危険な関係
- 原題:危險關係
- 英題:Dangerous Liaisons
- 公開年:2012年
- 上映時間:110分
- 製作国:中国・韓国
- 撮影地:中国北京市
- ジャンル:ドラマ、恋愛
見どころ
チャン・ツィイー×チャン・ドンゴン×セシリア・チャンという豪華スター共演。ラブストーリーの名手ホ・ジノ監督がつむぐ偽りの恋愛ゲームは華麗でスリリングで官能的。
あらすじ
1931年の上海。女性実業家のジユは自分を捨てて年端もいかない少女と婚約した男への仕返しに、プレイボーイのイーファンに少女を寝取ってほしいと持ちかけます。しかし、百戦錬磨のイーファンが目をつけたのは、奉仕活動に勤しむ貞淑な未亡人フェンユーでした…。
ファム・ファタル
最近の中国映画もドラマも出演者が美人ラッシュでびっくりします。舞台は1931年の上海。作品全体でそれなりの雰囲気は出ていました。当時のアイコンである旗袍もたくさん登場。チャン・ツィイーの着ているものが一番しっかり作られてそう。
旗袍とメイクとヘアスタイルが醸し出す色気でいうと、あのお姉さん、朱太太(演・荣蓉)がファム・ファタル。
感想
個人的な印象や感情を重視し、ビジュアルや演技、物語の魅力と課題をバランスよくまとめてみます。
『危険な関係』を観終えた後、まず心に残るのは、1930年代の上海の絢爛豪華な世界と、そこに渦巻く人間の業の深さ。西洋と東洋が交錯する魔都・上海の雰囲気は、映画の大きな魅力の一つ。華やかなドレス、精巧な調度品、きらびやかなパーティー会場は、視覚的に圧倒的で、まるで当時の上流階級の退廃的な生活にタイムスリップしたかのような感覚に陥ります。とくに、チャン・ツィイーが演じるドゥ・フェンユーの着る旗袍(チャイナドレス)の美しさや、シーンの随所に散りばめられた美術の細部には目を奪われました。こうしたビジュアルの魅力は、ホ・ジノ監督の繊細な演出力と、韓国・中国のスタッフの技術力の結晶です。
物語は、富裕層のプレイボーイ、シエ・イーファン(チャン・ドンゴン)と女性実業家のジユ(セシリア・チャン)が、復讐と欲望を軸に危険な恋愛ゲームを繰り広げる過程を描きます。ジユが元恋人の新しい婚約者を破滅させようとイーファンに依頼しますが、イーファンは貞淑な未亡人フェンユー(チャン・ツィイー)に標的を変え、賭けを提案。この三角関係は、登場人物それぞれのエゴと脆さが交錯し、観客に人間関係の複雑さを突きつけます。とくに、フェンユーが純粋さから次第にイーファンの誘惑に飲み込まれていく過程は、チャン・ツィイーの抑えた演技によって心を揺さぶられます。彼女の表情や仕草からは、葛藤と愛の間で揺れる女性の内面が痛いほど伝わってきました。
一方、チャン・ドンゴンのイーファンは、魅力的ながらもどこか冷酷で、プレイボーイとしての自信と脆さが同居するキャラクター。彼の微笑みや挑発的な視線は、観客をも誘惑するような魔力をもちますが、物語が進むにつれ、彼の行動が単なるゲームを超えてしまう瞬間が描かれ、複雑な感情を呼び起こします。セシリア・チャンのジユもまた、権力と美貌を武器に振る舞いますが、彼女の内面には孤独と執着が潜んでおり、そのギャップがキャラクターに深みを与えています。三人の演技は、それぞれの役柄の魅力を最大限に引き出し、映画の緊張感を高めています。
ただし、物語の展開にはやや物足りなさを感じる部分もありました。原作や過去の映画化(1988年の『危険な関係』など)と比較すると、心理的な駆け引きの緻密さがやや薄く、感情の変化が急に感じられる場面も。とくに、フェンユーの心の動きがもう少し丁寧に描かれていれば、彼女の選択により強い説得力を持たせられたかもしれません。それでも、映画全体としては、豪華なキャストと美術、音楽が織りなす雰囲気が十分に魅力的で、恋愛の美しさと残酷さを同時に味わえる作品に仕上がっています。
個人的には、ラストの展開が特に印象的でした。登場人物たちの選択とその結末は、愛と欲望がもたらす破滅を象徴しており、観た後にしばらく余韻が残ります。1930年代の上海という舞台設定が、現代の観客にもどこか遠く夢のような世界を感じさせつつ、普遍的な人間の感情を描くことで、時代を超えた共感を呼びました。この映画は、恋愛映画としてだけでなく、人間のエゴと脆さを描いたドラマとして、じっくり味わいたい作品です。
解説
映画の背景、原作との関係、舞台設定、キャスト、監督の意図、文化的意義を分析的にまとめ、関連するWeb情報を適宜参照しました。
『危険な関係』は、ピエール・ショデルロ・ド・ラクロの小説『危険な関係』(1782年)を基にした中国・韓国合作映画で、ホ・ジノ監督がメガホンを取りました。原作は、18世紀フランス貴族社会を舞台に、策略と誘惑による恋愛ゲームを描いた書簡体小説で、これまで複数回映画化されてきました(1959年版、1988年版『危険な関係』、1999年の『クルーエル・インテンションズ』など)。本作の特徴は、舞台を1930年代の上海に移し、アジアのスター俳優であるチャン・ツィイー、チャン・ドンゴン、セシリア・チャンを起用した点。この舞台変更は、物語に新たな文化的文脈を付与し、視覚的・感情的な魅力を増しています。
