『殺人美容師 頭の皮を剥ぎ取ります』(原題:The Stylist)は2020年公開の米国製ホラー映画。孤独な美容師クレアの強迫観念と殺人衝動を描く。ジル・ガヴァーギジアン監督、ナジャラ・タウンゼント主演。上映時間105分。
殺人美容師 頭の皮を剥ぎ取ります
- 原題:The Stylist
- 公開年:2020年
- 上映時間:105分
- 製作国:米国
- ジャンル:ホラー
- キーワード:結婚式、ブライズメイド、美容師、マスターベーション
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見どころ
ジル・ガバーギジアン監督が2016年に手掛けた短編映画(後述)をもとに自ら長編映画に再構築。グロテスク表現を少しに抑え、洗練された演出がかえって恐ろしさを際立たせています。
サブタイトルも設定もぶっ飛んでいて面白そうな予感。頭皮付きカツラを集めた先の落としどころがみえず、推測しながら見ると面白いです。
あらすじ
カンザスシティで美容師として働くクレアは、孤独な日々を送りながら、他人になりたいという強迫観念に苛まれています。彼女は美容院の客を羨望のまなざしで見つめ、その欲望を満たすために、客の頭皮を剥ぎ取り、コレクションする異常な行動に走ります。クレアのターゲットとなる客が美容院の椅子に座ると、彼女はただ観察するだけでなく、恐ろしい「記念品」を手に入れるのです。
ある日、常連客のオリビアから結婚式のヘアセットを依頼されたクレアは、彼女の華やかな生活に強く惹かれます。この依頼をきっかけに、クレアの内なる混乱と欲望はさらにエスカレートし、彼女の行動は予測不可能な方向へと突き進みます。クレアの孤独と疎外感、そして異常な願望が交錯する中、物語は緊張感あふれるクライマックスへと向かいます。
この映画は、クレアの心理的葛藤とホラー要素を織り交ぜ、観客に深い不安と共感を同時に呼び起こします。
ファム・ファタル
瞬殺されたロックな女性が綺麗だったような…。ジェニファー・シュアード・デロックでしょうか…?
女優の活躍
本作『殺人美容師 頭の皮を剥ぎ取ります』の主演を務めるナジャラ・タウンゼントは、クレア役として圧倒的な存在感を発揮しています。彼女は、孤独で不安定な精神状態の美容師を演じ、繊細かつ力強い演技で観客を引き込みます。ナジャラは、クレアの表面的な穏やかさと、内面の激しい葛藤を見事に表現。特に、客との会話の中で見せる微妙な表情の変化や、殺人衝動が表面化する瞬間の狂気は、彼女の演技力の幅広さを示しています。ナジャラは過去に「スリーデイズ・ボディ 彼女がゾンビになるまでの3日間」(2013年)などのホラー映画で主演を務めており、ホラー映画における経験が本作でも活かされています。彼女の演技は、クレアの孤独感や異常性を観客に共感させる一方で、恐怖心も煽るバランスが絶妙です。
また、脇を固めるブレア・グラントも、オリビア役として重要な役割を果たしています。オリビアはクレアの欲望の対象であり、明るく社交的なキャラクターとして、クレアの暗い内面との対比を際立たせます。ブレアは、結婚を控えた幸せな女性としての自然体な演技で、物語にリアリティを加えています。
両女優の掛け合いは、物語の緊張感を高める重要な要素となっており、特にクレアとオリビアの関係性が深まるシーンでは、感情の機微を見事に表現しています。
女優の衣装・化粧・髪型
『殺人美容師 頭の皮を剥ぎ取ります』における女優の衣装、化粧、髪型は、キャラクターの個性や心理状態を強調する重要な要素です。
ナジャラ・タウンゼント演じるクレアの衣装は、美容師としてのプロフェッショナルな印象を与えるシンプルで機能的なスタイルが中心です。彼女は通常、黒やグレーなどの落ち着いた色のトップスに、エプロンを着用し、清潔感と職業的な雰囲気を保ちます。しかし、プライベートでは、やや地味で控えめな服装を選ぶ傾向があり、彼女の内向的で孤立した性格を反映しています。クレアの化粧は控えめで、ナチュラルメイクが基本。薄いファンデーションと淡いリップカラーが、彼女の平凡な外見を強調し、異常な内面とのギャップを際立たせます。髪型は、美容師らしく丁寧にセットされたミディアムヘアで、普段はシンプルなポニーテールやルーズなアップスタイルが登場しますが、彼女が頭皮を剥ぎ取った「記念品」を使用するシーンでは、被害者の髪型を模倣したウィッグを着用し、別人になりきる姿が描かれます。このウィッグの使用は、クレアの心理的変貌を視覚的に表現する重要な演出です。
一方、ブレア・グラント演じるオリビアは、華やかなライフスタイルを反映した明るい色のドレッシーな衣装が特徴です。結婚式の準備シーンでは、エレガントなドレスやアクセサリーが登場し、クレアの地味なスタイルとの対比が明確です。オリビアの化粧は、明るいチークや鮮やかなリップカラーで、社交的で自信に満ちた女性像を強調。髪型は、結婚式用の華やかなアップスタイルや、普段のシーンではナチュラルなウェーブヘアが登場し、彼女の魅力的な外見を際立たせています。
