ホラー映画の歴史は、映画の誕生とともに始まり、100年以上にわたって進化を続けてきました。以下では、ホラー映画の起源から現代までの主要な時期と特徴を、簡潔かつ包括的に解説します。
サイレント映画時代(1890年代~1920年代)
ホラー映画の歴史は、映画自体の発明とともに始まります。1896年、ジョルジュ・メリエスによる『悪魔の館(Le Manoir du Diable)』は、史上初のホラー映画とされ、悪魔や幽霊が登場する短い作品でした。この時期のホラーは、視覚的なトリックや幻想的な要素に依存し、観客を驚かせることに重点を置いていました。1910年代には、アメリカで『フランケンシュタイン』(1910年)や『ジキル博士とハイド氏』(1913年)といった文学作品の映画化が登場。ドイツ表現主義の影響を受けた『カリガリ博士』(1920年)は、不気味なセットデザインと心理的恐怖でホラー映画の芸術性を高めました。1922年の『ノスフェラトゥ』は、吸血鬼映画の先駆けとして、暗い影と不気味な雰囲気を特徴とし、後のホラージャンルに大きな影響を与えました。
トーキー時代とユニバーサル・モンスター映画(1930年代~1940年代)
1930年代、音声付き映画(トーキー)の登場により、ホラー映画は新たな表現力を獲得しました。アメリカのユニバーサル・ピクチャーズが「モンスター映画」の黄金時代を築き、『ドラキュラ』(1931年、ベラ・ルゴシ主演)、『フランケンシュタイン』(1931年、ボリス・カーロフ主演)、『ミイラ再生』(1932年)、『狼男』(1941年)などが公開されました。これらの作品は、怪物や超自然的な存在を中心に据え、ゴシックホラーの美学を確立。ユニバーサルのモンスターはポップカルチャーのアイコンとなり、続編やクロスオーバー作品(例:『フランケンシュタインと狼男』1943年)が多数製作されました。
一方、イギリスでは『吸血鬼』(1932年)などの作品が生まれ、ヨーロッパのホラーも独自の進化を遂げました。この時期のホラーは、恐怖と同時にロマンスや悲劇的要素を織り交ぜ、観客の共感を誘いました。
戦後とサイコスリラーの台頭(1950年代~1960年代)
第二次世界大戦後、ホラー映画は社会の不安を反映し始めます。1950年代のアメリカでは、冷戦や核の恐怖を背景に、SFホラーが人気を博しました。『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』(1956年)や『放射能X』(1954年)は、未知の科学やエイリアンへの恐怖を描き、赤狩りや共産主義への不安を象徴的に表現。日本の『ゴジラ』(1954年)も、核兵器の脅威を怪獣として具現化しました。
1960年代には、心理的恐怖が注目を集めます。アルフレッド・ヒッチコックの『サイコ』(1960年)は、殺人鬼ノーマン・ベイツの心理を掘り下げ、ホラー映画に新たな深みを加えました。『鳥』(1963年)も自然の脅威を通じて人間の無力感を描き、ヒッチコックの影響力はホラージャンル全体に波及しました。イギリスではハマー・フィルムがゴシックホラーを復活させ、『吸血鬼ドラキュラ』(1958年、クリストファー・リー主演)などで鮮やかな色彩と官能的な要素を導入しました。
現代ホラーの誕生(1970年代~1980年代)
1970年代、ホラー映画はより過激で現実的な方向へ進化しました。ウィリアム・フリードキンの『エクソシスト』(1973年)は、悪魔憑依をリアルに描き、観客に衝撃を与え、興行的に大成功。トビー・フーパーの『悪魔のいけにえ』(1974年)は、低予算ながら残酷なビジュアルとリアリズムでスラッシャー映画の原型を築きました。ジョン・カーペンターの『ハロウィン』(1978年)は、マイケル・マイヤーズという不死身の殺人鬼を登場させ、スラッシャージャンルを確立。低予算ながら商業的成功を収め、続編や模倣作品を多数生み出しました。