物語の中心は、富裕層のプレイボーイ、シエ・イーファン(チャン・ドンゴン)と女性実業家のジユ(セシリア・チャン)が仕掛ける恋愛ゲーム。ジユは、元恋人が若い少女と婚約したことに腹を立て、イーファンに少女を誘惑してほしいと依頼する。しかし、イーファンは貞淑な未亡人ドゥ・フェンユー(チャン・ツィイー)に目を付け、彼女を誘惑できればジユが愛人になる、失敗すれば自身の土地を渡すという賭けを提案。この設定は、原作のヴァルモン子爵とメルテイユ侯爵夫人の関係を踏襲しつつ、1930年代上海の享楽的な上流階級社会に適応させています。
1930年代の上海は、東西文化が融合した「魔都」として知られ、映画はその雰囲気を最大限に活かしています。美術監督と衣装デザイナーの仕事は特に秀逸で、旗袍や西洋風のドレス、豪華な邸宅やパーティー会場は、当時の上海の繁栄と退廃を見事に再現。音楽も、クラシックとジャズが混ざり合い、物語の官能的なトーンを強調します。この時代設定は、原作のフランス貴族社会の閉鎖性とは異なり、グローバル化と近代化の狭間で揺れる上海のダイナミズムを反映し、物語に新たな層を加えています。
キャストの演技も本作の大きな魅力。チャン・ツィイーのフェンユーは、亡夫の遺志を継ぐ純粋な女性として登場し、イーファンの誘惑に抗いながらも心が揺れる姿を繊細に表現。彼女の演技は、抑制された感情の爆発と脆さを捉え、観客に深い共感を呼びます。チャン・ドンゴンのイーファンは、自信家で冷酷なプレイボーイですが、フェンユーへの感情が芽生えることで内面の葛藤が垣間見えます。彼の魅力的な外見と微妙な表情の変化は、キャラクターの複雑さを際立たせます。セシリア・チャンのジユは、権力と美貌を操る女性実業家として、冷徹さと脆さの両方を体現。とくに、彼女の孤独感が物語後半で浮き彫りになる場面は、キャラクターに深みを与えています。
ホ・ジノ監督は、『八月のクリスマス』や『四月の雪』で知られるロマンスの名手であり、本作でも感情の機微を丁寧に描きます。ただし、原作の心理戦の緻密さに比べると、脚本はやや簡略化されており、キャラクターの動機や感情の変化が急に感じられる部分があります。これは、110分のランタイム内に複雑な三角関係を収める難しさからくる限界かもしれません。それでも、監督のビジュアル重視の演出とキャストの演技力が、物語の欠点を補い、観客を引き込みます。
本作は、第65回カンヌ国際映画祭の監督週間やトロント国際映画祭、釜山国際映画祭で上映され、国際的な注目を集めました。批評家の反応は賛否両論で、ビジュアルとキャストの魅力は高く評価された一方、原作ファンからはストーリーの簡略化や深みの不足を指摘する声もありました。Filmarksのレビューでは平均3.3点(575件)と、一定の支持を得つつも、突出した評価には至っていません。
文化的文脈では、本作はアジア映画の国際的なコラボレーションの好例であり、中国と韓国のスター俳優・スタッフが集結した点で意義深いです。上海という舞台は、植民地時代のアジアの複雑な歴史を背景に、普遍的なテーマである愛と裏切りを描くための理想的なキャンバスとなっています。映画は、恋愛の美しさと破壊性を同時に浮き彫りにし、観客に人間の欲望の二面性を考えさせる作品。
キャスト
登場人物 | 出演者 |
莫潔宇 | セシリア・チャン |
クシー・イーファン | チャン・ドンゴン |
杜芬郁/イーファンの叔父の孫娘 | チャン・ツィイー |
戴文洲 | ショーン・ドウ |
杜瑞雪夫人 | リサ・ルー |
朱夫人/北兵衛の母 | ロン・ロン |
アーウェン/朱夫人の女中 | ユン・チャン |
シャオ・ホン / ジエユのメイド | ファン・ウー |
アーゲン | グオドン・チェン |
モー・ジーユー(声) | チュン・シャオ |
ポール / フランス人仕立て屋 | ジャン・ファヴィ |
福士誠治 | |
ダンシング・ガール | 姜暁熙 |
鉄廷姫(京劇) | 葛翔如 |
社交界の女 | ダントン・ハン |
若い乞食 | リ・シピン |
ベイベイ/ジン・ジーファンの婚約者 | 王飴 |
カイ・ルー(声) | ヤンウェイ・ワン |
レイワー | ドン・シャン |
グイ・ジェン | シュリ・シャオ |
ヤン・ヤンホイ(京劇) | 徐建中 |
警察官 | ファン・ヤン |
ウー・シャオプー/デモ隊員 | 葉祥明 |
ジン・ジーファン/北兵衛の婚約者 | ハン・チャン |
クシー・イーファン(声) | 張傑 |
蔡魯 | 張志晨 |
警部 | ゾン・シャオジュン |
スタッフ
担当 | 担当者 |
衣装デザイン | ミギー・チェン |
レビュー 作品の感想や女優への思い