喘息と映画『シドニー・ホールの失踪』について

喘息は、気道が炎症を起こし、狭窄や過敏状態になる慢性疾患です。発作時には呼吸困難、喘鳴、咳が現れ、重症化すると命に関わります。適切な治療で管理可能です。ここでは、映画で喘息がどのように描かれているかについて複数の作品を事例に考えていきます。

喘息の怖さと映画『シドニー・ホールの失踪』での描写
1. 喘息の怖さについて
喘息をテーマにした映画
映画における喘息の役割とその意義
結論

喘息の怖さと映画『シドニー・ホールの失踪』での描写

映画『シドニー・ホールの失踪』（原題：The Vanishing of Sidney Hall、2017年）において、エル・ファニングが演じたメロディがエレベーター内で喘息発作により死亡するシーンは、喘息の深刻さを象徴的に描いています。「喘息はそれほど怖いものか」という点について、まず喘息の医学的背景を詳しく説明し、その後、映画での描写と喘息をテーマにした他の映画について述べていきます。

喘息の怖さについて

喘息（ぜんそく、正式名称：気管支喘息）は、気道が慢性的に炎症を起こしている状態で、特定の刺激（アレルゲン、冷気、ストレス、運動など）により気道が狭くなり、呼吸が困難になる発作が特徴です。主な症状には、喘鳴（ゼーゼーという呼吸音）、息切れ、胸の圧迫感、咳などがあります。通常、これらの症状は一時的で、吸入ステロイドや気管支拡張薬（例：サルブタモール）を使用することでコントロール可能です。しかし、重症の発作（急性増悪）では、気道が極端に狭くなり、酸素供給が不足することで生命を脅かす事態に至ることがあります。

日本では、喘息による死亡数は減少傾向にありますが、厚生労働省のデータによると、2020年時点で年間約1,000人が喘息関連で亡くなっています。特に、適切な治療を受けていない場合や、発作時に迅速な対応ができない場合、危険性が高まります。映画『シドニー・ホールの失踪』でメロディがエレベーター内で発作を起こし死亡するシーンは、こうした急性発作のリスクを劇的に表現したものです。エレベーターという閉鎖空間での発作は、助けを呼べない状況や薬（吸入器）の不在を強調し、喘息の管理不足が致命的な結果を招くことを示唆しています。

ただし、現実では、適切な治療と管理により、喘息患者の多くは日常生活を問題なく送れます。発作を予防するためには、定期的な医師の診察、吸入薬の適切な使用、発作の引き金を避ける生活習慣が重要です。メロディのケースは、物語の悲劇性を高めるための演出として誇張されている可能性がありますが、喘息がコントロールされない場合の危険性を視聴者に印象づけます。

喘息をテーマにした映画

喘息は、身体的・精神的な影響を与える疾患として、映画の中でキャラクターの弱さや葛藤、ストーリーの展開を強調する要素として描かれることがあります。以下に、喘息を取り上げた代表的な映画をいくつか紹介します。なお、喘息が物語の中心テーマでない場合も、キャラクターの特徴や劇的な展開に関連して登場することがあります。

シドニー・ホールの失踪（2017年）

本作では、エル・ファニング演じるメロディが喘息の発作によりエレベーター内で亡くなるシーンが、物語の悲劇的な転換点として描かれます。この出来事は、主人公シドニー（ローガン・ラーマン）の人生に深い影響を与え、彼の精神的な苦悩と失踪の背景を形作ります。喘息は、メロディの脆弱さと、シドニーが彼女を守れなかった後悔を象徴する要素として機能しています。閉鎖空間での発作という設定は、視聴者に強い印象を与え、喘息の急性発作がどれほど迅速に危険な状態に陥るかを示しています。

