若尾文子は日本国の女優。大映の看板女優として日本映画の黄金期を代表する存在でした。1966年、ブルーリボン賞主演女優賞受賞。
若尾文子は、戦後の日本映画を代表する女優として、増村保造や小津安二郎ら巨匠たちに愛され、独特の妖艶さと強さをスクリーンに刻みました。高校中退後、大映でのデビューから数々の名作に出演し、テレビや舞台でも活躍。黒川紀章との結婚や映画祭での再ブレイクなど、90歳を超えた今もその魅力は色褪せていません。
若尾文子
- 芸名:若尾文子
- 本名:黒川文子
- 生年月日:1933年11月8日(91歳)
- 出生地:日本国東京都豊島区
- 出身地:日本国東京都荒川区
- 職業:女優
- 活動期間:1951年~
- 活動内容:映画、テレビドラマ、舞台
- 配偶者:西館宏幸(離別)、黒川紀章(死別)

ファム・ファタル
若尾文子の印象は、安定した生活を送りながら恋愛面ではちゃっかり愛人を作っている人妻熟女。このようなイメージのキャラクターを演じた作品は「卍」でしょうか…。
うつむき加減の姿や表情から色気が刺さってきます。着物を着た役柄が多く美熟女全開ですが、洋服だと美女に若返りする不思議な印象。
若尾文子は、可憐な女学生を演じ、悪の化身として男たちを破滅させる魔性の女を演じ、そして激情に我を忘れる人妻を演じました。役柄の幅が広いです。
生い立ちと教育
若尾文子は1933年11月8日に東京都荒川区(豊島区説あり)に生まれました。5人兄姉の末っ子。
第二次世界大戦中、父親の仕事の関係で宮城県仙台市へ疎開。宮城県第二女子高等学校(現・宮城県仙台二華高等学校)に入学しましたが、女優の道を志して中退。学生時代は読書好きで無口な性格から、女学校時代に「石仏」というあだ名をつけられたそうです。
1951年に大映に就職して映画女優としてスタート。
経歴
若尾文子は日本映画がもっとも頂点に到達したとき、まさに頂点に位置していた女優。
大映
若尾文子は1951年に大映の第5期ニューフェイスとして映画界入りしました。1952年、小石栄一監督の『死の街を脱れて』で急病の久我美子の代役として映画デビュー。1953年、映画『十代の性典』がヒット。思春期をテーマにした作品で「性典女優」とマスコミに揶揄されるも、知名度が急上昇。その後、大映の看板女優として、160本以上の映画に主演。官能性と女性の自立を体現する演技で評価されています。1966年、ブルーリボン賞主演女優賞を受賞。
映画監督とのコラボレーションてみは、増村保造の作品が多く20作品以上に出演(『清作の妻』『妻は告白する』『赤い天使』など)。溝口健二作品では 『祇園囃子』『赤線地帯』に出演。小津安二郎作品には『浮草』に出演。小津に憧れ「お嫁さんになりたかった」と語っています。川島雄三作品は『女は二度生まれる』など3作品。市川崑作品は7作品に出演。
大映倒産後
1971年の大映倒産後、若尾文子は映画からTV番組や舞台へ活動の場を移しました。TV番組では『新・平家物語』(1972年)、『おひさま』(2011年)などに出演。1988年、NHK大河ドラマ『武田信玄』で信玄の母役とナレーションを務め、流行語大賞を受賞しています(今宵はここまでに致しとうござりまする)。CM出演では、日清食品『ごんぶと』、花王『SOFINA』、マクドナルド月見バーガー(1987年)、ソフトバンクモバイル(2014年)など。
代表作
若尾文子の代表作は、日本映画史に燦然と輝く名作揃いで、彼女の美貌と演技力は今も色褪せません。
若尾文子の代表作は、彼女の多面的な魅力と演技力を象徴する作品群で、とくに大映時代(1950年代~1970年代初頭)に多くの名作が生まれました。
以下に、代表作を厳選して簡潔にまとめ、その特徴や意義を解説します。若尾文子は160本以上の映画に出演しており、他にも『清作の妻』(1965年)、『刺青』(1966年)、『積木の箱』(1968年)など名作が多いのですが、監督の名声や作品の知名度、若尾の演技のインパクトを基準に選出。増村作品はとくに彼女のキャリアの核を成します。
祇園囃子(1953年、溝口健二監督)
京都の花街を舞台に、芸妓の姉妹の絆と葛藤を描く人間ドラマ。若尾文子は新人芸妓・小菊役。溝口の美学(長回しやリアリズム)が光る名作で、若尾の初々しい魅力が注目されました。若尾自身、溝口作品への出演を誇りに思うと語っています。溝口の代表作の一つで、文子のキャリア初期の重要な一歩。
