アクション映画における強い女性像の歴史
2000年頃から、アクション映画における女性キャラクターの描かれ方は大きく変化し、強い女性像が主流の一つとして確立されてきた。この変遷は、ジェンダー観の進化や社会的な女性の地位向上と密接に関連している。以下では、アンジェリーナ・ジョリーやシャーリーズ・セロンを中心に、アクション映画における女性の活躍の歴史を振り返る。
2000年代初頭:アンジェリーナ・ジョリーと強い女性像の確立
2000年代初頭、アンジェリーナ・ジョリーは『トゥームレイダー』(2001年、2003年)や『ミスター&ミセス・スミス』(2005年)といった作品で、肉体的に強く、精神的にも独立した女性キャラクターを演じた。ララ・クロフト役のジョリーは、考古学者でありながら格闘技や銃器を自在に操るヒーローとして、従来の男性主導のアクション映画に新たな風を吹き込んだ。この時期の女性キャラクターは、男性と対等、あるいはそれ以上の能力を持ち、セクシュアリティを強調しつつも主体性を失わない姿が特徴だった。ジョリーの活躍は、女性がアクション映画の主役を担えることを証明し、以降の作品に大きな影響を与えた。
この時期、女性キャラクターはしばしば「男性的な強さ」を強調され、感情的な脆弱性を抑えた描かれ方が多かった。これは、女性がアクション映画で受け入れられるためには、男性のヒーロー像に近づく必要があった時代背景を反映している。しかし、ジョリーのキャラクターには、知性やカリスマ性も併せ持つ魅力があり、単なる「戦う女性」を超えた深みを加えた。
2010年代:シャーリーズ・セロンと多様な強い女性像
2010年代に入ると、シャーリーズ・セロンが『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年)のフュリオサや『アトミック・ブロンド』(2017年)で、アクション映画における女性像をさらに進化させた。フュリオサは、過酷な世界で生き延びるために戦うリーダーであり、肉体的な強さだけでなく、仲間を導く精神的な強さが際立っていた。一方、『アトミック・ブロンド』のロレイン・ブロートンは、スパイとしての知略と格闘技術を駆使し、冷徹かつ魅力的なキャラクターとして描かれた。
セロンの演じる女性キャラクターは、ジョリーの時代に比べ、より人間的な複雑さや感情の深みを帯びていた。たとえば、フュリオサは過去のトラウマを抱えつつも希望を見出す姿が描かれ、観客に感情的な共鳴を呼び起こした。この時期には、『ハンガー・ゲーム』(2012年~2015年)のカットニス・エヴァディーン(ジェニファー・ローレンス)や『キル・ビル』(2003年~2004年)のビアトリクス・キッド(ユマ・サーマン)など、さまざまな形で強い女性が登場し、アクション映画における女性像が多様化していった。
社会背景と女性像の変化
アクション映画における女性の活躍の増加は、フェミニズムの進展や女性の社会進出と連動している。2000年代から2010年代にかけて、#MeToo運動やジェンダー平等の議論が世界的に広がり、映画産業も女性の視点や主体性を重視するようになった。マーベル映画『キャプテン・マーベル』(2019年)のキャロル・ダンヴァース(ブリー・ラーソン)やDCの『ワンダーウーマン』(2017年)のダイアナ(ガル・ガドット)は、女性が単なるサポート役ではなく、物語の中心として活躍する存在として描かれた。これらのキャラクターは、男性キャラクターと同等の、あるいはそれ以上の力を発揮し、自己実現や正義のために戦う姿が強調された。
また、アクション映画における女性キャラクターの描かれ方は、単に「強い」だけでなく、感情や人間関係の複雑さを反映する方向にシフトしていった。たとえば、『ブラック・ウィドウ』(2021年)のナターシャ・ロマノフ(スカーレット・ヨハンソン)は、戦士としての強さだけでなく、家族との絆や過去の傷に向き合う姿が描かれ、観客に深い共感を呼んだ。
ナタリー・ドーマーの視点とその影響
イギリス出身の女優ナタリー・ドーマーは、アクション映画における「強い女性」像が必ずしも唯一の理想ではないと指摘している。彼女は、『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011年~2019年)のマーガリー・ティレル役などで、知性や政治的手腕で影響力を発揮する女性を演じてきた。ドーマーは、女性キャラクターが戦闘力や肉体的な強さに限定されず、知性、感情、協調性など多様な形で「強さ」を表現すべきだと主張する。この視点は、アクション映画だけでなく、映画全般における女性像の進化に影響を与えている。
今後の映画における女優・キャラクターの描かれ方
今後、映画における女性キャラクターや主演女優の描かれ方は、現在のトレンドや社会の変化を反映しつつ、さらに多様な方向へ進化していくと考えられる。ナタリー・ドーマーのような視点も取り入れられ、アクション映画に限らず、さまざまなジャンルで女性キャラクターが新たな形で描かれるだろう。以下では、複数の方向性を検討する。
多面的な強さの強調
