『ハンガリー連続殺人鬼』（原題：A martfüi rém）は、2016年製作のハンガリー映画。実在の連続殺人犯ペーテル・コヴァーチを基にしたダーク・サイコ・スリラー。1957～67年のハンガリーを舞台に、冤罪と真犯人の追跡を描く。冷戦下の社会主義時代を背景に、衝撃の実話を描いた歴史的大ヒット作。
基本情報
- 邦題：ハンガリー連続殺人鬼
- 原題：A martfüi rém
- 公開年：2016年
- 製作国：ハンガリー
- 上映時間：118分
見どころ
事件を追う刑事や検事、容疑者、被害者、そして真犯人らそれぞれの関係や心中描写が生む雰囲気が独特。社会主義政権下での事件という点も物語をより面白くさせている。
あらすじ
1957年、ハンガリーの田舎町マルトフで、女性の遺体が発見される。遺体には屍姦の痕跡があり、警察は迅速に容疑者アコシュ・レーテイを逮捕。彼は厳しい尋問の末、自白を強要され、終身刑を言い渡される。しかし、7年後の1964年、町で再び同様の手口による連続殺人事件が発生。被害者は若い女性で、遺体は切り刻まれ、性的暴行を受けた状態で発見される。レーテイの冤罪を確信した若手検事ゾルタン・サントーは、ベテラン刑事ベンスとの協力を得て、真犯人を探し始める。捜査は困難を極め、ソ連型社会主義体制下の非人道的な司法や警察の腐敗が浮き彫りに。真犯人ヤーノシュ・カタパンの狡猾な行動と、被害者の一人であるカタパンの妻リタの苦悩が物語に深みを加える。サントーとベンスは、証拠を積み重ね、ついに真実へと迫るが、さらなる悲劇が待ち受ける。物語は、冷戦下の抑圧的な社会と個人の闘いを描きつつ、衝撃の結末へと突き進む。
解説
本作は、ハンガリー人民共和国時代（1949～1989年）に実際に起きた連続殺人事件を基にした実録映画であり、監督アールパード・ショプシッツの緻密な演出により、単なる犯罪スリラーに留まらない深いテーマ性を持っています。
1950～60年代のハンガリーは、ソ連の影響下にあった社会主義体制により、個人的人権が軽視され、警察や司法の強権的な手法が横行していました。本作は、この時代背景を丁寧に描き、冤罪や警察の自白強要といった社会問題を浮き彫りにします。
特に、冤罪で服役したレーテイの悲劇や、真犯人カタパンの異常な心理、そして被害者家族の苦しみが、観る者に重い問いを投げかけます。映像面では、暗く冷たい色調で社会主義時代の閉塞感を表現し、シネマスコープの構図が緊張感を高めています。音楽も不穏な雰囲気を強調し、物語の重厚さを支えています。
本作はハンガリー国内で数々の賞を受賞し、国際的にも高い評価を得ました。犯罪映画としてのエンターテインメント性と、社会派ドラマとしての深みが融合した作品であり、観客に倫理や正義について考えさせる力を持っています。
女優の活躍
本作では、モーニカ・バルシャイとジョーフィア・サモシが特に際立つ演技を見せています。
モーニカ・バルシャイ（リタ役）
モーニカ・バルシャイは、真犯人ヤーノシュ・カタパンの妻リタを演じ、複雑な感情を見事に表現しました。リタは夫の異常な行動に気づきつつも、恐怖と愛の間で葛藤する女性です。バルシャイの演技は、夫の犯罪を知った後の絶望や無力感を繊細に描き出し、観客の共感を誘います。特に、夫の特徴的な行動から彼が犯人だと悟る場面では、表情と仕草だけで深い心理を伝え、物語の感情的な核を担っています。彼女の抑制された演技は、物語の暗いトーンと調和し、リタの悲劇的な運命を強調します。
ジョーフィア・サモシ（被害者の姉役）
ジョーフィア・サモシは、被害者の一人である女性の姉を演じ、短い出演時間ながら強烈な印象を残します。彼女の演じるキャラクターは、妹の死に直面し、怒りと悲しみに苛まれる女性です。サモシの感情的な演技は、家族を失った痛みをリアルに伝え、物語に人間的な重みを加えています。彼女の叫び声や涙のシーンは、観る者の心に深く突き刺さります。