浮草(1959年、小津安二郎監督)
旅回りの芝居一座を舞台に、座長(中村鴈治郎)と愛人(京マチ子)、その息子(川口浩)と若尾文子が演じる若い女優・加代の恋愛模様を描いています。小津の繊細な人間描写と色彩美が際立つ作品。文子は清純さと芯の強さを兼ね備えた加代を演じ、小津に「理想のお嫁さん」と評されました。小津ファンからも高評価で、可憐な魅力が光っています。
赤い天使(1966年、増村保造監督)
日中戦争中の従軍看護婦さくら(若尾文子)が、過酷な環境で愛と死に直面する戦争ドラマ。若尾と増村の黄金コンビによる最高傑作の一つ。官能性と人間性を融合させた若尾の演技が圧巻で、戦場の残酷さと女性の強さを描写。国内外でカルト的な人気を誇り、若尾の代表作として頻繁に映画祭で上映。
妻は告白する(1961年、増村保造監督)
夫の不倫を水(見ず)に流したかった若尾文子演じる妻が、夫の死をきっかけに法廷で自らの内面を告白する心理ドラマ。増村の社会派ドラマの傑作。若尾の抑制された演技が、女性の自立と複雑な感情を見事に表現。現代的なテーマ性で今も共感を呼び、若尾の知的な魅力が際立っています。
女は二度生まれる(1961年、川島雄三監督)
銀座のコールガール小菊(若尾文子)が、客との出会いを通じて自分を見つめ直す物語。川島の軽妙な演出と若尾の奔放な魅力が融合。女性の自由と孤独をユーモラスかつ切なく描写。川島作品の隠れた名作として再評価され、若尾のコミカルな一面も垣間見えます。
特徴
多様な役柄
若尾文子の代表作は、清純な娘役(『浮草』)、妖艶な女性(『赤い天使』)、知的な現代女性(『妻は告白する』)と幅広く、彼女の演技の奥深さを示しています。
監督との相性
増村保造(20作品以上)、溝口健二、小津安二郎、川島雄三といった巨匠たちとのコラボレーションで、彼女の魅力が最大限に引き出されました。とくに増村作品では、官能性と社会性を両立するヒロイン像を確立。
時代性
戦後日本の女性像(従順さから自立へ)を体現し、現代でもフェミニズムの文脈で再評価されています。
再発見
2020年の『若尾文子映画祭』や4K修復版上映(『赤い天使』など)で、若い世代にもその魅力が広がり、「あやや」として親しまれています。
私生活
若尾文子は1963年にデザイナー西館宏幸と結婚(1969年離婚)。1984年、建築家黒川紀章と再婚。きっかけは、1976年の対談番組『すばらしき仲間』。黒川は2007年に死去し、二人に子供はいません。
現在、若尾文子は91歳。女優業は休業状態ですが、引退宣言はしていません。4K修復版上映(2020年など)や『若尾文子映画祭』(2025年)で再評価され、若い世代から「あやや」の愛称で親しまれています。
出演作品
日本語以外の題名表記は原題または英題です。
若尾文子は増村保造監督作品への出演が多く、コンビを組んだ数は20。
映画
公開年 | 題名 |
---|---|
1952年 | 長崎の歌は忘れじ |
1952年 | 娘初恋ヤットン節 |
1952年 | 死の街を脱れて |
1952年 | 猛獣使いの少女 |
1952年 | 母子鶴 |
1952年 | 花嫁花婿チャンバラ節 |
1952年 | 明日は日曜日 |
1952年 | 秘密 |
1952年 | 街の小天狗 |
1952年 | 総理大臣と女カメラマン 彼女の特ダネ |
1953年 | 十代の性典 |
1953年 | 怒れ三平 |
1953年 | チャタレー夫人は日本にもいた |
1953年 | 続十代の性典 |
1953年 | 祇園囃子 |
1953年 | 春雪の門 |
1953年 | 続続十代の性典 |
1953年 | 無法者 |
1953年 | 十代の誘惑 |
1954年 | 心の日月 |
1954年 | 或る女 |
1954年 | 酔いどれ二刀流 |
1954年 | 舞妓物語 |
1954年 | 慕情 |
1954年 | 浅草の夜 |
1954年 | 緑の仲間 |
1954年 | 月よりの使者 |
1954年 | 荒城の月 |
1954年 | 勝敗 |
1955年 | 螢の光 |
1955年 | 幸福を配達する娘 |
1955年 | 月に飛ぶ雁 |
1955年 | 薔薇いくたびか |
1955年 | 娘の縁談 |