これらの衣装や髪型は、クレアの嫉妬や憧れの対象としてのオリビアの役割を視覚的に補強し、物語のテーマである「他者への憧れ」を強調しています。
感想
『殺人美容師 頭の皮を剥ぎ取ります』はサイコ・ホラー映画と宣伝されていますが、美容師がサイコパスなだけで、カツラのコレクションをうまく活かせず、別人になるのは最後までお預けでした。集めたカツラを普段から外出時に使っていれば、さらにサイコパスが重みを増したと思います。
本作は、70年代後半から80年代前半のエクスプロイテーション時代の最も悪名高く物議を醸したホラー映画のひとつとの関連性と類似性があります。ウィリアム・ラスティグ監督の『マニアック』の現代版であり、2012年にイライジャ・ウッド主演でリメイクされた作品でもあります。
もっとも、本作の見た目はまったく異なります。主人公のサイコパスは、花開いた職業キャリアと派手な社会的地位、そしてエレガントな容姿をもつ女性。ナジャラ・タウンゼントが演じるクレアは、ジョー・スピネルが『マニアック』で描いた不気味で下品な殺人鬼とは正反対。映画自体もずいぶん洗練された印象。
しかし、本質的にストーリーは同じ。本作のクレアも『マニアック』のフランク・ジトーも、孤独で、社会不適合者で、不器用なはみ出し者で、友情と受容を求めています。
『殺人美容師 頭の皮を剥ぎ取ります』は実に優れた説得力のあるスリラーで、非常に力強い(そして背筋が凍るような)オープニング・シークエンスから最大限の恩恵を受けています。残りの部分は、この素晴らしいイントロに支えられながら、効率的でゆっくりとした雰囲気の中で徐々に展開。オープニングで、一見優しくて世話好きの美容師クレアが、実は危険な殺人鬼であることがはっきりしたので、結婚間近のオリヴィアと親しくなっているときには、彼女がまた完全におかしくなってしまうのではないかとハラハラしながら待つことになります。アクションは多くありませんが、ホラー・モーメントは衝撃的で効果的。メスを入れる場面は、不気味なほどリアルな効果音のおかげもあって、見ていて不快になるし、油断した標的を目立たないようにクレアがつけ回す映像は、純粋にサスペンスフル。
トリビア
原作は2016年に公開された同名の短編で、主演女優は同じくナジャラ・タウンゼント。2018年のホラーアンソロジー映画「Watch If You Dare」に紹介されています。
ブルーレイに収録されているNG集に写っている拍手喝采は、この映画が2020年1月と2月に撮影されたことを物語っています。
連続性
クレアが入店した後、ドーンはコーヒーショップのドアを閉める。しかし、クレアはコーヒーを受け取ると、ドアが閉まっていなかったかのように、そのまま店を出て行くことができました。
事実錯誤
クレアがマンディの皮膚をマネキンの頭に乗せたとき、それはまだ血で濡れていたが、そこから取り出して自分の頭に乗せたとき、血はまったく垂れていませんでした。
クレイジー・クレジット
この映画の製作において動物は傷つけていません。しかし、2台の自動車がこの映画製作で傷つけられました。
解説
『殺人美容師 頭の皮を剥ぎ取ります』は、ジル・ガヴァーギジアン監督が2016年に手掛けた同名の短編映画を基にした長編ホラー映画。原題「The Stylist」が示すように、美容師という職業を通じて、主人公クレアの内面的な闇と社会的な孤立を描いた作品です。この映画は、1970年代後半から1980年代初頭のエクスプロイテーション映画、特にウィリアム・ラスティグ監督の「マニアック」(1980年)やその2012年のリメイク版(イライジャ・ウッド主演)に影響を受けた作風を持ちつつ、現代的で洗練された映像美と心理描写で独自の魅力を放っています。
クレアのキャラクターは、「マニアック」の主人公フランク・ジトーと同様に、孤独と社会不適合の苦しみを抱えつつ、異常行動を通じて自己を表現するサイコパスとして描かれます。しかし、クレアは女性としてのエレガントな外見と職業的な立場を持ち、従来のホラー映画の殺人鬼像とは異なる複雑なキャラクターとして際立っています。
映画は、グロテスクな描写を抑えつつ、リアルな効果音やサスペンスフルな演出で緊張感を高め、観客に心理的な恐怖を与えます。監督のジル・ガヴァーギジアン自身が10年以上ヘアスタイリストとして働いた経験を持ち、その視点がクレアのキャラクター造形や美容院のリアルな描写に反映されています。クレアの疎外感や、他人になりたいという願望は、監督自身の職業経験から着想を得たものであり、映画に深いリアリティを与えています。