小括
両女優は、男性中心の捜査劇の中で、女性の視点や苦しみを描く重要な役割を果たしました。彼女たちの演技は、犯罪の被害者やその周囲の人々の心理を浮き彫りにし、物語に感情的な深みを与えています。特に、バルシャイの演じるリタの複雑な内面は、本作のテーマである「正義と真実の追求」を補完する存在感を示しています。
女優の衣装・化粧・髪型
本作の衣装、化粧、髪型は、1950～60年代のハンガリーの社会主義時代を反映し、抑圧的で簡素な雰囲気を強調しています。
モーニカ・バルシャイ（リタ）
リタの衣装は、控えめで実用的なものが中心です。彼女は中流階級の主婦として、グレーやベージュの地味なワンピースやスカートを着用し、時代背景を反映した質素なスタイルが目立ちます。化粧はほぼナチュラルで、口紅やアイメイクは控えめ。社会主義時代では派手な化粧が一般的でなかったことを示しています。髪型は、肩までの長さで緩く巻いたスタイルや、シンプルなポニーテールが多く、家庭的な女性像を強調。物語が進むにつれ、彼女の衣装はやや乱れ、精神的な動揺を視覚的に表現しています。特に、夫の犯罪に気づく場面では、乱れた髪と薄い化粧が彼女の不安定な心理を際立たせます。
ジョーフィア・サモシ（被害者の姉）
サモシのキャラクターは、労働者階級の女性として登場し、衣装は暗い色調のスカートやブラウスが中心。彼女の服は、日常的で実用的なデザインが特徴で、装飾はほとんどありません。化粧はほぼ施されておらず、素朴な外見が被害者家族の厳しい生活環境を反映。髪型は、短くまとめられたアップスタイルで、悲しみや怒りを表現する場面では、髪がやや乱れることで感情の激しさを強調しています。彼女の外見は、悲劇的な状況におけるリアルな女性像を表現しています。
小括
全体的に、女優たちの衣装や化粧は、派手さを抑え、時代背景やキャラクターの社会的立場を忠実に反映。地味ながらも心理的な変化を表現する工夫が施されており、物語の暗いトーンと調和しています。衣装デザインは、抑圧的な社会主義時代の雰囲気を視覚的に伝え、観客に当時のハンガリーの生活感を伝えています。
キャスト
- カーロイ・ハイデュク: ゾルタン・サントー（若手検事。正義感に駆られ、冤罪を暴くために奮闘する）
- ガーボル・ヤースベレーニー: ヤーノシュ・カタパン（真犯人。狡猾で異常な心理を持つ連続殺人犯）
- アンガー・ジョルト: ベンス（ベテラン刑事。サントーと協力し、真犯人を追う）
- モーニカ・バルシャイ: リタ（カタパンの妻。夫の犯罪に苦悩する女性）
- ジョーフィア・サモシ: 被害者の姉（妹の死に直面し、感情的な演技で物語に深みを加える）
- ピーテル・バールナイ: アコシュ・レーテイ（冤罪で服役する悲劇的な人物）
スタッフ
- 監督: アールパード・ショプシッツ（緻密な演出で社会派スリラーを構築）
- 脚本: アールパード・ショプシッツ（実話に基づく物語を巧みに脚色）
- 撮影: ガーボル・サボ（暗い色調とシネマスコープで緊張感を演出）
- 音楽: アッティラ・パツィ（不穏な音楽で物語の重厚さを強調）
- 製作: フェレンツ・セーチェーニ、ガーボル・フェレンツィ（ハンガリー映画界の重鎮が支える）
まとめ
『ハンガリー連続殺人鬼』は、実在の連続殺人事件を基にした重厚なサイコ・スリラーであり、社会主義時代のハンガリーの抑圧的な雰囲気を見事に描き出しています。モーニカ・バルシャイとジョーフィア・サモシの女優陣は、物語の感情的な核を担い、時代を反映した衣装や化粧がキャラクターの心理を強調。キャストとスタッフの優れた仕事により、犯罪映画としての緊張感と社会派ドラマとしての深みが融合した作品に仕上がっています。観客は、正義、冤罪、倫理といったテーマについて考えさせられるでしょう。本作は、ハンガリー映画の傑作として、国際的に高く評価されるに値する作品です。
レビュー 作品の感想や女優への思い