1955年 | 幻の馬 |
1955年 | 長崎の夜 |
1955年 | 珠はくだけず |
1955年 | 七人のあにいもうと |
1955年 | 弾痕街 |
1956年 | 薔薇の絋道館 |
1956年 | 花嫁のため息 |
1956年 | 新妻の寝ごと |
1956年 | 虹いくたび |
1956年 | 赤線地帯 |
1956年 | 新婚日記 恥しい夢 |
1956年 | 新婚日記 嬉しい朝 |
1956年 | 処刑の部屋 |
1956年 | 滝の白糸 |
1956年 | あさ潮ゆう潮 |
1956年 | スタジオは大騒ぎ |
1956年 | 涙 |
1956年 | 日本橋 |
1956年 | 四十八歳の抵抗 |
1956年 | 君を愛す |
1957年 | 銀河の都 |
1957年 | スタジオはてんやわんや |
1957年 | 続銀河の都 |
1957年 | 慕情の河 |
1957年 | 朱雀門 |
1957年 | 永すぎた春 |
1957年 | 妻こそわが命 |
1957年 | 誘惑からの脱出 |
1957年 | 夕凪 |
1957年 | 青空娘 |
1958年 | 東京の瞳 |
1958年 | 新婚七つの楽しみ |
1958年 | 母 |
1958年 | 螢火 |
1958年 | 忠臣蔵 |
1958年 | 愛河 |
1958年 | 口笛を吹く渡り鳥 |
1958年 | 息子の結婚 |
1958年 | 嵐の講道館 |
1958年 | 一粒の麦 |
1958年 | 夜の素顔 |
1958年 | 娘の冒険 |
1959年 | あなたと私の合言葉 さようなら、今日は |
1959年 | 薔薇の木にバラの花咲く |
1959年 | 山田長政 王者の剣 |
1959年 | 最高殊勲夫人 |
1959年 | 氾濫 |
1959年 | 次郎長富士 |
1959年 | 花の大障碍 |
1959年 | 美貌に罪あり |
1959年 | 実は熟したり |
1959年 | 浮草 |
1959年 | 初春狸御殿 |
1960年 | 女経 第一話 耳を噛みたがる女 |
1960年 | 女は抵抗する |
1960年 | からっ風野郎 |
1960年 | ぼんち |
1960年 | 勝利と敗北 |
1960年 | 素敵な野郎 |
1960年 | 安珍と清姫 |
1960年 | 偽大学生 |
1960年 | 鎮花祭 |
1961年 | 花くらべ狸道中 |
1961年 | 銀座っ子物語 |
1961年 | 婚期 |
1961年 | お嬢さん |
1961年 | 好色一代男 |
1961年 | 東京おにぎり娘 |
1961年 | 女の勲章 |
1961年 | 女は二度生まれる |
1961年 | 銀座のぼんぼん |
1961年 | 新・源氏物語 |
1961年 | 妻は告白する |
1962年 | 家庭の事情 |
1962年 | 雁の寺 |
1962年 | 爛 |
1962年 | 閉店時間 |
1962年 | 仲良し音頭 日本一だよ |
1962年 | やっちゃ場の女 |
1962年 | その夜は忘れない |
1962年 | 瘋癲老人日記 |
1962年 | 秦・始皇帝 |
1962年 | しとやかな獣 |
1963年 | 雪之丞変化 |
1963年 | 八月生れの女 |
1963年 | 女系家族 |
1963年 | 私を深く埋めて |
1963年 | 女が愛して憎む時 |
1963年 | 越前竹人形 |
1963年 | 新・忍びの者 |
1964年 | 温泉女医 |
1964年 | 「女の小箱」より 夫が見た |
1964年 | 傷だらけの山河 |
1964年 | 獣の戯れ |
1964年 | 卍 |
1964年 | 悶え |
1964年 | 幸せなら手をたたこう |
1965年 | 花実のない森 |
1965年 | 波影 |
1965年 | 女めくら物語 |
1965年 | 帯をとく夏子 |
1965年 | 清作の妻 |
1965年 | 不倫 |
1965年 | 妻の日の愛のかたみに |
1966年 | 刺青 |
1966年 | 処女が見た |
1966年 | 氷点 |
1966年 | 雁 |
1966年 | 赤い天使 |
1966年 | 処女受胎 |
1967年 | 雪の喪章 |
1967年 | 夜の罠 |