また、ホラー映画としてのエンターテインメント性と、孤独やアイデンティティの探求といったテーマを融合させ、単なるスラッシャー映画を超えた深みを持たせています。日本の劇場公開は2023年1月6日で、「のむコレ6」特集上映の一環として、シネマート新宿や心斎橋で上映されました。批評家からは、クレアの心理描写の丁寧さや、ナジャラ・タウンゼントの演技が高く評価されており、ホラーファンだけでなく、心理ドラマに関心のある観客にも訴求する作品です。
キャスト
クレアの母親は、女優ナジャラ・タウンゼントの実母ドリンダ・タウンゼントが演じています。
2016年のオリジナル短編映画に出演した俳優のほぼ全員が、この長編映画にも同じ役柄で再登場しています。クレア役の主演女優ナジャラ・タウンゼントに加え、アンジェラ・デュプイが美容室のもう一人のヘアスタイリストとして再登場し、犬のペッパー(ジル・ゲヴァルギジアン監督自身の愛犬)がそれ自体として再登場し、ジェニファー・プラスがマンディ役で声のカメオ出演。
Kickstarterの支援者であるゲイリー・クーパーが、クレアの男性顧客ゲイリー役でカメオ出演しています。
- ナジャラ・タウンゼント(クレア役):孤独な美容師で、頭皮を剥ぎ取る殺人鬼。繊細な演技で心理的葛藤を表現。
- ブレア・グラント(オリビア役):クレアの常連客で、結婚を控えた明るい女性。クレアの欲望の対象。
- ジェニファー・シュアード・デロック(サラ役):クレアの被害者の一人。短い出演ながら印象的な役割。
- カイル・ガルナー(クリス役):オリビアの婚約者。物語の後半で重要な役割を担う。
登場人物 | 出演者 |
---|---|
クレア | ナジャラ・タウンゼント |
オリビア | ブレア・グラント |
サラ | ジェニファー・スワード |
ドーン・ネルソン | サラ・マクガイア |
チャーリー | デイビス・デロック |
モニーク | ミリー・ミラン |
ローズ | キンバリー・イグラ |
クリスティ | ベティ・レ |
ペッパー | ペッパー |
EZエディ | エドワード・パターソン |
金物店店員 | ジミー・ダラー |
ジル・シックス | ジル・ゲヴァルギジアン |
フランキー | ローラ・カーク |
フラワーガール | ウィーン・マース |
スタイリスト1 | リンジー・ソロモン |
スタイリスト2 | アシュリー・クカイ |
スタイリスト3 | アンジェラ・デュプイ |
エリザベス | ケルシー・ニコレス |
チェルシー | チェルシー・ブラウン |
ゲイリー | ゲイリー・クーパー |
エリック | エリック・ヘイブンズ |
クレアの母 | ドリンダ・タウンゼント |
バリスタ | ハレー・シャープ |
オリヴィアのいとこ | クリスティン・クレイトン |
大臣 | カイル・アメント |
新郎 | エリセオ・アレオラ |
花婿介添人 | ネイト・ミルフォード |
花婿介添人 | ジェームズ・コリン・リーチ |
結婚式のカメラマン | ジャック・シュロットフェルド |
お調子者 | スティーブン・ヒュー・ネルソン |
マンディ(声) | ジェニファー・プラス |
コーヒーショップのクリープ | ティモシー・イングリッシュ |
メイクアップアーティスト | アジー・アマニ |
結婚式ゲスト | エリカ・キョーリー・ジーリー |
スタッフ
- 監督・脚本:ジル・ガヴァーギジアン:ヘアスタイリストの経験を活かし、本作を短編から長編化。
- 脚本:エリック・ハヴェンス、エリック・ストルツェ:ガヴァーギジアンと共同で、クレアの心理を深く掘り下げた脚本を執筆。
- 製作:アンドリュー・ヴァン・デン・ハウテン、ロバート・ハウエル:インディペンデント映画の製作を支えたプロデューサー。
- 撮影:ロバート・パトリック・スターン:洗練された映像美で、ホラーと心理ドラマの雰囲気を構築。
- 音楽:ニコラス・エルモア:不穏なサウンドトラックで、緊張感を高める効果的な音楽を提供。
- 編集:ジョン・ピナ:効果的なカット割りで、サスペンスフルな展開を支える。
監督 | ジル・ガヴァーギジアン |
衣装デザイン | ハレー・シャープ |
衣装監督 | ケルシー・ジョンソン |
ヘアメイク | コートニー・ジョーンズ |
特殊メイク効果助手 | フィリップ・スプルエル |
ヘアスタイル | リンジー・ソロモン |
特殊メイクアップ効果 | コリーン・メイ |
まとめ
『殺人美容師 頭の皮を剥ぎ取ります』は、ジル・ガヴァーギジアン監督の経験と情熱が詰まったホラー映画であり、ナジャラ・タウンゼントの卓越した演技と、クレアの心理を丁寧に描いた脚本が光ります。衣装や髪型、化粧はキャラクターの対比を強調し、視覚的な物語性を強化。ホラーファンだけでなく、心理ドラマや人間の孤独に興味のある観客にもおすすめの作品です。インディペンデント映画ならではの独自の視点と、洗練された演出が融合した本作は、現代ホラー映画の隠れた名作と言えるでしょう。
レビュー 作品の感想や女優への思い