グーニーズ（1985年）

この冒険コメディ映画では、ショーン・アスティン演じるマイキー・ウォルシュが喘息を抱える少年として登場します。彼は吸入器を常に持ち歩き、物語の冒険の中で発作を起こす場面が描かれます。マイキーの喘息は、彼の弱さや人間らしさを表現する一方で、仲間たちとの絆や勇気を引き立てる要素として機能します。80年代の映画では、喘息が子どもキャラクターの「弱点」として描かれることが多く、マイキーの吸入器は彼のトレードマークとも言えます。物語はコミカルで前向きなトーンですが、喘息の発作が日常生活に影響を与える様子がリアルに描かれています。

サイン（2002年）

M・ナイト・シャマラン監督のSFスリラー映画では、ローリー・カルキン演じるモーガン・ヘスが喘息患者として登場します。物語のクライマックスで、モーガンがエイリアンの攻撃を受けた際に喘息発作を起こし、危機的状況に陥ります。しかし、この発作が結果的に彼の命を救う展開となり、喘息が物語の鍵となる興味深い描かれ方をしています。喘息は、モーガンの身体的な脆弱さと家族の絆を強調する要素として用いられ、シャマラン監督特有の「運命的な偶然」を象徴しています。

ファイト・クラブ（1999年）

デヴィッド・フィンチャー監督のカルト的人気作では、喘息そのものが中心テーマではありませんが、ブラッド・ピット演じるタイラー・ダーデンが、喘息患者のサポートグループに言及するシーンがあります。主人公（エドワード・ノートン）がさまざまな病気患者の自助グループに参加する中で、喘息患者のグループが登場し、疾患がもたらす心理的・社会的影響が間接的に描かれます。この映画では、喘息を含む慢性疾患が、個人のアイデンティティや社会との関係性を探るメタファーとして使われています。

ザ・ハウス・オブ・サンド・アンド・フォグ（2003年）

このドラマ映画では、ジョナサン・アーロン演じるレスターの息子が喘息患者として登場します。喘息は物語の中心ではありませんが、家族の経済的・感情的ストレスと結びつき、キャラクターの生活の困難さを強調します。喘息の発作が家族の日常に与える影響が、さりげなく、しかしリアルに描かれており、疾患が家庭内の緊張を増幅する要素として機能しています。

映画における喘息の役割とその意義

上記の映画を見ると、喘息は単なる病気としてではなく、キャラクターの人間性やストーリーのドラマ性を高める要素として描かれていることがわかります。『シドニー・ホールの失踪』』では、メロディの喘息による死は、主人公の悲劇的な喪失感を強調し、彼の精神的な崩壊を加速させるきっかけとなります。一方、『グーニーズ』や『サイン』では、喘息はキャラクターの弱さや克服すべき試練として描かれ、物語に希望や逆転の要素を加えています。

喘息を扱う映画は、疾患の医学的側面だけでなく、患者や周囲の人々が感じる不安、恐怖、絆を表現する手段としても機能します。『シドニー・ホールの失踪』』のエレベーターのシーンは、極端な状況ではありますが、喘息がコントロールされない場合の危険性を視聴者に強く印象づけます。現実では、こうした悲劇を防ぐために、患者教育や医療アクセスの重要性が強調されます。映画は、喘息の怖さを誇張しつつも、その管理の重要性を間接的に訴える役割を果たしていると言えるでしょう。

結論

喘息は、適切に管理すれば多くの場合コントロール可能な疾患ですが、発作が重症化すると生命を脅かす危険性があります。『シドニー・ホールの失踪』』でのメロディの死は、喘息の急性発作の深刻さを劇的に表現した例です。この映画をはじめ、『グーニーズ』や『サイン』など、喘息を取り上げた作品は、疾患が個人や家族に与える影響を多角的に描き、視聴者にそのリアルな一面を伝えています。喘息患者が安全に生活するためには、医療的なサポートと周囲の理解が不可欠です。映画を通じて、喘息の怖さと向き合うきっかけが提供されることは、疾患への認識を深める一助となるでしょう。