1967年 | 妻二人 |
1967年 | 砂糖菓子が壊れるとき |
1967年 | 華岡青洲の妻 |
1968年 | 積木の箱 |
1968年 | 濡れた二人 |
1968年 | 不信のとき |
1968年 | 鉄砲伝来記 |
1969年 | 千羽鶴 |
1969年 | 天狗党 |
1970年 | 座頭市と用心棒 |
1970年 | スパルタ教育 くたばれ親父 |
1971年 | 男はつらいよ 純情篇 |
1971年 | 幻の殺意 |
1975年 | ある映画監督の生涯 溝口健二の記録 |
1987年 | 竹取物語 |
2005年 | 春の雪 |
TV
放送年 | 題名 |
---|---|
1968年 | クラクラ日記 |
1968年 – 1969年 | どっきり花嫁 |
1971年 | おんなの気持 |
1976年 | 女の秋 |
1980年 | 時雨の記 |
1982年 | 妻のしあわせ |
1985年 | ときめきの午後 |
1987年 | 結婚記念日 |
1990年 | 再婚しますか… |
1991年 | 華のいろ |
1993年 | 愛のいたずら |
1969年 | きんきらきん |
1969年 | 罪な女 |
1969年 | 待ってますワ |
1969年 | 戦国艶物語 |
1970年 | ふたりぼっち |
1970年 | こけこっこー! |
1971年 | ちん・とん・しゃん |
1971年 | 七つちがい |
1972年 | 新・平家物語 |
1975年 | 元禄太平記 |
1988年 | 武田信玄 |
1998年 | 徳川慶喜 |
2003年 | 武蔵 MUSASHI |
1972年 | おはよう |
1972年 | 赤ひげ |
1973年 | さよならを私に |
1973年 | 秋の蛍 |
1973年 | 別れの午後 |
1974年 | 冬の花 悠子 |
1974年 | 女の気持 |
1976年 | 女の足音 |
1977年 | 女の河 |
1979年 | 夕顔の女 |
1979年 | 午後の恋人 |
1982年 | 花の影 |
1975年4月6日 | 寿の日 |
1975年 | あなただけ今晩は |
1975年 | 櫂 |
1976年 | 冬の虹 |
1978年 | みずきの花匂うとき |
1979年 | 旅立ちは愛か |
1980年 | 冬の恋人 |
1981年 | 午後の旅立ち |
1981年 | 秋なのにバラ色 |
1982年 | 戦国の女たち |
1982年 | スリーマンにアタック! |
1982年 | ダイヤルの中の女 |
1983年 | 戦国うらばなし |
1983年 | ちょっと夫婦で… |
1984年 | 鹿鳴館物語 |
1984年 | 妻たちの乱気流 |
1985年 | 花道は炎のごとく |
1985年 | 断崖の女 |
1985年 | 他人家族 |
1986年 | 影ある旅装 |
1986年 | 他人家族II |
1987年 | 旅はおしゃれに |
1988年 | 御宿かわせみ 白萩屋敷の月 闇を切る剣忍ぶ恋に泣く女 |
1989年 | 宮尾登美子の春燈 |
1990年 | 三姉妹 |
1991年12月27日と1992年1月3日 | 源氏物語 上の巻・下の巻 |
1992年 | 迷走地図 |
1995年10月3日 | 正当防衛 |
1999年 | 信濃のコロンボ2 戸隠伝説殺人事件 |
2002年 | お美也 |
2003年 | 初蕾 |
2009年 | 結婚 |
2011年4月4日-10月1日 | おひさま |
2012年4月13日 | 慟哭の再会 |
2013年8月5日 | 居酒屋もへじ2 あなたとわたし |
2015年6月8日 | 居酒屋もへじ4 恋という字 |
2013年11月27日 | 捜査検事・近松茂道14 秘湯・乳頭温泉に消えた女 |
舞台
上演年 | 題名 |
---|---|
1970年1 – 2月、5 – 6月 | 雪国 |
妻たちの鹿鳴館 | |
花の情 | |
1993年10月3日 – 27日 | 雁 |
2004年、2005年 | ウェストサイド・ワルツ |
2007年 | セレブの資格 |
2008年、2010年 | 華々しき一族 |
2011年 | 女の人さし指 |
2012年8月8日 – 19日 | 明日の幸福 |
レビュー 作品の感想や女優への思い