1980年代は、スラッシャー映画の全盛期です。『13日の金曜日』(1980年)や『エルム街の悪夢』(1984年)は、フレディ・クルーガーやジェイソン・ボーヒーズといったアイコニックな殺人鬼を生み出し、ティーンエイジャーをターゲットにしたホラーが主流に。特殊効果の進化により、ゴア(血みどろ)描写も増加しました。一方、スタンリー・キューブリックの『シャイニング』(1980年)は、心理的恐怖と芸術性を融合させ、ホラー映画の多様性を示しました。日本のホラーも『リング』(1998年)の原型となるVHS作品がこの時期に登場し始め、後のJホラーに繋がります。
ホラーの多様化とグローバル化(1990年代~2000年代)
1990年代、ホラー映画はさらなる多様化を遂げました。ウェス・クレイヴンの『スクリーム』(1996)は、メタ的な視点と自己言及的なユーモアを導入し、スラッシャージャンルを再定義。日本の『リング』(1998年、監督:中田秀夫)や『呪怨』(2002年、監督:清水崇)は、Jホラーブームを巻き起こし、幽霊や呪いといった東洋的な恐怖が世界的に注目されました。これらの作品はハリウッドでリメイク(例:『ザ・リング』2002年)され、グローバルな影響力を発揮。
2000年代には、「トーチャーポーン」と呼ばれる過激な暴力描写が特徴の作品が登場。『ソウ』(2004年)や『ホステル』(2005年)は、過酷な生存ゲームや人間の残虐性を強調し、議論を呼びました。一方、M・ナイト・シャマランの『シックス・センス』(1999年)は、心理的ホラーとサプライズエンディングで大ヒット。低予算の「ファウンド・フッテージ」形式も『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999年)で人気を博し、後の『パラノーマル・アクティビティ』(2007年)に繋がりました。
現代ホラーと社会性(2010年代~2020年代)
2010年代以降、ホラー映画は社会問題を反映する「ポストホラー」や「エレベーテッド・ホラー」と呼ばれる潮流を生み出しました。ジョーダン・ピールの『ゲット・アウト』(2017年)は、人種差別をテーマにした心理的ホラーで、アカデミー賞脚本賞を受賞。アリ・アスターの『ヘレディタリー 継承』(2018年)や『ミッドサマー』(2019年)は、家族やカルトの恐怖を通じて深い心理的テーマを探求。ロバート・エガースの『ウィッチ』(2015年)や『ライトハウス』(2019年)は、歴史的・神話的要素を融合させ、芸術性を追求しました。
ファウンド・フッテージ形式も進化し、『REC』(2007年)や『V/H/S』(2012年)などが人気を博みました。女性監督の台頭も顕著で、ジェニファー・ケントの『ババドック 暗闇の魔物』(2014年)は、母子の心理的恐怖を通じて母性やメンタルヘルスを描写。日本のホラーも『残穢【ざんえ】』(2016年)など、伝統的な怪談を現代的に再解釈した作品が注目されました。
2020年代に入り、ホラーはさらに多様化。『クワイエット・プレイス』(2018年)やその続編は、音をテーマにしたサスペンスで新機軸を打ち出し、『スマイル』(2022年)はSNS時代を反映した呪いの連鎖を描きました。ストリーミングサービスの普及により、NetflixやShudderなどでホラー映画が手軽に視聴可能になり、インディーズホラーの制作も増加しています。
総括
ホラー映画は、初期の幻想的なトリックから、モンスター、心理的恐怖、スラッシャー、Jホラー、ポストホラーまで、時代ごとの技術や社会の不安を反映しながら進化してきました。現代では、芸術性とエンターテインメント性を両立させ、文化的・社会的なテーマを探求する作品が増えています。ホラー映画は、単なる恐怖の提供を超え、人間の本質や社会の闇を映し出す鏡として、今後も進化を続けるでしょう。
レビュー 作品の感想や女優への思い