジで再びアカデミー賞にノミネートされ、女性の権利をテーマにした演技が高く評価されました。この作品と同年に公開された『イーオン・フラックス』でもフランシスはシャーリーズ・セロンと共演。
2010年代以降も勢いは衰えず、2008年の『バーン・アフター・リーディング』でコーエン兄弟と再会し、コミカルなCIA職員役を演じました。2017年の『スリー・ビルボード』では、娘の殺人事件を追う母親ミルドレッド役で、激しい感情の爆発を表現し、2度目のアカデミー賞主演女優賞を受賞。2018年の『アイル・オブ・ドッグス』では声優として、2020年の『ノマドランド』で孤独なノマド女性役を演じ、3度目の主演女優賞を獲得。さらに同作でプロデューサーとして4度目のオスカーを手に入れました。2021年の『フレンチ・ディスパッチ』や2023年の『ザ・ワールド・トゥ・カム』など、近年も精力的に活動を続けています。
舞台では、2011年のブロードウェイ『グッド・ピープル』で主演し、トニー賞にノミネート。TV番組では『オリバー・ツイスト』のナレーションや『ゴールデン・エイジ』に出演。彼女の経歴は、商業映画からインディペンデント映画や舞台まで幅広く、常に挑戦的な役を選ぶ姿勢が特徴です。批評家からは「カメレオン女優」と称され、演技の多面性が賞賛されています。
私生活
フランシス・マクドーマンドの私生活は、キャリアの華やかさとは対照的に、静かでプライベートを重視したものです。1984年、映画『ブラッド・シンプル』の撮影現場で出会った監督ジョエル・コーエンと結婚しました。ジョエルはコーエン兄弟の片割れで、フランシスとは仕事のパートナーとしてだけでなく、人生の伴侶としても深い絆で結ばれています。二人はニューヨーク市に拠点を置き、互いの創作活動を尊重し合う関係を築きました。ジョエルとの結婚は、フランシスにとって安定した支えとなり、多くの作品でコラボレーションを果たしています。例えば、『ファーゴ』や『ノマドランド』では、脚本の相談から現場のアドバイスまで、夫婦の絆が作品に反映されています。
1995年、夫妻はパラグアイから6ヶ月齢の男児を養子に迎え、息子のペドロ・マクドーマンド・コーエンと名付けました。ペドロは現在、成人し、家族のプライバシーを守るために公の場に姿を現すことはほとんどありません。フランシスは母親として、息子の教育と成長を最優先に考え、仕事のスケジュールを調整してきました。養子縁組の経験は、彼女自身の幼少期の養子生活と重なり、家族の絆の大切さを再認識させるものでした。夫妻はペドロを愛情深く育て、創造性を奨励する環境を提供しています。
家族はハリウッドの華やかな社交界を避け、静かな生活を好みます。フランシスはインタビューで、「家族が私のアンカーだ」と語り、仕事の成功を家庭の幸福に還元する姿勢を示しています。ジョエルとの関係は、40年以上にわたり続き、互いの独立性を尊重するパートナーシップが模範的です。2021年にジョエルとイーサンが別々の道を歩む中でも、フランシスとジョエルの絆は揺るぎませんでした。彼女はまた、社会活動にも関心を持ち、女性の権利や移民問題に声を上げていますが、私生活の詳細は最小限に留め、謎めいた魅力を保っています。こうした控えめな生き方は、彼女の演技の誠実さと共鳴し、ファンを魅了し続けています。(約650文字)
出演作品
フランシス・マクドーマンドの出演作品は、映画を中心に舞台やテレビに及び、多様な役柄で知られています。以下に主なものを挙げます。
- ブラッド・シンプル(1984年):コーエン兄弟のデビュー作でアベ役。ノワール調のスリラーで、彼女の映画デビューを飾りました。複雑な人間関係を描き、批評家から高評価。
- レイジング・エイリアン(1987年):妊婦のドット役。風変わりなコメディで、ユーモラスな演技が光り、コーエン作品の定番となりました。
- ミシシッピ・バーニング(1988年):FBI捜査官の妻ミセス・ペル役。公民権運動のドラマで、アカデミー賞助演女優賞ノミネート。感情の機微を表現。
- ミラー・クロッシング(1990年):ヴガ役。ギャング映画で、魅力的な女性像を体現し、コーエン兄弟との信頼関係を示しました。
- バートン・フィンク(1991年):オードリー役。ハリウッドの風刺劇で、重要なサポート役を務め、カンヌ国際映画祭でパルム・ドール受賞に貢献。
- ショート・カッツ(1993年):ドリス役。ロバート・アルトマンの群像劇で、日常の複雑さを描き、批評家から絶賛されました。
- ファーゴ(1996年):マーグ・ガンダーソン役。妊婦警察官のミステリーコメディで、アカデミー賞主演女優賞受賞。彼女の代表作の一つ。
- ローンスター(1996年):ローリー役。テキサスを舞台にしたミステリーで、多層的な役柄を演じました。
- ワンダー・ボーイズ(2000年):サラ役。文学教授の妻として、知的で魅力的な女性を表現。批評家賞多数。
- 有名な男になる方法(2000年):エレイン役。ロックバンドのマネージャーとして、母親らしい温かさを発揮。ゴールデングローブ賞ノミネート。
- スタンドアップ(2005年):ジョシー役。鉱山労働者の闘争を描くドラマで、アカデミー賞主演女優賞ノミネート。女性のエンパワーメントを象徴。
- イーオン・フラックス(2005年):ハンドラー役。独裁体制下の未来社会を舞台に、女戦士の活躍を描くSFアクション。
- バーン・アフター・リーディング(2008年):リンダ役。スパイコメディで、コミカルなCIA職員を演じ、コーエン兄弟との再タッグ。
- スリー・ビルボード(2017年):ミルドレッド・ヘイズ役。娘の事件を追う母親で、激しい感情を爆発させ、アカデミー賞主演女優賞受賞。カンヌ国際映画祭で女優賞。
- シークレット・デイ あの日、少女たちは赤ん坊を殺した(2018年):ニュースキャスター役。赤ん坊を誘拐した少女たちの闇を描くクライムサスペンス。
- アイル・オブ・ドッグス(2018年):声優としてスポッテッド・スージー役。ウェス・アンダーソンのアニメで、未来の記者を演じました。
- ノマドランド(2020年):ファーン役。ノマド生活の女性を静かに描き、アカデミー賞主演女優賞と作品賞(プロデューサーとして)受賞。パンデミック下の撮影が話題。
- フレンチ・ディスパッチ(2021年):ルシール役。短編集映画で、ウェス・アンダーソン作品のアンソロジーに出演。
- ザ・ワールド・トゥ・カム(2023年):ベス役。SFドラマで、未来の地球を舞台に人間性を探求。
これらの作品以外に、舞台では『グッド・ピープル』(2011年)でトニー賞ノミネート、TV番組では『ゴールデン・エイジ』(2012年)などに出演。彼女のフィルモグラフィーは、常に質の高い選択が特徴です。
レビュー 作品の感想や女優への思い