解離性遁走

この記事のうち「見どころ」には若干の誇張表現があります。

解離性遁走(以前は遁走状態または心因性遁走とも)は、予期せぬ徘徊や旅行に伴なう、自分のアイデンティティに対する可逆的な健忘を特徴とするまれな精神医学的現象。これは時に、新しいアイデンティティの確立と、症状発現前の個人情報を想起できないことを伴ないます。

解離性遁走は、解離性障害、転換性障害、身体症状障害などさまざまに分類される精神および行動の障害で、精神障害の診断と統計マニュアル第5版(DSM-5)によると解離性健忘の一面でもあります。

遁走状態から回復した後は、通常、以前の記憶がそのまま戻るため、それ以上の治療は不要。遁走のエピソードが向精神薬の摂取、身体的外傷、一般的な医学的状態、解離性同一性障害、せん妄、認知症に関連している場合は、精神疾患に起因するものとはみなされません。遁走は、長期にわたる一連の心的外傷エピソードによって誘発され、虐待の記憶を解離させることを学習した性的虐待の幼少期の被害者(解離性健忘)に最もよくみられます。

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解離性遁走

  • その他の呼称:遁走状態、心因性遁走
  • 専門分野:精神医学、神経学

徴候と症状

解離性遁走の症状には軽度の混乱があり、遁走が終わると、抑うつ、悲嘆、羞恥心、不快感が生じる可能性があります。また、遁走後に怒りを経験した人もいます。遁走状態のもう1つの症状として、自己同一性の喪失があります。

実例

シャーリー・アーデル・メイソン

シャーリー・アーデル・メイソン(1923年〜1998年)は「シビル」とも呼ばれ、姿を消して再び現われ、その間に何が起こったのか全く覚えていませんでした。彼女は「ここにいるのにいない」ことを思い出し、自分自身のアイデンティティをもちませんでした。精神科医のコーネリア・ウィルバーは、彼女は解離性同一性障害であると主張しましたが、ウィルバーのDID診断は、ウィルバーと同時代のハーバート・スピーゲルによって否定されました。

ジョディ・ロバーツ

タコマ・ニュース・トリビューン紙の記者ジョディ・ロバーツは1985年に失踪し、12年後にアラスカのシトカで「ジェーン・ディー・ウィリアムス」という名前で暮らしているのが発見されました。当初、彼女は記憶喪失を装っていたのではないかという疑惑もあったのですが、専門家のなかには、彼女が本当に長引く遁走状態を経験したと考える者も出てきました。

デイヴィッド・フィッツパトリック

解離性遁走障害を患っていたデイヴィッド・フィッツパトリックは、イギリスではファイブのTV番組『Extraordinary People』で紹介されました。彼は2005年12月4日に遁走状態に入り、ドキュメンタリー番組のエピソードに登場した時点で、人生全体の記憶を取り戻す作業をしていました。

ハンナ・ウップ

オレゴン州セーラム出身の教師ハンナ・ウップは、2008年8月にニューヨークの自宅から失踪し、20日後にニューヨークの港から救出された後、解離性遁走と診断されました。当時の報道では、発見直後に彼女が刑事と話すことを拒否したことや、行方不明中にアップルストアでメールをチェックしている姿が目撃されたことなどが注目されました。この報道はその後、解離性症状に対するしばしば「非難して信用を失墜させる」態度への批判につながっています。2013年9月3日、彼女は再び遁走し、メリーランド州ケンジントンにあるクロスウェイ・コミュニティ・モンテッソーリの教師助手として働いていた新しい仕事場から姿を消しました。彼女は2日後の2013年9月5日、メリーランド州ウィートンで無事発見されました。2017年9月14日、同月ハリケーン・マリアが到来する直前にセント・トーマスの自宅のサファイア・ビーチ付近で目撃されたのを最後に、彼女は再び行方不明になりました。母親と友人たちがヴァージン諸島とその周辺地域で捜索しましたが、2023年現在、行方不明のまま。

ジェフ・イングラム

ジェフ・イングラムは2006年、自分の名前も出身地も覚えていない状態でデンバーに現われました。全国放送のテレビに出演し、身元の確認を訴えた後、婚約者からデンバー警察に身元の確認の電話が入りました。このエピソードは解離性遁走と診断され、2012年12月の時点で、イングラムは1994年、2006年、2007年の3回、記憶喪失を経験しています。

ほかの事例

  • ダグ・ブルースは地下鉄の列車内で、自分の名前も出身地も身分証明書も何も覚えていないと「我に返りました」。
  • ブルネリ=カネラ事件は第一次世界大戦中に行方不明になった男性の再出現疑惑のこと。
  • アガサ・クリスティー(おそらく)
  • リジー・ボーデン事件では、遁走中に父親と継母を殺害した可能性があります。

映画やドラマの解離性遁走

2015年に公開されたエイプリル・マレン監督の映画『アウト・オブ・コントロール』では、冒頭でアメリカにおける解離性遁走の現状を簡単に説明しています。これによると、

  • 2000人に1人が経験するまれな精神疾患
  • 記憶を失なう特徴
  • 新たな人格の形成を伴ない数週間から数ヶ月続く
  • 幻覚や幻聴を伴なうこともある
  • 心的外傷が引き金となることが多い

ヴィム・ヴェンダース監督の映画『パリ、テキサス』では、主人公(ハリー・ディーン・スタントン)が解離性遁走を表現し、それに対処しています。

テリー・ギリアム監督の映画『フィッシャー・キング』では、主人公(ロビン・ウィリアムズ)が、目撃した殺人事件で妻を亡くしたことに対処するために、この障害を表現しています。

デヴィッド・リンチ監督の映画『ロスト・ハイウェイ』。

ニール・ラビュート監督作品『Nurse Betty』。主人公(レネ・ゼルウィガー)は、目撃した殺人事件で夫を亡くしたことに対処するため、この障害を表現。

『K-Pax』(イアン・ソフトリー監督)では主人公(ケヴィン・スペイシー)が、殺人事件で家族を失なったことから、何らかの障害を患っていると疑われます。

『ドクター・フー』のエピソード『ネクスト・ドクター』では、医者(デイヴィッド・テナント)が、自分を医者だと信じている遁走障害の登場人物ジャクソン・レイク(デイヴィッド・モリッシー)と出会います。

ジェラルド・マクモロー脚本・監督の映画『サブリミナル』では、脇役の2人(ライアン・フィリップ)と(サム・ライリー)が、戦闘ストレス反応と家族との死別によるPTSDに対処するため、遁走障害の特徴を示します。

ディト・モンティエル監督の映画『マン・ダウン』では、主人公(シャイア・ラブーフ)が、戦闘ストレス反応と死別によるPTSDに対処するために遁走障害の特徴を示しています。

アイザック・アシモフの小説『裸の太陽』では、遁走状態下で起きた殺人事件が描かれています。

『ブレイキング・バッド』では、主人公ウォルター・ホワイトがトゥコ・サラマンカ殺害のアリバイとして、シーズン2エピソード3「死んだハチに噛まれた」で遁走状態を装います。

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