今後の女性キャラクターは、肉体的な強さだけでなく、知性、感情の深さ、リーダーシップ、協調性など、多面的な「強さ」を持つ姿が強調されるだろう。たとえば、アクション映画では、戦闘シーンだけでなく、戦略を立てる場面や仲間との絆を深めるシーンが増える可能性がある。『ブラック・パンサー:ワカンダ・フォーエバー』(2022年)のシュリ(レティーシャ・ライト)は、科学者としての知性と戦士としての勇気を兼ね備え、亡魂との向き合いを通じて成長する姿が描かれた。このようなキャラクターは、観客に多層的な共感を呼び起こす。
また、ナタリー・ドーマーの主張に基づけば、戦闘力を持たない女性キャラクターも、物語の中心として活躍する機会が増えるだろう。政治的駆け引きや心理戦を主軸とした作品では、知性やカリスマ性を武器に影響力を発揮する女性が描かれる。たとえば、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』(2022年~)のレイニラ・ターガリエン(エマ・ダーシー)は、戦士ではないが、権力闘争の中でリーダーシップを発揮する。このようなキャラクターは、アクション映画の枠を超え、女性の多様な活躍の場を広げる。
ジェンダー規範のさらなる打破
これまで、アクション映画の女性キャラクターは、男性のヒーロー像に近づく形で「強さ」を表現することが多かった。しかし、今後はジェンダー規範そのものを打破し、女性特有の視点や経験を強調したキャラクターが増えるだろう。たとえば、女性の身体性や母性、友情、コミュニティとの結びつきをテーマにしたアクション映画が登場する可能性がある。
『バービー』(2023年)の成功は、女性の自己実現や社会での役割をユーモアと深みをもって描いた例として挙げられる。今後、アクション映画でも、女性が自身のアイデンティティや文化的背景を反映した形で活躍する作品が増えるだろう。たとえば、先住民族やマイノリティの女性が主人公のアクション映画では、文化的価値観や伝統を戦いの動機に取り入れることで、新たな物語が生まれる。
チームワークと多様な女性像の共存
アクション映画における女性キャラクターは、単独のヒーローではなく、チームの一員として描かれるケースが増えるだろう。これにより、異なる背景や能力を持つ女性たちが協力し合う姿が強調される。『オーシャンズ8』(2018年)は、女性だけの犯罪チームを描き、それぞれの個性や専門性を活かした協力を描いた。今後、アクション映画でも、戦士、科学者、戦略家、癒し手など、多様な役割を持つ女性が一つの目標に向かって団結する物語が増える可能性がある。
この方向性は、ナタリー・ドーマーの「強さの多様性」を反映するもので、女性が単一の型にはまることなく、個々の強みを活かして活躍する姿を示す。たとえば、SFアクション映画では、戦闘担当の女性と技術担当の女性が互いを補完し合い、物語を進める展開が考えられる。
感情と脆弱性の統合
今後の女性キャラクターは、強さと脆弱性を両立させる形で描かれるだろう。これまでのアクション映画では、女性が「強い」ためには感情を抑える必要があるとされる傾向があったが、現代の観客は、感情やトラウマを抱えながらも立ち上がるキャラクターに共感する。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022年)のエヴリン(ミシェル・ヨー)は、平凡な主婦が多元宇宙を救うヒーローになる過程で、家族への愛や自己受容を描き、大きな反響を呼んだ。
アクション映画でも、主人公が恐怖や悲しみを乗り越え、成長する姿が強調されるだろう。このアプローチは、女性キャラクターをより人間的で親しみやすい存在にし、観客との感情的なつながりを深める。たとえば、復讐をテーマにしたアクション映画では、主人公が過去の傷と向き合いながら戦う姿が、物語の中心となる。
新たなジャンルとの融合
アクション映画における女性キャラクターは、他のジャンルとの融合を通じて、さらに多様な描かれ方をするだろう。たとえば、ホラーやコメディ、ファンタジーとの融合により、従来のアクション映画の枠を超えた女性像が生まれる。『レディ・プレイヤー1』(2018年)のサマンサ(オリビア・クック)は、仮想現実の世界で戦いながら、リアルの世界での社会問題にも立ち向かう。このようなキャラクターは、アクションの枠を超え、現代の複雑な課題を反映する。
また、アジアやアフリカなど、非西洋文化を背景にしたアクション映画が増えることで、グローバルな視点を持った女性キャラクターが登場する。たとえば、ボリウッドやナイジェリアの映画産業(ノリウッド)では、独自の文化的文脈を持った女性ヒーローが描かれており、これがハリウッドにも影響を与えるだろう。
結論
アクション映画における女性キャラクターの歴史は、アンジェリーナ・ジョリーのララ・クロフトからシャーリーズ・セロンのフュリオサまで、肉体的な強さから多面的な人間性へと進化してきた。ナタリー・ドーマーの視点は、強さの定義をさらに広げ、知性や感情、協調性を重視する方向を示している。今後、女性キャラクターは、ジェンダー規範の打破、多様な強さの表現、チームワーク、感情の統合、新ジャンルとの融合を通じて、より豊かでリアルな姿で描かれるだろう。これにより、映画は女性の多様な可能性を反映し、観客に新たなインスピレーションを与える場となる。
レビュー 作品の感想や女優への思い